【報告】双葉町不動産についての「全損」和解案提示のご報告

双葉町不動産についての「全損」和解案提示のご報告

 

平成24年10月18日

原発被災者弁護団

 

 

 

平成24年10月5日,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)は,原発事故当時双葉町に居住し,不動産を所有していた申立人に対し,申立人所有の双葉町内のすべての不動産(福島第一原発から約3~4キロ圏内)について,「全損」を前提とした和解案を提示しました。

 

 

東京電力は,平成24年7月20日に政府から公表された「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を踏まえ,同年7月24日に賠償方針を公表していながら,双葉町については,まだ国の区域の見直しが完了していないという理由で「追って認否」の態度をとり続けていました。

 

 

これに対し,当弁護団は申立人の居住地及び不動産所有地は,現在でも放射線量が高く,除染の動きもない地域であり,それらの事情を考慮すれば,今後相当長期にわたって帰れない地域であることは明らかである旨を主張し,区域見直しの完了の如何に関わらず早期に「全損」を前提とした不動産賠償和解案を出すようセンターに強く求めていました。

 

 

今般,センターが提示した和解案の提示理由書(末尾に全文PDFを掲載)要旨は以下の通りです(下線は当弁護団)。

文部科学省が公表している放射線量モニタリングマップによれば本件不動産は帰還困難区域に指定されない可能性がある。

しかしながら,人間は,行動する社会的存在である。空間線量率の低い場所にじっと留まっているだけでは生きていけない。日常生活を送るための買い物のために,自宅から離れた場所に出かけていく必要がある。勤労や就学のためには,自宅から離れた地に往復しなければならない。不動産の価値ないし価格の減少を検討する際には,対象不動産の所在地1点ではなく,その周辺地域も含めて,人の社会的・経済的活動を成り立たせるだけのある程度の広がりを持った面で考える必要がある。

この観点に立って,本件の不動産について検討すると,不動産の僅か1㎞北方ないし北東部には19μSv/h以上の地点があり,これらの周辺には駅,役場,病院,学校等の生活に必要不可欠な施設が多数存在する。1㎞は大人が歩いて15分で行き着く地点である。また,南西方向には2ないし3㎞未満の地点に19μSv/h以上の地点が多数あり,これらの地点が帰還困難区域に指定されることは明らかである。以上の地点を含むコミュニティの回復なくして本件の不動産を起点として社会的・経済的活動を営むことはできない。そうすると,本件の不動産も社会的な効用を失ったと言わざるを得ない。

また,財物の価値ないし価格は,当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受けるものであるが(中間指針第3の10備考3),福島第一原子力発電所から本件の不動産までは3~4㎞程度しか離れていない。このことに照らしても,本件の不動産の市場価値は当面失われたと認めるのが相当である。

以上の点から「全損」と評価した次第である。

 

 

 

本和解案は市場価値の賠償を前提として,不動産評価も東京電力の基準に拠ったものです。当弁護団が本来求めている被害者の生活再建のための賠償基準(http://ghb-law.net/?p=505)とはおよそかけ離れたものであり不動産評価額については,課題が残ると言わざるを得ません。また,和解案の提示についても決してすみやかであったとはいえません。

 

 

ただ,国の区域見直しが完了していない地域について,それにとらわれることなくコミュニティの回復という町の機能や人の日常生活の活動領域に着目して一歩踏み込んだ判断をしたことは一定の評価ができるといえます。また,不動産・財物の賠償が遅々として進んでいないことに将来への不安と不満を募らせている現状において,被害者の方々に僅かながら希望を抱かせるものになり得るのではないかと考えています。

 

 

本和解案は,先般提示され,既に当ホームページでも報告をしている浪江町の不動産賠償和解案(http://ghb-law.net/?p=523 ※東京電力の上申により回答期限が延長されました)同様に和解案に対する回答期限が10月末日となっています。

 

 

 センターには引き続き,区域見直しに関わらず被害者が徒に放置されることなく、早期に生活再建できるような賠償和解案をすみやかに提示していくよう望むとともに,東京電力には「全損」とした和解案を尊重することを強く求めます。

 

 

 

以上

 

 

 

和解案の提示理由書は こちら(PDF