和解事例集

原発被災者弁護団・和解事例集I

平成25年3月28日 東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団

  • ※原発被災者弁護団では、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」)への申立てを、これまで数多く行ってきました。この和解事例集は、その中の一部を成果としてまとめたものです。いずれも、原紛センターが和解案の提示を行い、和解が成立した案件です。
    なお、この他に、平成23年(東)第521号事件(南相馬市原町区住民の集団申立案件)の和解案提示理由書の内容について、別紙として添付いたします。すでに弁護団のホームページにてご報告しているものです。
  • ※内容に誤解を与えるおそれのある点が存在するなど、後日訂正の必要が生じた場合には、適宜更新を行いますので、よろしくご了承ください。
  • ※依頼者の個人情報に触れる場合など、事案の詳細についてご質問いただいてもお答えできない場合があります。ご理解下さい。
  • ※皆さま方の損害賠償請求の参考にしていただけたら幸いです。原発被災者弁護団では、これからも情報発信を行っていきたいと存じますので、皆さま方の有益な情報もお寄せいただければ幸いです。

避難費用

  • ( 1)高齢の避難者において、本人のみでは移動できないために付添人と一緒に避難した際の交通費を認めた。
  • ( 2)ペットの世話のための交通費を月額2万5000円として請求対象期間である18カ月分を認めた。
  • ( 3)タイヤ代、知人宅葬式への交通費・宿泊費,分離した家族間の往復交通費を認めた。
  • ( 4)仮住居からの最終的な移転費用(引越費用)として、1人当たり15万円(1回限り)を認めた。

知人・親戚宅宿泊等の謝礼等

  • ( 5)避難を手伝ってくれた親族への謝礼(引越し謝礼)全額を認めた。
  • ( 6)世話になった関係者への心付け(4万円程)全額を認めた。
  • ( 7)親族宅宿泊費として現実支払い分を認めた。申立人1人、1日4000円相当。本件は現実に支払があった事案であるが、「現実の支払いや領収書の有無にかかわらず」という仲介委員のコメントがあった。
  • ( 8)親戚宅に避難した際、夕食をご馳走したり、買い物時に出費したりした実額を認めた。
  • ( 9)領収書がなく、記憶に従って請求したところ、宿泊にかかった実費の賠償を認めた。

生活費増加分(食費以外)

  • ※消耗品や化粧品を除き、家電製品、家具、衣類、日用品などに関しては、レシートによる具体的主張があれば、基本的に東電は賠償に応じる。
  • (10)東電は、冷蔵庫、テレビに関して、購入価格全額ではなく標準的な価格帯をベースに損害額を算定すべきであると主張したが、パネルは「申立人が購入した家電製品は、標準的な価格帯から著しく乖離しているものではなく、申立人らの従前の生活状況から見ても殊更に高価な家電製品を購入しているとはいえない」として、現実に支出した金額を認めた。
  • (11)携帯電話料金の具体的な増額分につき全額を認めた。
  • (12)ミシン、パソコン、プリンター、カーナビを認めた。
  • (13)カーナビ、ブルーレイレコーダーにつき、東電が答弁段階で認めた。
  • (14)レシートがなくても、本人がノートに店名、主な購入品、購入額合計を記していた場合には、東電は答弁段階で認めた。和解案は,ブルーレイレコーダーも認めた。
  • (15)家財道具、学用品、食材、交通費について、家計簿のみの提出で請求額の8割(約140万円)を認めた。
  • (16)避難先での葬儀費用、送迎バス代等の増加交通費を認めた。
  • (17)避難先宿泊施設を無償提供してくれた知人の葬式に参列するための交通費増加費用相当分を認めた。
  • (18)38万円程の高額なガイガーカウンター購入費用を全額認めた。

生活費増加分(食費)

  • (19)家族3名で東京都に避難。自家消費野菜を栽培していた点につき、野菜増加分1か月5000円×12か月を認めた。政府統計を利用したとのパネルのコメント。
  • (20)自家消費野菜栽培の世帯。全てレシートを提出。東電は、米・味噌・魚・野菜のみ応じたが、和解案は東電が否認したものを含め請求額の9割を認めた。
  • (21)自家消費野菜栽培の世帯。食費増加分について、政府統計を基に1年間の米代と野菜代を算出し請求通り認めた。
  • (22)自分では野菜を作っていなかったが、姉や周囲の方から野菜をもらっていたため野菜購入費分の生活費が増加したとして一時金4万円を認めた。
  • (23)米野菜につき521号事件基準(年12万円)を採りながらも,自家栽培ではなくお裾分けを受けていて購入していなかったにすぎない点を考慮して2割減の年間9万6000円程を認めた。
  • (24)家族離散による食費増加について,原則として通常の生活費の増加分として慰謝料に含まれるとしつつ,世帯が3つに増え、それに伴い実際に増加した食費の領収証も全部出ているので,全て通常の生活費の増加分ともいえないとし,請求額の約3分の1(約23万円)を認めた。

精神的損害(避難に伴う慰謝料)

  • ※原則として清算条項は付されていない。
  • (25)平成23年3月〜9月につき避難移動多数回で10万円増額した。同期間につき、障がいのある者については月額3割増し+避難移動多数回10万円増額した。
  • (26)家族の別離に対して、1年間で月額2割増しした。母親のみ避難移動多回数を理由に3月のみ5割増しした(18万円)。
  • (27)避難回数5回、仕事を求めての二重生活、ペット喪失とこれを原因とする親子関係の亀裂。当初、一時金として100万円増額の和解案だが東電が抵抗、結局55万円増額+25万円を営業損害に上乗せ(理由はなし)となった(和解対象期間は1年)。
  • (28)避難が原因で歩行困難になった、病気の悪化に伴い手術をした、ストレスで帯状疱疹発症などを理由に、入通院慰謝料のほか、1年間月額3万円増しした。
  • (29)出産予定日直前に避難、予定日をすぎて受入病院が決まる、帝王切開による出産となる。一時金として夫30万、妻50万円を増額した。加えて、夫、妻、新生児につき月額2割増しした。
  • (30)妊娠中の避難と避難中の出産に対して、7か月間で10万円を増額した。
  • (31)「生活の基盤、日々の暮らしを一瞬にして失った」(終の棲家を失った)ことに対して、避難生活に伴う慰謝料とは別であるとして夫婦に各50万円を認めた(本件和解対象期間は9か月間)。
  • (32)「今後の生活の見通しに対する不安が増大したことにより生じた精神的損害」として、一時金20万円を認めた(本件和解対象期間は1年1か月分)。
  • (33)重篤な持病(大腸がん)を抱えたままの避難による一時金増額として25万円を認めた。
  • (34)墓参りができないことを理由に一時金5万円を認めた。
  • (35)飼い猫の死亡に対して、夫婦に各5万円を認めた。
  • (36)1か月愛犬を置き去りにしてきたこと、その後愛犬を親戚宅に預けておかねばならない状況、その親戚に世話の費用として月1万円を払っている状況を総合して、3万円を増額した。
  • (37)震災後都内の大学に入学した方につき,大学入学後は避難生活とは言い難いが,帰るべき実家を失ったことの損害等として,大学休暇期間に相当する中間指針の慰謝料の3割分を認めた。
  • (38)住民票が東京にあり、自宅も東京にあるが、平成22年より福島に転居し、母親の稼業を手伝っていた申立人が事故後東京の自宅で生活したことについて、通常基準どおりの日常生活阻害慰謝料を認めた。
  • (39)父親が他県に単身赴任。住民票は富岡町に置いており、自宅も所有。単身赴任中は月に1度富岡町に帰っていた。東電は、直接被災・避難していないとして慰謝料ゼロを主張。仲介委員は、通常の基準のほぼ半額(1年間で60万円)を認めた。
  • (40) 1歳の乳児を連れての避難と家族離散を考慮し、1人につき月額13万円(中間指針の10万円+3万円)を認めた。
  • (41)車椅子での避難生活の困難、愛犬との別離、長期の帰宅困難等を考慮し、平成23年3月〜平成24年7月の請求期間について、月額25万円の慰謝料の和解提案→東電は、平成23年3月〜平成24年7月について月額15万円+一時金170万円を反対提案⇒「月額20万円+一時金85万円・仮払金控除なし・清算条項あり」という内容の和解となった。
  • (42)家族の別離を理由に月2割増額、高校3年に進級する直前で避難を余儀なくされた被害者についての「受験生活に関連する慰謝料」一時金50万円を東電が認否の段階で支払うと表明した。仲介委員の和解案も同様の内容。
  • (43)高齢、持病のリウマチの悪化によって月額3万円の増額を認めた(10か所の避難先変更、家族の不和などの事情もある)
  • (44)飼っていた犬が避難先の交通事故(電車と接触)で亡くなった事例につき,一時金として10万円を認めた。避難前は電車を見る環境で飼っていなかった点が考慮された。
  • (45)南相馬の津波被害で自宅が全て流された方についても、(元の家の近くではなくわざわざ)関東地方まで避難することになったのは原発事故が原因であるとして、7か月間月額10万円を認めた。本事例では,震災直後の避難費用については、津波被害によるものとして否定されたが、その後遠方まで避難したことによる費用については認めた。
  • (46)第1次申立において認められた増額事由について、第1次申立以降の時期を請求した第2次申立においても同じように増額事由を認めた。なお、本申立では、第1次パネルと同じパネルにて審理されたため第1次申立にて提出した書証の再提出は不要とされた。
  • (47)避難中に認知症を発症した高齢女性について慰謝料を30万円増額、避難中に統合失調症の症状が悪化した30代男性について慰謝料を70万円増額した。平成24年5月末までが和解対象期間。
  • (48)主として家族の分離を考慮し月額3万円の増額を認めた。水道光熱費の増加分を実質的に考慮した。
  • (49)浪江町からの避難者1家5人。家族別離を理由に全員月額+3万円(21か月)、(あまり重くない)持病ある申立人についてさらに月額+1万円、避難回数が多い申立人についてさらに月額+1万円(半年間)、総額で約350万円の増額を認めた。
  • (50)透析患者で障害者手帳1級のため4割増しした。
  • (51)避難等対象者性が問題となった事例。富岡町からの避難者で、事故前は広野町勤務。会社が風評被害により成り立たなくなり、「他県での勤務を希望するか、退職するか」を迫られ、やむを得ず他県勤務を選択したところ、転勤したため東電から賠償打ち切り主張された。その後、申立人側の主張を受け入れ、東電は避難等対象者であることを認めた。
  • (52)避難等対象者性が問題となった事例。本件原発事故当時東京で勤務していたものの、大熊町に自宅と住民票があり、妻子は福島で生活し、毎週末福島に帰って地域活動に参加していた。申立人側の主張を受け入れ、東電は避難等対象者であることを認めた。
  • (53)治療中の治療ができずに発育に影響が生じた子どもについて、(入通院慰謝料としてではなく)日常生活阻害慰謝料の増額を認めた。具体的には、平成23年3月から7月までの5か月間は各10万円増、その後の10か月間は各3万円増の合計80万円。
  • (54)「日常生活阻害慰謝料」の一部和解案提示理由書に、「なお、申立人らが請求していないその他の精神的損害(福島での生活を断念したことに関する慰謝料等)は本和解の対象外。」と明記された。

精神的損害(入通院慰謝料)

  • ※「赤本」とは、「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」(財団法人日弁連交通事故相談センター東京支部)である。
  • ※原則として、清算条項は付されていない。
  • (55)診断名「急性ストレス反応、心因反応、抑うつ状態」で請求額52万円(赤本別表Ⅰ通院2か月)に対して、東電は実日数の自賠責基準(1日4200円/4万2000円)を主張。パネルは、①赤本基準を採用。②別表Ⅱはむち打ちに限定して適用されるものであり、精神的障害も赤本では別表Ⅰによるべき。③通院実日数ではなく、通院期間を基準にするべき。④その上で、一切の事情を考慮するとして、50%減額し26万円を認めた。
  • (56)避難生活で足に痛みが生じ、一時的に歩行困難になって通院した申立人に長女が付き添った。付添費用として通院1日あたり3000円、合計6万6000円を認めた。
  • (57)通院実日数17日間の事案で、17日×3.5(「通院が長期にわたり、かつバラツキがある場合には実日数の3.5倍程度を慰謝料算定のための通院期間の目安とする」との赤本の考え方)=59.5として、赤本別表Ⅰによる2か月分の通院慰謝料52万円を認めた。
  • (58)「因果関係あり」との東電書式診断書のある「歯牙破折」の事案(ストレスによる歯ぎしりが原因)で、生命・身体的損害について、実通院日数×3.5を元に赤本別表Ⅰによる72万円全額を認めた。
  • (59)PTSD、腰痛等を患った者が、平成23年3月より平成24年5月まで51日間通院したケース。実日数×3.5が約6ヶ月であるとして、赤本別表Ⅰによる116万円を認めた。
  • (60)胃潰瘍を患った者が、平成23年9月末より平成24年3月まで入院2週間、通院5回したケースにつき、赤本別表Ⅰに基づき94万円を認めた。

営業損害

  • (61)震災当日が開業予定日だった飲食店経営者につき、賃金センサスに基づく主張。従業員となるはずであった娘の就労不能損害については予定されていた給与額を主張(それ以前の他での就労状況に関する給与所得を証する書面も提出)。いずれも認められた。
  • (62)平成23年から営農を始めようとしていた場合につき、営農計画書(農地法3条の規定による許可申請の添付資料)+JAより入手した各作物の経営指標に関する書面を提出し、請求通り(平成23年分)認められた。
  • (63)造園業者について、売上高が昨年よりも350万増加する見込みであることを主張し、250万円の増加が認められた(1年分のみの請求)。
  • (64)借地上建物を賃貸していた将来の賃料につき、平成25年12月までを認めた。もともと契約期間は明確ではなかった(開業医がしばらく借りるということで5年間という約束ではあった)ところ、一般的な開業準備期間が3年であることを証拠で提出し、受け入れられたもの。
  • (65)縫製工場(自身も長期間操業停止)。得意先会社(本件事故の間接被害者)より振出しを受けていた手形の不渡りにより、手形割引を受けた取引銀行から手形買戻債務と遅延損害金を請求されている損害。パネルは、間接被害者の破産債権者がみな東電より賠償を受けられることになってはおかしいとしつつも、約27パーセントの和解提案。東電が抵抗し最終的には約18パーセントで和解成立。
  • (66)旧緊急時避難準備区域の零細農家(確定申告しておらず)。平成23年度の菊の作付け断念分、露地野菜の作付け断念分の逸失利益の請求。平成23年は平成22年の作付け面積よりも拡大し3倍の売上げが得られたはずであると主張。パネルは一定の理解を示し、請求額の7割(東電自認額の2倍弱)を認めた。
  • (67)将来3年分の廃業損害を粗利ベースで認めた。粗利ベース損害認定に対し、東電から「廃業を前提とするのだから、粗利から、租税公課・損害保険料・減価償却費及び利子割引料を控除しないのはおかしい」との反論を受けたが、「減価償却費及び利子割引料は既に購入した営業用財産や借入に対する費用なのだから、廃業するにしても最終的には清算しなければならない性質のものであり、控除することはおかしい」との再反論が採用され、控除されないこととなった。なお、「3年分」という数字は、センターの提案によるもの。
    営業用財産の賠償については,未だ成立例がないとのことで,和解の対象外。
  • (68)個人で営んでいた新聞店の営業損害。事故後も、事業の再開に備えて事務所を東京に移し、新聞社や金融機関との調整などの活動を行っている。事故後の売上はゼロだが、活動経費を請求。事故後の活動継続の必要性、家族従業員に対する給与の相当性等をめぐって争いがあったが、パネルは約67パーセントを認めた。また、事故時に存在した新聞購読者に対する購読料の売掛金について、パネルは、全額が回収可能であったかどうか不明な点もあることなどを考慮し、購読者が避難して回収困難となった売掛金の半額を認めた。
  • (69)電力会社の集金員や検針員として稼働していた申立人について、担当区域の顧客が減少したことにより収入減が生じていたところ、その損害額の算定の前提となる人口減の原因を16%が津波、84%が原発被害による人口減少だと認定した。
  • (70)外国人向け免税店の損害賠償(風評被害)につき、原発事故の寄与率が、東京店・大阪店・札幌店は75%、茨城空港店は50%と認定された。茨城空港の寄与率が低いのは、航空会社による欠航等の事情を勘案した結果。
  • (71)旧緊急時避難準備区域に本社兼工場を有する企業の事案。減収率を計算する際に、利益率が通常の取引と比較して大幅に低い、本件原発事故後のOEM取引による売上高を含めるかが争点となったが、和解案はOEM取引による売上高の半分を減収率の計算に含めるとした。
    また、東電は地震による影響を主張し、平成23年3月中は、仮に本件原発事故がなかったとしても震災の影響で操業は再開できなかったはず、だから平成23年3月分は逸失利益の計算から差し引くと主張。申立人は、震災だけなら1週間程度で操業再開は可能だったと反論。和解案は、3月11日から2週間程度は本件原発事故がなくても震災の影響で操業再開が困難だったと判断し、請求対象期間6か月(平成23年8月まで)を24週とみて、逸失利益の2/24=1/12を控除した。
  • (72)旧緊急時避難準備区域の建設会社の事案。本件原発事故のために完成不能となった工事について、受領済みの工事代金を返金しなければいけないと主張したところ、減収率の算定上、当該工事代金を除く形で考慮された。
     警戒区域等に残してきた大工道具類の財物損害について、請求額(新品の再調達価格)の約2割の110万円を認めた。道具類の特定や、帳簿価格、購入時期の特定が困難だったこと等が考慮された。
  • (73)本件事故直前に設立の東京の和牛輸出業者。海外業者と契約し輸出の準備をしていたが、本件事故の風評被害により輸出ができなくなった(外国政府の輸入禁止方針)。転売差損として請求額の約84パーセントを認めた。
  • (74)段ボールの箱等梱包資材を販売する業者の、平成23年3月〜12月の売上について、申立人が本件原発事故によって減収が生じたと主張した約50社の取引先との間の売上高の前年度との差額をベースに損害額が算定された。差額の8割が事故と相当因果関係のある損害であると認定された。きのこの販売禁止・自粛に伴い、きのこのパッケージング作業ができなかった点については100%の損害と認められた。貢献利益率は、決算書を基に東電側が算定した数字に対して、固変分解の内訳を争った結果、申立人の主張どおり認められた。

就労不能損害

  • (75)事故当時1年間の契約社員。東電は、契約残り期間の給与の減収分のみが損害と主張。申立人側は、契約の更新を受けられる合理的期待があり、実際1年の契約社員としての勤務を問題なく終えれば正社員に昇格するという話も出ていたと主張。仲介委員は、請求全期間(事故後1年間)における給与の減収を損害として認めた。
  • (76)大熊町の就労先を解雇され、いわき支社に再雇用されたケースで、同様の会社であること、従来の就労先との継続性・安定性が認められるが、子供との別居を強いられたことなどを考慮し、再雇用後の給料のうち3割までを控除するとされた。
  • (77)自営している会社の役員報酬を請求。当初、平成22年度決算の赤字額が大きかったため東電が支払を拒んでいたが、明細や通帳の写しを提出し、約1年で約400万円以上の全額を認めた。
  • (78)いくつかの収入がある中で、給与が現金支給で明細も確定申告もなかった部分(ゴルフ場内の飲食スタッフ)につき、請求金額の半分を認めた。
  • (79)事故当時、団体職員であり、平成23年3月末で定年退職後,再雇用を希望していた。再雇用されれば、月25万円程度の給料を得られるはずであった(このことを直接証明する書面はないが、本人が希望すれば原則再雇用する旨の規則、正社員以外の60歳〜64歳男性の平均給与が24万円である旨の統計資料は提出)。しかし、本件事故により、団体の収入が激減したため、再雇用の話が立ち消えになった。和解案は、請求額の3割の限度で就労不能損害を認めた。

財物損害(不動産)

  • ※原則として、清算条項は付されていない。
  • (80)大熊町所在、福島第一原発から約5キロの不動産。平成10年新築・2120万円の借地上建物。パネルは経年による価格損耗分(減価償却費相当額)を控除した額(約1410万円)をもって損害額(本件事故時の時価)とする。さらに、損害賠償による代位(民法422条)を考慮し現在の価値をその5%と見積もり、これを控除した約1340万円の内払いを提案し和解成立。清算条項無し。借地権、樹木は和解案に含まず。
  • (81)大熊町所在、福島第一原発から約2.5キロの不動産。借地上の自宅建物所有について、平成12年時に新築した際の取得価格(約2509万)から減価償却費相当額を控除し、1739万4000円を認めた。なお、「今後統一的な評価方法が定められ、その方法によって算出された時価額が上記金額を下回ることとなる場合があったとしても、そのことは現時点においては予測不可能であるから、清算しないこととするのが相当である。」と注記。借地権は和解案に含まず。
  • (82)大熊町所在の不動産。商業地における店舗兼住宅の賠償事例。土地については、ほぼ商業地の公示価格のまま(2000万円)、建物については国税庁雑損控除の基準に基づいて金額の提示がなされた(1450万円)。内払の和解であり、清算条項はなし。
  • (83)南相馬市原町区で事故前1378万円の物件(土地及び住宅簡易価格査定書の評価額)を平成24年3月に1100万円で売却した事例において、その差額278万円を損害として認めた。その他、登記費用、仲介手数料、処分費用、移転費用等は認められたが、リフォーム費用は認められなかった。清算条項あり。
  • (84)浪江町の不動産(福島第一原発から約10キロ、29キロ、31キロ)について、全損扱いとし、ほぼ東電基準に従って算定。東電は避難指示期間割合を36/72=1/2とする提案だったので、全損と認められたことにより約2倍の提案。全損認定の理由として、浪江町津島方面の線量が高い、浪江町中心部が原発からの距離が近くイメージが悪化、まだら的に線量が高く町の機能が戻らない、常磐線復旧見込み無しなどを考慮したと。申立人の数は5名。
  • (85)双葉町の不動産(福島第一原発から約3〜4キロ)について、全損と認定し、東電基準に従って合計約7000万円と算定した。全損の理由として、和解案提示理由書において、「人間は、行動する社会的存在である。空間線量率の低い場所にじっと留まっているだけでは生きてはいけない。」「不動産の価値ないし価格の減少を検討する際には、対象不動産の所在地1点ではなく、その周辺地域も含めて、人の社会的・経済的活動を成り立たせるだけのある程度の広がりを持った面で考える必要がある。」「財物の価値ないし価格は、当該財物の取引等を行う人の印象・意識・認識等の心理的・主観的な要素によって大きな影響を受ける・・・福島第一原発から本件の不動産までは3〜4km程度しか離れていない。このことに照らしても、本件の不動産の市場価値は当面失われたものと認めるのが相当」等と指摘。清算条項なし。
  • (86)双葉郡の自宅について本件原発事故3か月前に建物の大規模リフォームをしていた事案。リフォーム代金全額が、建物の賠償と別途に損害として認めた。土地・建物・建物リフォーム代を含めた財物損害全体について清算条項なし。
  • (87)大熊町、5キロ圏内につき全損とされた。東電・経産省方式3(個別評価)が検討されたが、結局は通常の東電基準の賠償となった。清算条項なし。

財物損害(家財)

  • (88)大熊町所在、福島第一原発から約5キロ。請求金額1080万円(火災保険基準)に対して、東電認容額(その根拠は不明確)の約835万円を認めた。
  • (89)大熊町所在、福島第一原発から約2.5キロ。請求金額1000万円(火災保険基準)に対して、全額を認めた。
  • (90)家財について、1500万円を認めた。金額の根拠は、火災保険の契約締結金額1900万円をベースにした内金払い。
  • (91)大熊町所在。着物などを新品価格で積み上げていって1455万0910円を請求したところ、新しく買った財物の賠償を認めるのでその分残してきたものから減額調整をするとし、減価償却として70%程度にして概算で900万円の提示がなされた。

財物損害(自動車)

  • (92)レッドブック(平成23年3月号)に基づき本件事故時の車両の価値を61万円と算定。賠償者の代位を考慮し、55万円の内払いを認めた。
  • (93)車輌売却損約51万(レッドブックによる中古車販売時価(下取り額ではない)-売却代金)を認めた。
  • (94)原発で勤務していた申立人が原発事故時に放置した車両について除染を受けた後H23.7に受取り。避難先の東京に持って行くのは困難で売却せざるを得ず、売却代金は約20万円。事故当時、車両のローンが70万円近く残っていた。東電は、ローンの有無に関わらず、申立人は適正な価格で車両を売却したので損害はないと主張したが、仲介委員はローンと買取価格の差額をほぼそのまま損害と認めた。

除染費用

  • (95)自宅(南相馬市の旧緊急時避難準備区域)の周囲の生け垣(ヒノキ)の線量が高いため、切って代わりにブロック塀を建てる費用を見積もって請求。自宅除染費用(見積額)約207万を認めた。
  • (96)南相馬市の旧緊急時避難準備区域内の貸しアパートの除染費用(実際に出費したもの)として請求どおり13万5000円を認めた。
  • (97)南相馬市原町区。実際に出費した除染費用を請求した複数世帯について、ほぼ請求どおり認めた。最高額は約90万円。

弁護士費用

  • (98)本人申立後に受任した事件についても3%の弁護士費用を認めた。
  • (99)仮払金控除前の金額を基に3%を計算した事例多数。仮払金について清算義務があるという東京電力の主張を前提とすると,仮払金控除の部分についても,清算義務という債務を免れたことになり,経済的利益としては賠償金を受領するのと同様と考えられることから,仮払金控除前の金額を基に弁護士費用を算定するのが正当と解される。
  • (100)2億5000万円弱の和解案のケースにつき1%の弁護士費用を認めた。
  • (101)10億円超の和解のケースについて、約2%の弁護士費用を認めた。旧弁護士報酬規定の訴訟の着手金+報酬金の標準金額の30%程度を相当と認めたとのこと。

自主的避難者案件

  • (102)いわき市からの自主的避難者。H23.3〜H23.9の避難について合理性があると認めた。実費請求分についてはほぼ全て認められた(約40万円)が、慰謝料は4万円+墓参りができなかった等で1万円のみ。4万円を除く部分につき和解成立。
  • (103)いわき市からの自主的避難者。避難費用、一時帰宅費用、生活費増加分を認めるが、慰謝料は4万円のみ。慰謝料を除く部分について和解成立。

その他

  • (104)「日常生活阻害慰謝料」の一部和解案提示理由書に、「なお、申立人らが請求していないその他の精神的損害(福島での生活を断念したことに関する慰謝料等)は本和解の対象外。」と明記された。
  • (105)遅延損害金につき、「ただし、第1項記載の損害項目の遅延損害金部分は、本条項の対象外とする。」との文言が付され、和解した内容を含めて、全体につき遅延損害金を清算しない旨明言した。
  • (106)仮払和解として平成23年3月から平成24年5月末まで150万円を認めた。/「仮払和解」とは、申立人の生活が困窮し、早急に賠償金が必要な場合に、損害項目・請求対象期間を特定せずに、一定の金員を東京電力に仮払させる和解で、仮払金については後日清算する必要があるとされる。
  • (107)日常生活阻害慰謝料月額10万円と営業損害につき早期に判断できることから先行して一部和解が成立した。同様の一部和解例は多数。/「一部和解」とは、請求している損害項目のうち一部の損害項目について和解すること。弁護団は、精神的損害については清算条項を設けない条件で一部和解している。
  • (108)清算条項中に、「弁護士費用についての清算条項の効力は、上記・・・の日常生活阻害慰謝料の金額を超える部分に対する弁護士費用には及ばないものとする。」と明記された。精神的損害等の損害項目に清算条項を付けない場合、関連する弁護士費用についても清算条項を付けない例が多数。

手続的問題

  • (109)当初の和解案は平成23年11月末までだったが、精神的損害、営業損害、就労不能損害等について、対象期間を平成24年5月末まで拡張させて和解した。
    その他、対象期間の拡張を認めた事例は多いが、センターの運用が次第に申立後相当期間経過後の請求対象期間の拡張に制限的になり、新たな申立てをするよう促される例が増えている。

平成24年4月16日

南相馬市民130人による原発ADR事件についてのお知らせ (和解案の概要)

原発被災者弁護団
問合先 〒105-0001
港区虎ノ門1丁目8番16号 第2升本ビル5階
TEL: 0120-730-750

当弁護団は、平成23年12月28日、南相馬市内の住民130人(34世帯)を代理して、原子力損害賠償紛争解決センターに対し、東京電力株式会社を被申立人とする和解仲介(原発ADR)を申し立てていましたが、本日午前10時に開催された第4回口頭審理期日において、同センターから和解案及びその理由が提示されました。
この和解案の概要は以下のとおりです。

精神的損害

  1. 本件事故発生時に(旧)緊急時避難準備区域に居住していた申立人のうち、事故後避難していた 期間のある者については、中間指針等に従い、一人月額10万円(但し、避難所等に避難していた期間については一人月額12万円)を賠償する。
  2. 本件事故発生時に(旧)緊急時避難準備区域に居住していた申立人のうち、事故発生後一年間 の間に上記1の慰謝料の支給対象期間とならない期間を有する者(注:事故後一年間の間に帰宅し自宅に滞在した期間のある者。以下「自宅滞在者」という。)については、下記の基準による慰謝料を賠償する。(平成23年3月分は1か月分の10万円を賠償する。)

    平成23年3月11日から平成23年9月30日まで 月額10万円
    平成23年10月1日から平成24年2月29日まで 月額8万円

理由

本件地域における本件事故後の生活は、非常に不便であり、日常生活が著しく阻害されていたものと認められる。警戒区域の住民は、自宅と生活基盤を根こそぎ奪われ、収入の回復も困難であったが、避難先において商店や医療介護施設の不足に苦しめられる状況ではなかった。本件地域の住民は、自宅は奪われなかったものの、地域の経済的基盤の重要な部分を毀損され、商店や医療介護施設の不足に苦しめられ、これを補充するような措置も講じられなかった。また、物流の悪化・物資の入手困難に伴う物価上昇にも苦しめられた。そうすると、本件地域の日常生活は、避難生活に匹敵する程度に不自由なものであったというべきである。そのような不自由さを補てんするための慰 謝料額は、月額10万円が相当である。なお、緊急時避難準備区域の指定が解除された後は、直ちに 帰還が可能となったり、生活の不便さが解消したものではないが、復興のための計画の策定も可能となり、それまでよりも日常生活の不便さがやや解消したものというべきであるから、慰謝料額は、月額8万円が相当である。

避難交通費関係

  1. 避難及び帰宅に要する交通費は、東京電力の基準による。
  2. 一時立入に要する交通費は、月1回の場合は、全て東京電力の基準による。
    月2回以上の場合は、1回目は東京電力の基準により、2回目以降について下記の賠償を認める。

    ・福島県内 車一台につき片道1回3000円
    ・福島県外 車一台につき片道1回5000円

    但し、上記を超える領収書がある場合は、実費全額を賠償する。
    一時立入の回数は、目的を問わず、制限しない。申立てのあったすべての一時立入につき、交通費の賠償を認める。本件事故がなければ、このような交通費の支出はなかったと考えられるからである。

避難宿泊費関係

  1. 支出した実費を賠償する。親族知人宅宿泊謝礼も同様とする。日数制限は設けず、申立てのあったすべての日につき、宿泊費・宿泊謝礼の賠償を認める。実費の認定方法は以下のとおり。
    領収書があれば、原則として、その記載金額とする。但し、親族知人宅宿泊謝礼は、一人一日 6000円を上限とする。申立人の陳述のみによる場合は、一人一日3000円を上限とする。
  2. 知人宅宿泊につき謝礼品を交付した場合の謝礼品購入費用も、金額、日数につき上記と同じ基準の範囲内で認める。
  3. 避難先で借家を借りた場合には、賃料、礼金及び仲介手数料の全額と敷金の2割を賠償する。

生活費増加分

  1. 食料品
    専業農家、兼業農家、自家用のみの生産農家について、本件事故前に米、野菜を小売店で購入していなかった(自家産品の使用又は交換等で調達)場合には、下記の基準で賠償を認める。
米・野菜 米のみ 野菜のみ
同居家族(4人以下) 年12万円 年4万円 年8万円
同居家族(5人以上) 年18万円 年6万円 年12万円
  1. ミネラルウオーター
    自宅滞在者が、事故後1年間の間に、井戸水又は水道水の利用に代えてミネラルウオーターを購 入した場合には、その購入に係る費用として、下記金額を賠償する。
同居家族(4人以下) 月額5000円
同居家族(5人以上) 月額8000円
  1. 電話料金増加分
    領収書等により増加分が証明できる場合は、増加分の実額全額を賠償する。それ以外の場合 は、賠償すべき損害であると認めるが、原則として、上記月額慰謝料に含まれるものと扱う。
  1. 教育関係費用
    避難による転校に伴い、学納金、制服類、高額の学用品の追加的支出があった場合には、その全額を賠償する。領収書等により追加的支出が証明できる場合には、その全額を賠償する。
    それ以外の場合は、本人の陳述等により、合理的な金額を賠償する。
一人当たりの標準額 高校の転校 10万円
小・中学校の転校 5万円
  1. 家財道具
    避難等により家財道具等を新たに購入せざるを得なかった場合、領収書等により実額が証明で きる場合は、実額全額を賠償する。それ以外の場合は、平成23年9月30日までに避難を開始した 者に限り、下記の金額を賠償する。
一家族あたりの標準賠償額 30万円
  1. 衣類、日用品
    仮払い補償金は、本件においては、原則として全部精算するものとする。全額の精算が申立人 の生活を困窮に導き、他方において将来の賠償額により残額の精算が可能であるとみられるよう な事情のある場合においては、一部の精算にとどめるものとする。

その他

  1. 仮払い補償金
    仮払い補償金は、本件においては、原則として全部精算するものとする。全額の精算が申立人 の生活を困窮に導き、他方において将来の賠償額により残額の精算が可能であるとみられるよう な事情のある場合においては、一部の精算にとどめるものとする。
  1. 弁護士費用
    損害額の3%を弁護士費用として認めるのが相当である。