居住用不動産(全損の場合)の賠償に関する弁護団の基本方針

居住用不動産(全損の場合)の賠償に関する弁護団の基本方針

 

2012年9月4日

 

原発被災者弁護団

 

当弁護団は,全損と評価される居住用不動産の賠償に関する基準を以下のとおり策定しました。また,この当弁護団の基準に基づき,全国で原発の被害者を支援する複数弁護団とともに統一基本方針を出しました。9月3日にはこの統一基本方針についての共同で記者会見も行いました(会見配布資料は後掲)。

 

被災者弁護団の提唱する基準の骨子

(基本的考え方)

1 全損と評価される不動産の賠償として,自ら住む住居の場合は,その事故直前の「交換価値」でなく,「再取得価格」により,かつ,再取得に必要な費用の賠償とする。

(基準-土地)

2 土地取得費用の全国平均額(13,688,000円)を標準賠償価額とする。ただし,従前有していた土地の広さや価値に応じて補正を行うことができる。また,具体的な再取得物件がある等の場合は別途合理的な判断手法によることもできる。

(基準-家屋)

3 住居建設費の全国平均値(22,380,000円)を標準賠償価額とする。ただし,従前有していた建物の広さや価値に応じて補正を行うことができる。仮に,いわゆる経年減価を考慮した賠償額とする場合であっても,公共用地取得に伴う損失補償基準を使用するなど,生活再建を考慮した基準を活用した賠償額の算定がなされるべきである。

 

 

東電基準の問題点と弁護団基準をとる理由

 

住居としての不動産は生活の基盤であり,事故によりその基盤を一方的に奪われるいわれはなく,可及的に事故前と同等の生活ができる状態に回復させることが必要であり,それを実現し得る賠償を行うことが公平である。

しかしながら,事故発生時に所有していた不動産の事故直前の市場価格や経年減価に基づく評価方法により算定される賠償額のみでは,事故前と同程度の生活を再建できる代替不動産を取得することは,ほとんど不可能であると指摘せざるを得ない。

すなわち,避難指示区域内に住居を有していた者は,原発周辺の広範囲の土地が放射線に汚染された結果,従前の住居地の近傍に適切な代替不動産を確保することは不可能であり,他の地域で不動産を購入する等して新たな地を生活の本拠とせざるをえないが,代わりの土地を買い求めようとしても選択肢の幅は限られており,また経済的にも困難を伴う。例えば,大熊町に居住していた者がいわき市内に居を構えようとしても,現在いわき市内の不動産は需要の高まりにより高騰しており,被害者は従前の不動産価値の賠償額では同等の不動産を購入することができない状況にある。また,現在避難生活を継続している場所で新たに土地を購入しようとした時にその地域の地価水準が従前住居地の地価水準を大きく上回っている場合も少なくないと想定されるのである。

さらに,居住用建物の再取得についても,被害者が従前に居住していたと同等の床面積,構造,築年数の代替建物を中古住宅市場で調達することは,観念的には可能であっても現実には不可能であり,被害者は個別の事情に応じて選択した移転先で新たに住宅を新築することが必要となり,従前の居住家屋の経年減価を踏まえた評価額をはるかに超える支出を強いられることが容易に予測されるのである。また,先祖から受け継いだ築後50年,60年以上の建物で修繕を重ねながら住み続けてきた被害者も少なくないと想定されるところ,経年減価により残存価値の下限の20%しかないと評価された場合には,その被害者が新たな移転先で建物を確保することは到底できない。そのような建物も本件事故さえなければ実際には相当長期間使用されたはずであり,こういった実態を無視し,築年数の長い建物につき,およそ再建築の困難な低率で一律に評価しようとすることは適正な賠償とはいえない。

よって,居住用不動産の賠償については,被害者が選択した新たな居住地において生活を再建できるに足りる不動産の「再取得価格」を基本的な賠償額として設定するべきである。そして,被害者は本件事故により,各々の事情に基づき日本全国に避難せざるをえない状況におかれているのだから,この生活再建に足りる再取得価格の算定においては,日本国内のどこに新たな居住地を選択した場合においても平均的な宅地を確保できる価格を居住用土地取得のための賠償標準価格とし,建物の再取得価格についても同様に考えたうえで,生活再建の観点も考慮された公共用地の取得に伴う損失補償基準に基づき算定される再取得費用額,及び新築の住居建設費の全国平均値も基準として賠償額が算定されるべきである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

居住用不動産賠償に関する弁護団の基本方針(全損の場合)

2012年(平成24年)9月3日

第1 基本となる考え方

本件原発事故により,被害者が従前生活の拠点としてきた住宅(土地,建物)は,放射能による被曝や長期の強制的,集団的避難等により,現在に至るまで生活の基盤としての機能を全面的に喪失した。

被害者は,「土地」「建物」という個々の不動産についての交換価値を喪失したのではなく,生活の基盤そのものを喪失したのである。

他方,本件原発事故は,被害者に対し何らの時間的余裕を与えずに避難を余儀なくさせた。被害者はそれぞれの縁や伝手を頼りに,着の身着のまま,全国各地へやむなく避難していったのである。ほぼ全ての被害者にとって,移転先を選択する余地などなく,その場所での生活再建のための基盤を構築せざるをえない状況にある。

従前の生活基盤を失わせ,避難した先での生活基盤を構築せざるをえないという本件原発事故の被害実態を考慮すれば,本件原発事故による居住用不動産の損害は,単に喪失した不動産の交換価値の賠償ではなく,被害者がそれぞれの移転先において生活基盤を回復できるだけの賠償,すなわち,当該移転地での生活基盤の再取得価額の賠償がなされなければならない。

 

第2 居住用土地についての賠償の考え方

1 方針

居住用土地の所有者に対して,1368万8000円を標準賠償価額として賠償すべきである。ただし,従前有していた土地の広さや価値に応じて補正を行うことができる。

2 理由

上記基本的考え方のとおり,いかなる場所に避難した場合でも,その場所での生活基盤の回復が必要であり,本来ではその場所における,一般的な広さの居住用土地を購入できるだけの賠償がなされるべきである。しかしながら,土地の地価については地域差があるため控えめな賠償価額として,少なくとも全国平均としての賠償価格の賠償がなされるべきである。そこで,住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」における,土地付き注文住宅利用者の土地取得費の全国平均額(19頁「土地付注文住宅融資利用者の主要指標」「土地取得費 平成23年度 」である,金13,688,000円」(敷地面積の中央値は192㎡)を標準の賠償価格とすることとする。もっとも,従前に有していた土地の広さや地価など,個別の事情により調整すべき要素もあることから,上記賠償価格を出発点として,賠償額の調整が行われるべきである。

 

第3 居住用建物についての賠償の考え方

1 方針

2238万円を標準賠償価額とする。ただし,従前有していた建物の広さや価値に応じて補正を行うことができる。仮に,いわゆる経年減価を考慮した賠償額決定を行う場合であっても,損失補償基準を使用するなど,生活再建を考慮した基準を活用した賠償額の算定がなされるべきである。

2 理由

第2と同様,全国平均としての賠償価格の賠償がなされるべきである。そこで,土地と同様にフラット35の統計データに基づく住宅建設費の全国平均値である金22,380,000円(住宅面積の平均値は115.3㎡)を標準の賠償価格とする。土地と同様,従前の建物の広さ等,個別の事情がある場合には,この標準賠償価格から調整を行った賠償額の算定がなされるべきである。

また,仮に,従前の建物の築年数から経年減価を考慮して賠償価格を算定する場合であっても,移転先での生活基盤の再建が本件事故における損害賠償の基本であることから,公共用地の取得に伴う損失補償基準等,被害者の生活再建を考慮した算定基準を用いた賠償額の算定を行うべきである。

 

第4 個別事情に応じた賠償

上記の考え方のほか,被害者の個別的な実情等に応じた賠償額の算定をなすことも可能とする。

 

東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団(原発被災者弁護団)

団長    丸 山 輝 久

福島原発被害者支援かながわ弁護団

団長    水 地 啓 子

原発被害救済千葉県弁護団

団長    福 武 公 子

福島原発被害首都圏弁護団

共同代表   森 川   清

同         中 川 素 充

「生業を返せ,地域を返せ!」福島原発事故被害弁護団

団長    安 田 純 治

福島原発被害救済新潟県弁護団

団長    遠 藤 達 雄

福島原発被害弁護団

共同代表  小野寺 利 孝

同          広 田 次 男

 

 

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