福島第一原子力発電所の事故発生から5年余りが経過し,2011年8月に当弁護団が結成されてから5年を迎えようとしています。当弁護団は,この原発事故によって発生した様々な損害について,迅速かつ適正な賠償支払いの実現のため,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」といいます)に和解仲介手続の申立を行うことを中心として活動してきました。
2016年5月23日現在、当弁護団が原紛センターに申し立てた件数は814件(19,203人,142法人)となっており、そのうち全部和解の成立件数は545件となっております。
当弁護団の特徴としては、被害状況が共通する地域や業種をまとめた集団申立を強力に推し進めてきたことが挙げられます。それは、同じ損害を受けたと思われる地域の被害者は公平に賠償されなければならないという考えに加えて、同じ地域の住民が一体となって賠償請求をすることによって、壊されてしまった地域社会の絆の再構築の一助になるのではないかと考えたからです。
当弁護団のこの活動は、2011年秋、南相馬市原町地区、小高地区から始まりました。そして、現在、同原町地区(527世帯1689人)、同小高地区(393世帯1026人)、飯館村長泥地区(92世帯243人)、飯館村蕨平地区(65世帯144人)、飯館村比曽地区(57世帯217人)、伊達市小国地区(365世帯1065人)、伊達市雪内・谷津地区(78世帯243人)、伊達市布川・御代田地区(368世帯1114人),福島市大波地区(333世帯998人)、福島市渡利地区(1107世帯3107人),葛尾村(121世帯370人)、川俣町山木地区(5世帯20人),栃木県北(2266世帯7161人)の申立てを行っております。
また、同一事業、業種ごとの集団の申立として,通訳案内士グループ(66人)、都内観光バス会社(16社)、特別の被害者として避難関連死者遺族の同時申立(12件27人)、財産損害の基準作りのための同時申立て(4件4人)なども行ってきました。
ところで、原紛センターに対する和解仲介手続の申立については,同センターの人的・物理的限界や,同センターが提示した和解案には尊重義務はあるものの強制力がないために東京電力側がその受け入れに抵抗を続けるなどの問題があるために、和解仲介の申立から和解成立までに長くて1年以上、平均で7,8ヵ月の時間を要するという現状があり、迅速な解決が実現されていない問題があります。また,原紛センターにおいては,原子力損賠償紛争審査会が定めた中間指針の内容を超える和解案を提示せず,中間指針の内容を個別事情に応じて具体化した和解案を十分で提示できていないという問題や、東京電力が同センターが提示した和解案を拒否する事例があること等の事情から,原紛センターによる適正な賠償の実現も十分に達成されていない問題もあります。
そのため、当弁護団では,原紛センターの手続では解決が困難と思われる事案について東京電力と国を被告として民事訴訟を提訴しています。2014年3月・8月・2015年3月に田村市に自然との共生を求めて不動産を購入した人たちで結成された阿武隈会のメンバー(29世帯71人)を原告とする訴訟を東京地方裁判所に、2014年10月・2015年3月に南相馬市鹿島地区の住民(108世帯271人)を原告とする訴訟を福島地方裁判所相馬支部に、2015年2月・9月に田村市都路地区の住民(184世帯646人)を原告とする訴訟を福島地方裁判所郡山支部に,2015年10月に南相馬市鹿島地区の住民(126世帯398人)を原告とする訴訟を福島地方裁判所相馬支部に,それぞれ提訴し,現在,これらの4つの訴訟が各裁判所に係属中です(福島地方裁判所相馬支部に提訴した2つの訴訟は福島地方裁判所本庁に回付)。
原発事故から5年余の年月が経過しましたが,インフラ等の復旧が進まず,帰還の目処が立っているとはいえない地域が多くあります。国が帰還を進めようとしている地域では,若い世代を中心として帰還が進まず,以前のようなコミュニティを取り戻すことは困難な状況にあります。このことからも、未だ被害者に対する完全な賠償が実現されていないことは明らかです。
田畑山林・住宅等の不動産に係る財物損害,農林水産業等の風評被害,コミュニティ崩壊による精神的損害,自主的避難・旧緊急時避難準備区域等からの避難に伴う損害等に対する賠償は,解決の道筋が立ったとは言い難く,旧警戒区域と旧計画的避難区域を中心に,生活再建の目処が立たない事業者や個人は未だに少なくない現状にあります。また、区域割に伴う形式的賠償による格差が,住民を分断し,被害者に二重三重の苦難を強いていることも大きな問題です。福島県は,原発事故による区域外避難者への住宅提供が2017年(平成29年)4月以降延長されないことを発表したため,多くの被害者が今後の生活について不安を抱えています。事業者についても,地域経済が復興していない状況のなかで,営業損害に対する事実上の賠償打ち切りが言われ,その多くが切り捨てられようとしています。
当弁護団は、今後も、被害者の方々が置かれた状況を十分に踏まえて、必要かつ十分な賠償を求める活動を続けていきます。加害者である東京電力はもとより、原紛センターに対しても、被害者の声に向き合い,迅速かつ柔軟な解決に向けて,公正かつ適切な対応を行い、発生した損害の完全な賠償を実現することを求めていきます。
共同代表
弁護士 前川 渡 (第一東京弁護士会) 1950年生
共同代表
弁護士 大森 秀昭 (東京弁護士会所属) 1958年生
共同代表
弁護士 小海 範亮(こかいのりあき) 1971年生
事務局長
弁護士 吉野 高 (東京弁護士会所属) 1957年生
弁護団員
東京弁護士会,第一東京弁護士会,第二東京弁護士会及び弁護士会多摩支部に所属する弁護士を中心として構成