【報告】福島県田村市都路町地区の集団提訴事件

福島県田村市都路町地区の集団提訴事件

 

1 2014年3月10日,福島県田村市都路町地区への移住者,移住検討者21世帯44名が,東京電力株式会社及び国に対する損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提訴しました。

    田村市都路町地区は,その多くが福島第一原発から20~30㎞圏内に位置し,旧緊急時避難準備区域に指定された地区です。原告らは,福島第一原発の事故により,福島県内外への避難の継続を強いられており,都路町地区に所有していた不動産の利用が不可能な状態におかれたままの状態にあります。

    本件訴訟の請求内容は,各原告所有の土地,建物,家財の賠償と,自然との共生生活等喪失慰謝料としての一人当たり1000万円の慰謝料等であり,全原告の請求総額は約13億円です。

 

 

2 原告らは,自然との共生生活,自給自足の生活,第二のふるさと,終の棲家を求めて自然豊かな都路町に住居を求めた方々であり,山林原野に囲まれた土地を購入し,自分の手で宅地や農地を整備し,建物を建築する等,長年の労力と資金を投じて「自然に囲まれた暮らし」を実現してきました。

    しかし,原告らが所有する不動産の周囲の山林原野は,国の除染計画も定められておらず,仮に除染作業を行ったとしても完全に安全な元の環境を回復することはおよそ不可能な状況にあります。このため,原告らが所有する不動産や家財は,本件事故による放射性物質による汚染により使用不能となり,その財産的価値が奪われ,原告らが資金と労力を費やして実現してきた自然との共生生活は二度と回復できない状態となりました。

    原告らは,このように原告らに生じた多大な財産的損害と精神的損害について被告らに賠償を求めて提訴したものです。

 

 

3 原告らは,原子力損害賠償紛争解決センターに対する和解仲介の申立てによっては,上記の原告らに生じた損害の賠償を得ることができないために本件訴訟を提起したという経緯もあります。

    すなわち,まず,不動産や家財の損害に関しては,原子力損害賠償紛争審査会が策定した中間指針(追補含む)は,旧緊急時避難準備区域に存在する不動産や家財の賠償の指針について言及していません。和解仲介機関である原子力損害賠償紛争解決センターは,旧緊急時避難準備区域の不動産を所有していた被害者がその損害の賠償を求めて和解仲介の申立てを行っても,判断を回避して和解案を提示しない対応を続けており,現在までにこの損害の賠償を認めた和解案を提示した例は存在していません。

    次に,避難慰謝料については,中間指針第二次追補(2012(平成24)年3月16日)は,「中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている『避難指示等の解除等から相当期間経過後』の『相当期間』は,旧緊急時避難準備区域については平成24年8月末までを目安とする。」としていることから,旧緊急時避難準備区域に居住していた本件原告らは,平成24年9月以降の避難慰謝料については「特段の事情」がない限り支払を受けることができない扱いとされています。そして,原子力損害賠償紛争解決センターは,この「特段の事情」がある場合について限定的な例示にとどめており,このセンターの基準では,本件原告らが平成24年9月以降の避難慰謝料の支払いを受けることは困難な状況です。

    さらに,原子力損害賠償紛争解決センターは,被害者らが本件事故によるコミュニティー喪失の慰謝料を請求する内容の和解仲介申立を行っても,その判断を回避し,和解案の提示を拒否する対応を続けています。このような対応からして,同センターによって本件原告らの請求である「自然との共生生活等喪失慰謝料」に関する和解案が示されることを期待することも不可能です。

 

 

4 国会事故調は,「当委員会は,本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について,「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊」が起きた点に求められると認識する。何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば,今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である。」と述べ,本件事故が人為的な原因によってもたらされたものと断定し,被告東電と被告国との責任に言及しています。

    本件訴訟の原告らは,まさに上記国会事故調と同一の視点に立って,本件事故の発生について,被告東電の原子力損害の賠償に関する法律上の責任を確認することに加えて被告東電の民法709条の不法行為責任を明確にし,同時に被告国の国家賠償法に基づく責任を確認した上で,原告らに発生した全ての損害の賠償を履行せしめ,原告らが失った生活を取り戻し,人間の尊厳を回復することを可能とする完全な損害賠償を実現するために本件訴訟を提訴したものです。

    加えて,原告らは,本件訴訟において本件事故についての被告東電と被告国の責任を明確にすることにより,事業者である被告東電と規制当局である被告国に原子力の安全に関する抜本的な対策を講じさせ,福島第一原発のような危険な原子力発電所の稼働を直ちに停止させ,原子力発電所の事故が二度と発生しないことの実現を追求するものです。

 

 

                                  以上