2013/10/25現在版
東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団・小高区東京弁護団
南相馬市小高区は、全域が旧警戒区域であり、現在、一部帰還困難区域や居 住制限区域が存在するものの、多くが避難指示解除準備区域となっている。 したがって、以下に述べる「小高基準」は、集団申立以外の小高区民はもち ろんのこと、広く旧警戒区域の住民に適用される可能性がある。
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Ⅰ はじめに
当弁護団は、福島県南相馬市小高区の住民について、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)のADRに下記のとおり集団で申立を行ってきた(以下「小高集団申立事件」)。
①平成24年7月31日=第1陣・59世帯183人 =平成24年(東)2863号事件
②平成24年8月27日=第2陣・67世帯199人 =平成24年(東)3161号事件
③平成24年9月18日=第3陣・39世帯130人 =平成24年(東)3440号事件
④平成24年12月28日=第4陣・28世帯94人 =平成24年(東)4538号事件
合計 193世帯・606人(取下等により現在182世帯)
このうち、①~③は同一パネルに併合され、代表世帯12世帯について集中的に審理されてきたが、平成25年6月28日、センターは代表世帯に対する具体的な和解案とともに同日付「連絡書」(以下「連絡書」)により同事件のその他の世帯にも共通する解決基準を提示した(以下「小高基準」)。現在、①~③の代表世帯以外の案件、及び④について、小高基準をもとに整理が行われ、順次和解案の提示がなされようとしている。
この小高基準は、生活費増加分についての思い切った定額化や疎明の大幅な簡略化を示しており、他の地域の案件についても適切に適用されるものとして期待される。
本報告書は、小高基準の内容について当弁護団としてコメントを加え、他の案件への適用についての参考に供するものである。
【注】「ひばり太田基準」について
文中に登場する「ひばり太田基準」とは、原発被災者弁護団が担当する他の集団申立において、平成25年3月8日にセンターより示された解決基準である。
→ひばり太田集団申立(平成24年(東)1764~1768号、2039~2041号)
南相馬市原町区ひばり・太田地区284世帯931人(旧緊急時避難準備区域)
小高基準は、ひばり太田基準を参考に、避難指示区域が異なることも踏まえて、一歩踏み込んだ判断がなされている(必要に応じて説明を加える)。
この他にも、文中には「521基準」、「長泥基準」などの略称があり、これらも他の集団申立における解決基準であるが、基本的に小高基準はこれらを包含している。
Ⅱ 小高集団申立事件の特徴
1 小高集団申立事件は、福島県南相馬市南部に位置する小高区住民についての集団申立である。
同地区は福島第一原発から20Km圏内に位置し、平成23年4月22日、警戒区域に指定され立入禁止となり、以後、自由な立入はできなくなった。およそ1年後の平成24年4月16日午前0時に警戒区域の指定が解除され、以後は宿泊はできないが自由に立入ができるようになっている。
2 同地区は39の行政区から構成されており、各行政区長の下で地域住民の繋がりが強い地域であった。
行政区長らによる小高地区の再生を目指す動きがあり、集団申立を行うこととなり、平成24年4月以降、集団相談会を開いたうえで、上記①~④のとおり順次申立を行った。
申立人は、南相馬市内の仮設住宅や借上住宅に居住している方が多い。
3 上記の事情から、地域コミュニティ喪失による精神的損害や警戒区域指定によって震災後1年間立ち入れなかったことによる不動産の放置拡大損害が特徴である(但し、これらは小高基準には含まれていない)。
また、集団申立時に既に直接請求を行っている世帯も多い状況にある。
Ⅲ 小高基準総論=同基準の趣旨について
1 小高基準の総論部分 (連絡書・1頁)
第1 本件解決基準の趣旨及び双方代理人への要望 本件解決基準は、損害の算定方法を示すと共に、疎明方法についても可 能な限り特定しています。 疎明方法については、申立人の疎明資料収集の難易並びに本件チャンピ オン事件及びこれまでの当センターの和解事例等から読み取れる大部分の 被災者に共通するであろう損害額を考慮し、一定額までは客観的な疎明資 料の提出を求めていないものがあります。 被申立人及びその代理人におかれましては、客観的な疎明資料の提出を 求めていない場合であっても、主張内容ないし陳述内容の信用性を疑わせ る特段の事情がない場合には、その内容を尊重し、和解を進めるよう、要 望します。 一方、申立人代理人におかれましても、一定額を超える損害を認める場 合には、客観的な疎明資料を必要とせざるを得ない場合があることをご理 解いただき、一定額を超える主張をする場合は、客観的な疎明資料を可能 な限り提出してください。また、主張内容ないし陳述内容の信用性は、申 立人代理人が基本的事実関係の調査など適切な準備を行っていることによ り担保されていることが前提となりますので、非チャンピオン事件につい ても、適切な準備活動を継続するよう、要望します。
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2 解説
小高基準は、損害算定方法を提示と疎明方法の特定のために定められたことを明らかにしている。すなわち、定額化や疎明方法の簡略化を目指すものである。
疎明方法の簡略化については、小高集団申立事件のチャンピオン事件だけでなく、「これまでの当センターの和解事例」等も考慮すると明記し、これらの事件から「読み取れる大部分の被災者に共通するであろう損害額を考慮し、一定額までは客観的な疎明資料の提出を求めていないものがあります」と明言しているので、他の地域の被害者の事件にも広く通用する基準であることが明らかになっている。
Ⅳ 小高基準各論=各費目の内容について
1 避難費用・交通費
(1) 小高基準 (連絡書・2頁)
1 避難交通費について 避難交通費について、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)東電基準(賠償の額に関する部分に限る。)を適用する。ただし、平 成24年6月1日以降についても、平成24年12月31日までに支出した 避難交通費については、平成23年8月30日付けプレスリリースに係る 東電基準による。 (2)上記東電基準の適用回数については、上限を設けない。 (3)次に掲げる場合を除き、負担した実費に係る疎明資料の提出は、不要 とする。 ア 同一県内の移動の場合であって、1 回について5000 円を超える請 求をする場合 イ 都道府県を超える移動の場合であって、標準金額を超える請求をす る場合 ウ タクシーを使用した場合 (4)上記(3)ア及びイに掲げる場合において、領収書等による疎明がある 場合は、その記載額を賠償額とする。
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(2) 解説
東電基準では、「県内移動1人5000円、県外移動は車1台の標準交通費」などの定額賠償は平成24年5月末までであり、6月以降は、車の場合、移動距離に応じた実費相当額(15km未満330円、15km以上は移動距離(km)×22円)までしか認めない(3ヶ月毎の従来請求方式)。また、移動回数10回までの回数制限がある。
これに対し、小高基準は、「県内移動1人5000円、県外移動は車1台の標準交通費」を平成24年12月31日まで認めるものであり、しかも回数制限がない。また、疎明資料なく認められる。
なお、避難交通費以外の一時立入、通勤・通学や家族間訪問などの交通費は後記のとおり別項目となる。
また、「平成24年12月31日までに」とされているのは、平成23年3月11日から平成24年31日までの損害を請求する申立であった、すなわち和解対象期間を示すものであり、平成25年1月1日以降については認めないというものではなく、判断の対象外であるという意味である。
2 宿泊費用・謝礼・賃料
(1) 小高基準 (連絡書・2~3頁)
2 宿泊費用・謝礼、賃料等について 本件事故後に支出した宿泊費用(親族・知人宅に宿泊した場合の謝礼 (以下「宿泊謝礼」という。)を含む。)、借家に係る賃料等について、次 の基準によって賠償額を算定する。 (1)宿泊費用については、次の基準によって賠償額を算定する。 ア 実際に支出した実費を基準とし、次に掲げる支出に係る期間の区分 に応じ、それぞれの①及び②に定める方法及び額の範囲で算定する。 (ア)平成23年3月11日から同年9月30日まで ①領収証等があれば、原則として、その記載金額とする。ただし、 宿泊謝礼は、1人1日6000円を上限とする。 ②申立人の陳述のみによる場合は、1人1日3000円を上限とする。 (イ)平成23年10月1日以降 ①領収証等があれば、原則として、その記載金額とする。ただし、 宿泊謝礼は、1人1日3000円を上限とする。 ②申立人の陳述のみによる場合は、1人1日1500円を上限とする。 イ 日数に上限を設けず、全ての宿泊に係る宿泊費用の賠償額を算定す る。 ウ 次に掲げる宿泊謝礼は、賠償の対象としない。 (ア)実際に支出していないもの (イ)支出先の親族・知人の氏名及び住所が特定されていないもの (2)親族・知人宅に宿泊した場合に交付した謝礼品の購入に係る費用につ いても、当該宿泊について上記(1)により算定される宿泊謝礼の額の範 囲内で賠償額を算定する。 (3)避難先で借家を借りた場合の賃料等については、次の基準によって賠 償額を算定する。 ア 実際に支出した実費を基準とし、賃料、礼金、仲介手数料及び火災 保険等に係る保険料の全額並びに敷金の2割に相当する額を賠償額と して算定する。 イ 上記アに係る損害(賃料を除く。)の疎明は、賃貸借契約書及び火 災保険に係る契約書面の提出により行う。 ウ 上記アに係る賃料の疎明は、賃貸借契約書及び賃料の支払を証する 資料の提出により行うものとする。ただし、賃料の支払を証する資料 については、直近の賃料(請求に係る期間の最後の月以降の賃料をい う。)の支払を証するもののみで足り、これらの資料の提出があった 場合は、請求期間につき継続して賃料が支払われたものとみなす。 エ 上記イ及びウにかかわらず、上記アに係る損害は、上記イ及びウに 定める資料の提出がない場合であっても、陳述その他の相当と認める 資料により個別に認定することを妨げない。
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(2) 解説
ア 宿泊費用・謝礼については、ひばり太田基準とほぼ同じ。
賃料等については、ひばり太田基準の方針を踏襲したうえで、更に詳しくなっている。特に、小高基準では「火災保険等に係る保険料の全額」が加わり(ア)、また、疎明資料を明記したうえで陳述その他の方法の疎明でも良いとして(イ~エ)、疎明を簡略化していて評価できる。
イ 東電基準では、領収書添付が必須であり、平成23年12月1日以降の宿泊については、帰宅にかかる宿泊費も含め、1人5泊までという制約がある。
これに対し、小高基準は、領収書がなくとも「支出先の親族・知人の氏名及び住所が特定」されていれば、1日の宿泊額の上限はあるものの認められる。また、日数の上限はなし。さらに、宿泊費のみならず謝礼品購入費用についても認められる。
加えて、家を借りた場合には、賃料・礼金・仲介手数料のみならず、火災保険料の全額や敷金の2割も認められる。
3 家財購入費・被服費・日用品費用
(1) 小高基準 (連絡書・3頁)
3 家財購入費、被服費及び日用品費用について 本件事故後に支出した家財、被服及び日用品購入費用(8(1)の教育関係 費用を除く。以下「家財購入費等」という。)について、次の基準によっ て賠償額を算定する。 (1)個別の家財購入費等の疎明の如何にかかわらず、避難前に申立人が同 居していた家族ごとに、次に掲げるその同居人数の区分に応じ、それぞ れに定める額を最低賠償額とする。 ア 1 人60万円 イ 2 人90万円 ウ 3 人100万円 エ 4人以上 10万円に3人を超える人数の数を乗じて得た額を100万 円に加えた額 (2)避難を継続する過程において申立人の家族に分離した世帯が生じたと きは、上記(1)で算定される金額のほか、新たに生じた分離世帯ごとに 10万円を加算する。 (3)上記(1)及び(2)により算定されるのは最低賠償額であって、これを上 回る金額について個別の主張・疎明をすることを妨げない。また、個別 の主張・疎明の結果上記(1)及び(2)で算定される金額を上回らなかった 場合は、上記(1)及び(2)で算定される金額を賠償額とする。 (4)被申立人の本賠償手続において賠償済みの金額は、上記(1)及び(2)に より算定される最低賠償額の賠償の場合であっても、当該最低賠償額か ら差し引くものとする。
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(2) 解説
ア 「家財購入費、被服費及び日用品費用」という生活費増加分の初期費用について、小高基準は、定額化をしてその額を最低保障し、更に上回る部分は疎明資料があれば認める方針を取った。また、世帯分離の10万円加算を認めた。
この基準は、家財購入費や被服費、日用品費について、細かく説明し根拠資料を示すことは申立人にとって重い負担であったがそれを不要とし、最低賠償額として一定額を認めたものであり、高く評価できる。
避難により世帯が分離した場合の増額も認めるよう求めていたことも受け入れられた。この金額で十分かについては、さらなる分析・研究が必要であろうが、不十分な世帯については、個別主張による増額の道も残されているので、申立人らに不利益にはならない。
他の事件においても、十分に活用されるべき基準となっている。
イ なお、小高基準3(4)によると直接請求での支払い分は控除されることになっているが、特定は申立人側では困難あるいは不可能である。従って、センターから東電側に特定を促すほかない。
4 通信費増加分
(1) 小高基準 (連絡書・3~4頁)
4 通信費増加費用について 通信費(固定電話及び携帯電話の料金に限る。以下同じ。)増加費用に ついて、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)通信費増加費用の算定方法は、次に掲げるとおりとする。 ア 次の計算式による月ごとの増加費用を、請求月ごとに積算する。 月ごとの増加費用= (本件事故後の携帯電話月額料金+本件事故後の固定電話月額料金) -(本件事故前の携帯電話月額料金+本件事故前の固定電話月額料金) イ 上記アの計算式における本件事故前の携帯電話月額料金は、3 か月 以上の月額使用料の実額の平均額とする。 ウ 上記アの計算式における本件事故前の固定電話月額料金は、3か月 以上の月額使用料の実額の平均額とし、その疎明がない場合は、一律 に2000円とする。 エ 上記アの計算式における本件事故後の携帯電話月額料金及び本件事 故後の固定電話月額料金は、実額とする。 (2)平成24年8月31日までの間の通信費増加費用について、申立人が避 難前に同居していた家族各人の請求額(上記(1)アによって算定される 金額)を合計したときに、その合計額が8万4000円以下となる部分に ついては、上記(1)イ及びエの実額の疎明資料がない場合であっても、 申立人の陳述によって当該部分に係る損害額を認定して、当該家族ごと の賠償額とすることができる。
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(2) 解説
ア ひばり太田基準の「証明できる場合は、増加分の実額全額を賠償する。」という抽象的基準よりも前進した。
イ 小高基準は、領収書・明細書などの具体的な疎明資料があれば、(1)ア~エの計算方法によって、増加した実額分の賠償が認められる。
具体的な疎明資料が無い場合でも、「通信費増加費用についての陳述書」。(別紙参照・センター作成のひな形)の記載があれば(代理人作成可)、平成24年8月31日までの18ヶ月間で一世帯8万4000円が認められるとされており、定額賠償を認めた点は評価できる。
5 食費増加分
(1) 小高基準 (連絡書・4頁)
5 食費増加費用について 生産農家に係る食費増加費用について、次の基準によって賠償額を算定 する。 (1)専業農家、兼業農家及び自家用生産者である生産農家について、本件 事故前に米又は野菜を自家産品の消費、交換等により調達し、小売店等 で購入していなかった場合の賠償額は、申立人が避難前に同居していた 家族ごとに、その同居人数及び生産品目の区分に応じ、次に掲げる表の とおりとする。 米・野菜 米のみ 野菜のみ 4人以下の同居家族 年12万円 年4万円 年8 万円 5人以上の同居家族 年18万円 年6万円 年12万円 (2)上記(1)の生産農家に該当するか否かは、陳述により認定する。 (3)米又は野菜を第三者(近隣に住む親族を含む)から譲り受けていた者 については、上記(1)による賠償を認めない。
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(2) 解説
ア 521基準、ひばり太田基準、長泥基準と内容は同じである。
イ 小高基準では、疎明の負担が陳述書利用により軽減されている点が特徴的である。
すなわち、小高基準では、自家消費分の米や野菜を栽培し店で購入していなかった場合には、「食費増加費用についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)を提出(代理人作成可)することにより、一定額が認められる(4人以下の同居家族で、米・野菜の場合は年12万円、米のみの場合は年4万円、野菜のみの場合は年8万円)。
6 ミネラルウォーター購入費用
(1) 小高基準 (連絡書・4頁)
6 ミネラルウオーター購入費用について 南相馬市原町区に避難して購入されたミネラルウオーター購入費用につ いて、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)南相馬市原町区へ避難し、当該避難先でミネラルウオーターを職入し た場合の賠償額は、申立人が避難前に同居していた家族ごとに、次に掲 げるその同居人数の区分に応じ、それぞれに定める額とする。 ア 4 人以下の同居家族 月額5000 円 イ 5 人以上の同居家族 月額8000 円 (2)上記(1)の避難者に該当する者か否かは、陳述により認定する。
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解決基準とともに提示された「ミネラルウォーター購入費用についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)に記入(代理人記入も可)し、疎明資料とすれば足りる。
(2) 解説
ア 521基準、ひばり太田基準と内容は同じ。
原町区に避難して購入したミネラルウォーターに限定されている点は問題。同一水源なら認められるべきであり、範囲を拡げられるべきである。
なお、鹿島基準(南相馬市鹿島区集団申立(平成24年(東)3137号)における平成25年7月24日センター提示の連絡書)では、滞在している鹿島区民についても認められている(ただし、平成23年9月末の賠償終期までに限る)。
イ 小高基準では、南相馬市原町区に避難している間にミネラルウォーターを購入した場合には、「ミネラルウォーター購入費用についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)を提出(代理人作成可)することにより、一定額が認められる(4人以下の同居家族で月額5000円)。
7 水道光熱費
(1) 小高基準 (連絡書・4~5頁)
7 水道光熱費について 避難後に負担することとなった水道料金及び世帯分離後の水道光熱費基 本料金増加費用について、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)本件事故前に家庭で水道を使用していなかった者が、避難後に水道料 金を負担するに至った場合については、次の基準によっでl人当たりの 賠償額を算定する。 ア 賠償額は、水道料金を負担した期間につき、1人月額1500円とす る。 イ 本件事故前に水道を使用していなかったこと並びに避難後に水道料 金を負担したこと及びその期間については、陳述により認定する。 (2)避難前に同居していた家族が、避難により離散し、異なる場所での避 難生活を継続したことにより、分離した世帯ごとに独自に水道光熱費に 係る基本料金(水道料金、ガス料金及び電気料金に係るものに限る。) を負担することとなった場合については、次の基準によってl分離世帯 当たりの賠償額を算定する。 ア 賠償額は、分離した世帯が独自に水道光熱費基本料金を負担した期 間につき、1分離世帯当たり月額5000円とする。 イ 避難後に世帯が分離したこと、分離した世帯毎に独自に水道光熱費 基本料金を負担したこと及びその期間等については、陳述により認定 する。
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イ 疎明資料について
「水道料金についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)および「世帯分離後の水道光熱費増加費用についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)に記入(代理人記入可)し、疎明資料とすれば足りる。
(2) 解説
ア 本件事故前に家庭で水道を使用していなかった者について、水道料金が定額1人あたり月額1500円というのは長泥基準と同じ。
イ 疎明方法については、「水道料金についての陳述書」および「世帯分離後の水道光熱費増加費用についての陳述書」で足りることとされ、立証負担軽減がなされている。
ウ また、小高基準では世帯分離による増額を認めた点が特筆される。
8 教育関係費用
(1) 小高基準 (連絡書・5頁)
8 教育関係費用について 避難による転校に伴う教育関係喪用(学納金、制服類、高額の学用品等 に係る費用をいう。以下同じ。)について、次の基準によって賠償額を算 定する。 (1)避難による転校に伴う教育関係費用を追加的に支出した場合の最低賠 償額は、次に掲げる転校の区分に応じ、それぞれに定める額とする。 ア 高校の転校 10万円 イ 小・中学校の転校 5万円 (2)上記(1)を超える教育関係費用の追加的支出については、領収証等に よる疎明がある場合は、その記載金額を賠償額とする。
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(2) 解説
ア 521基準やひばり太田基準と金額は同じだが、定額までは疎明資料不要、更に領収証等があれば上積みができるという点で大きく評価できる。
イ 小高基準では、避難による転校に伴い教育関係費用を支出した場合には、具体的な購入品の特定は不要で、領収書も不要のまま(ただし、支出に関する大まかな説明は必要)、一定額が認められる(高校の転校10万円、小・中学校の転校5万円)。そして、これらは最低賠償額であるので、これ以上の出費とその根拠資料を具体的に示せば、これ以上の賠償を得ることもできる。
9 交通費増加分
(1) 小高基準 (連絡書・5~6頁)
9 交通費増加費用について 交通費(通勤交通費及び通学交通費を含む。)の増加費用について、次 の基準によって賠償額を算定する。 (1)避難に伴い、避難前よりも役所、病院、買物先が遠くなったり、家族 が分離して家族の相互訪問が生じたりする等の事情により、交通費の増 加(下記(2)及び(3)の通勤交通費及び通学交通費の増加を除く。以下こ の(1)において同じ。)を余儀なくされた場合は、申立人が避難先におい て同居する家族ごとに、次の基準によって賠償額を算定する。 ア 最低賠償額は、次のとおりとする。 (ア) 1家族当たり月額1万円とする。 (イ)交通費の増加を余儀なくされたことその他上記(ア)の賠償の対象 となるか否かについては、陳述により認定する。 イ 上記アを超える交通費増加費用は、次に掲げる基準による。 (ア)上記ア(イ)の陳述のほか、移動の目的、年月日、目的地、交通手 段及び費用を詳細な一覧表にし、領収証等を添付する方法による疎 明を必要とする。 (イ)算定に当たり、「福島県内5000円」というような、いわゆる東 電基準は適用しない。 (ウ)自家用車を使用した場合の交通費増加費用の実額は、次の計算式 で算定する。 ・増加した移動距離(km単位。移動元及び移動先の各地点の直線 距離を1.5倍した距離を移動距離とみなして増加分を算定するこ とができる。)×18.9円 (2)通勤交通費が増加した場合は、次のとおり増加分の実額を賠償対象と し、個別の疎明を必要とする。 ア 通勤交通費増加費用は、次の計算式で算定する。 ・通勤交通費増加費用= {(本件事故後の月額通勤交通費一勤務先からの月額交通費支給額) -(本件事故前の月額通勤交通費一勤務先からの月額交通費支給額)} ×請求月数 イ 勤務先からの通勤交通費支給の有無を疎明する資料として、勤務先 ごとにlか月分の給与明細を提出する。 ウ 自家用車を使用した場合の上記アの計算式における月額通勤交通費 は、次の計算式で算定する。 ・通勤移動距離(km単位。移動元及び移動先の各地点の直線距離を 1.5倍した距離とみなすことができる。)×18.9円×31日 (3)通学交通費が増加した場合は、次のとおり増加分の実額を賠償対象と し、個別の疎明を必要とする。 ア 通学交通費増加費用は、次の計算式で計算する。 ・通学交通費増加費用= (本件事故後の月額通学交通費一本件事故前の月額通学交通費) ×請求月数 イ 自家用車を使用した場合の上記アの計算式における月額通学交通費 は、次の計算式で算定する。 ・通学移動距離(km単位。移動元及び移動先の各地点の直線距離を 1.5倍した距離とみなすことができる。)×18.9円×20日
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(2) 解説
ア ひばり太田基準に比して、詳細に定められた。
イ 小高基準では、通勤・通学の交通費が増加した場合には、説明資料などの根拠を示せば、増加した実額分の賠償が認められる。また、避難に伴い、避難前よりも役所、病院、買物先が遠くなったり、家族が分離して家族の相互訪問が生じたりする等の事情により、交通費が増加した場合には、「交通費増加についての陳述書」(別紙参照・センター作成のひな形)を提出(代理人作成可)することにより、一定額が認められる(1家族当たり月額1万円)。そして、これは最低賠償額であるので、これ以上の出費とその根拠資料を具体的に示せば、これ以上の賠償を得ることもできる。
ただし、車を使用した場合には、「移動距離(km単位。移動元及び移動先の各地点の直線距離を1,5倍した距離を移動距離とすることも可。)×18.9円」で計算する。
よって、小高基準はメリットがある。例えば、家族が分かれて避難中で頻繁に行き来しているなど、正確な移動回数を説明できない場合でも、一定額が認められる。
ウ なお、定額賠償を認めるについても、交通費増加が認められる事情(「避難に伴い、避難前よりも役所、病院、買物先が遠くなったり、家族が分離して家族の相互訪問が生じたりする等の事情により、交通費の増加を余儀なくされた場合」)も含めて陳述が必要とされているが(上記小高基準・9(1)ア(イ))、これについては、「交通費増加費用についての陳述書」を疎明資料とすれば足りる。
10 一時立入費用
(1) 小高基準 (連絡書・6~7頁)
10 一時立入交通費について 一時立入交通費(一時立入制限の有無にかかわらず一時帰宅する場合の 費用を含む。)について、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)一時立入制限解除前(平成24年4月15日まで)については、次の基 準によって賠償額を算定する。 ア 立入りの目的及び回数にかかわらず、東電基準(賠償の額に関する 部分に限る。)を適用する。 イ 申立人は、立入りの年月日及び交通手段(自家用車又は公共交通機 関の別及び公共交通機関にあってはその種類)を特定して主張すれば 足り、次に掲げる場合を除き、負担した実費に係る疎明資料の提出は 不要とする。 (ア)同一県内の移動の場合であって、1回について片道5000円を超 える請求をする場合 (イ)都道府県を超える移動の場合であって、標準金額を超える舗求を する場合 (ウ)タクシーを使用した場合 ウ 上記イ(ア)及び(イ)に掲げる場合において、領収書等による疎明があ る場合は、その記載金額を賠償額とする。 (2)一時立入制限解除後(平成24年4月16日以降)については、次の基 準によって賠償額を算定する。 ア 自家用車を使用した場合は、次の基準による。 (ア)月1回目までは、東電基準(賠償の額に関する部分に限る。)を 適用する。 ただし、平成24年6月1日以降についても、平成24年12月31 日までに支出した避難交通費については、平成23年8月30日付け プレスリリースに係る東電基準による。 (イ)同じ月内の2回目以降15回目までの移動については、次の基準 による。 ① 同一県内の移動車1台につき片道3000円 ② 県外からの移動車1台につき片道5000円 (ウ)同じ月内の16回目以降の移動については、次の基準による。 ① 同一県内の移動車1台につき片道1500円 ② 県外からの移動車1台につき片道2500円 (エ)避難を継続する過程において申立人の家族に分離した世帯が生じ たときは、分離した世帯ごとの移動回数により上記基準を適用する (オ)申立人は、立入りの年月日を特定して主張すれば足り、上記(ア) から(エ)までの基準による金額を超える請求をする場合を除き、負 担した実費に係る疎明資料の提出は、不要とする。 (カ)上記(ア)から(エ)までの基準による金額を超える請求をする場合に おいて、領収書等による疎明がある場合は、その記載金額を賠償額 とする。 イ 自家用車以外の公共交通機関等を使用した場合は、次の基準によ る。 (ア)実費を損害額とする。 (イ)申立人は、立入りの年月日、使用した公共交通機関の種類及び経 路並びに負担した実費の額を特定して主張すれば足り、負担した実 費に係る疎明資料の提出は、不要とする。
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(2)解説
ア ひばり太田基準に比して、回数制限が外されている。
イ 小高基準は、平成24年4月15日の一時立入制限解除前までは、立入りの目的及び回数にかかわらず、「県内移動1人5000円、県外移動は車1台の標準交通費」を認める。また、平成24年4月16日以降の一時立入についても、12月31日までは、月1回は上記定額賠償を認める。月2回以上は「県内移動1台3000円、県外移動1台5000円」など、若干金額の下がる定額賠償を行う。
よって、1ヶ月に複数回一時立入したことがある場合や、平成24年6月以降に一時立入したことがある場合には、センター基準はメリットがある。
11 生命・身体的損害
(1) 小高基準 (連絡書・7~8頁)
11 生命・身体的損害について 通院慰謝料及び通院交通費について、次の基準によって賠償額を算定す る。 (1)通院慰謝料については、次の基準によって賠償額を算定する。 ア 本件事故により避難を余儀なくされたため発症したこと、又は症状 が悪化したことが診断書によって認められる傷病・疾病については、 通院慰謝料は、通院1回につき1万円とする。 イ 本件事故により避難を余儀なくされたため発症したこと、又は症状 が悪化したことが診断書によって認められないもの及び上記アの基準 で解決することが不相当であるものについては、個別に検討する。 ウ 上記アの基準で解決が見込まれる傷害・疾病の例として、次のもの が考えられる。 (ア)重篤でない高血圧、高脂血症、糖尿病等の生活習恢病・慢性疾患 (イ)「腰痛」など、診断書に疼痛があることの記載しかないもの (ウ)症状が重篤でないうつ病、不眠症等の精神疾患 (2)通院交通費については、次の基準によって賠償額を算定する。 ア 東電基準(賠償の額に関する部分に限る。)を適用する。ただし、 平成24年6月1日以降についても、平成24年12月31日までに支出 した通院交通費については、平成23年8月30日付けプレスリリース に係る東電基準による。 イ 申立人は、通院の年月日、通院先及び交通手段(自家用車か又は公 共交通機関かの別及び公共交通機関に.あってはその種類)を特定し て主張すれば足り、次に掲げる場合を除き、負担した実費に係る疎明 資料の提出は、不要とする。 (ア)同一県内の移動の場合であって、1回について5000円を超える 請求をする場合 (イ)都道府県を超える移動の場合であって、標準金額を超える請求を する場合 (ウ)タクシーを使用した場合 ウ 上記イ(ア)及び(イ)に掲げる場合において、領収書等による疎明があ る場合は、その記載金額を損害賠償額とする。
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(2) 解説
ア ひばり太田基準とほぼ同じ。
イ 小高基準は、(入)通院交通費については、「タクシー利用は領収書の提出+理由の説明により実額、それ以外は受診1回あたり5000円」を平成24年12月31日まで認める。
ウ (入)通院慰謝料については、診断書に因果関係ありと記載されている次の疾病については、通院1回につき1万円が認められる。重篤でない高血圧・高脂血症・糖尿病等の生活習慣病・慢性疾患、腰痛など、重篤でないうつ病・不眠症等の精神疾患。診断書に因果関係ありと記載されていない場合や、重い疾病については、個別に検討するということになっている。
よって、避難によって新たな病気を発症したり、既往症が悪化したりする場合には、センター基準はメリットがある。
特に、重い疾患である場合には、個別検討により大幅に入通院慰謝料が認められる可能性がある。
12 就労不能損害
(1) 小高基準 (連絡書・8頁)
12 就労不能損害について 本件事故後に就労が不能等となったことによる減収分に係る損害につい て、次の基準によって賠償額を算定する。 (1)就労不能等となる以前の給与等は、本件事故前の収入金額を明らかに する資料(確定申告書、源泉徴収票、数か月分の給与明細、給与振込口 座の通帳等)に基づき算定する。 (2)就労不能等となった後に給与等がある場合であっても、原則として、 平成24年4月19日付け総括基準(営業損害・就労不能損害算定の際の 中間収入の非控除について)及び平成24年6月26日付け総括委員会決 定(中間収入の非控除について)(併せて以下「総括基準8」とい う。)により、上記(1)によって算定される損害額から控除しない。 (3)総括基準8が適用されないものについては、申立人がその旨を申告す る。 (4)総括基準8が適用されない例としては、以下のものが考えられる。 ア 総括基準8で示されている特段の事情がある場合 イ 転勤による減収にとどまる場合(本件事故前後を通じて勤務先法人 等に変更がなく、単に事業所等勤務地の変更や給与等支給額の減少が あったにとどまるような場合を含む。)
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(2) 解説
ア 小高基準は、就労不能損害の賠償について、東電基準でいう「実際に得た収入」を控除するかどうかにつき「総括基準8」に従って判断することを示している。
イ 「総括基準8」が適用されれば、「実際に得た収入」は控除されない。
一方、「総括基準8」に記載されている「特段の事情」(当該営業又は就労は、本件事故がなくても実行されたと見込まれるとか、従来と同等の内容及び安定性・継続性を有するとか、その利益や給与等の額が多額であるなど)がある場合は、控除されることになる。なお、小高基準12(4)イは「転勤による減収にとどまる場合」を挙げているが、総括基準8の特段の事情の一例として挙げられているものである。
また、適用されないことを申立人が申告することとされているが(12(3))、就労不能損害に関する事実は申立人側から主張をするということを意味する。
ウ 小高集団事件では、小高基準に基づいて「実際に得た収入」を控除されなかった事件がある一方、控除を受けた事件もある。
原発事故によりいったん就労不能となった後、元の勤務先が再開し復帰した場合でも、例えば遠隔地からの通勤となり就労するのに苦労している場合などは、給料の受取りを再開していても、事故前の給料相当額が賠償として認められる可能性があるが、個別の案件の事情によって判断されている模様である。
以 上
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ひな形(PDFデータ)