【ご報告】被ばくの不安により福島第一原子力発電所での勤務を退職した場合の就労不能損害

【和解案のご報告】

被ばくの不安により福島第一原子力発電所での勤務を退職した場合の就労不能損害

 

平成25年8月20日

 

                          原発被災者弁護団

 

1 事案の概要

申立人は,事故前から,福島第一原子力発電所で放射線を管理する業務に就いていました。申立人の業務の具体的な内容は,高線量と思われる現場に入って線量を測定し,事前に作業員の被ばく線量を計算し,作業員に同行して作業時間を管理すること等でした。しかし,事故後は放射線管理が困難なだけでなく,現場の作業員の被ばくに対する感覚が麻痺してしまいました。例えば,作業員が申立人の指示に従わず,作業時間経過後も作業を止めないため,申立人も作業時間が超過し,計画以上の被ばくをしてしまうことがありました。さらに,申立人は,きちんとした被ばく線量を通知されておらず,結果として自身がどれだけ被ばくしたのか分からないまま業務を続けていました。低線量被ばくの影響のひとつとして,子孫に影響が出る遺伝的影響があると言われていますが,申立人は,事故当時20代半ばの男性で,ちょうど結婚を控えており,被ばくに対する不安がありました。また,待機場所の衛生状態は劣悪であり,過酷な暑さの中で作業により体調を崩す作業員が多くいました。また,申立人は会社が借りた寮から出勤しており,勤務時間外も心身を休めることができませんでした。

申立人は,このような過酷な労働やストレスから不眠,下痢,急性気管支炎に罹り,勤務を継続することが困難になってしまい,平成23年7月,退職しました。そこで,申立人は,センターにおいて,退職は本件事故によるものだとして,収入の減少分(就労不能損害)等を請求する和解仲介を申立しました。

これに対し,東電側は,申立人の退職は自主的退職であり,就労不能損害の賠償には応じられないと反論していました。

 

2 和解案の内容

センターは,申立人の請求する就労不能損害のうち請求金額の7割にあたる金額を支払うという和解案を提示しました。

 

3 和解案の意義

低線量被ばくの影響は現時点でもまだ科学的に解明されていません。高放射線量を被ばくしやすい業務についており,これから家庭を築いていくという事情のある申立人が退職を事実上余儀なくされたことは,一般的な感覚では十分に首肯できるものです。

また,申立人は,申立後,初めて東電から被ばく線量を通知されました。作業員は高線量を被ばくしないようにある程度自衛する必要があり,その前提として自身の被ばく線量を知っていなければなりません。東京電力において放射線管理が困難な状況を惹起しておきながら,さらに,被ばく線量の正確な把握まで作業員に負担させるべきではありません。

センターはかかる申立人の主張を受け,法律が被ばくからの身体の安全を保障するものか不明であり,申立人が若く結婚を控えていると言う事情なども考慮し,上記の和解案を提示しました。

形式的には自主退職とも言える事案において,本件固有の事情を考慮して実質的に退職の理由を判断し,就労不能損害を認めた和解案は評価するべきと考えます。

申立人は,和解案が少なくとも自主的退職を前提としたものではないこと,及び,早期解決を望んでいることから,7割という必ずしも十分でない金額ではありながら和解案を受諾する方針です。

東京電力には,すみやかに当該和解案を受諾するよう求めます。