【意見書】和解方針を遵守とADRに和解案に片面的拘束力を与える立法措置を求める

東京電力に対し、被ばく慰謝料に関する和解方針を遵守することを求め、

紛争解決センターの和解案に片面的拘束力を与える立法措置を求める

声明文

 

平成25年7月11日

 

原発被災者弁護団

 

1 東京電力の意見表明

  平成25年6月26日、東京電力株式会社(以下「東京電力」という。)は、原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」という。)が飯舘村長泥地区住民集団申立てに関して示した和解方針のうち、放射線被ばくへの恐怖や不安に対する慰謝料(以下「被ばく慰謝料」という。)を認めた部分(以下「被ばく慰謝料に関する和解方針」という。)について、「低線量被ばくと健康被害に関する科学的知見と整合せず、既に公表しているとおり月額10万円の慰謝料をお支払することとなることも踏まえれば、かかる金額を超えて慰謝料を支払うべき具体的な権利侵害があったと認めることは困難である上、本事案にとどまらない影響があり得ることから、かかる考え方を本和解手続きにおいて受け入れることは困難」であるとの意見を表明した(以下「本件意見表明」という。)

 

2 被ばく慰謝料に関する和解方針の遵守要求

(1)しかし、本件意見表明は、被ばく慰謝料を認めた場合の波及効果を恐れるあまり、長泥地区住民の被害を無視するものであって、明らかに不当である。

  長泥地区では、本件原発事故後、旧警戒区域と同程度の放射線が計測されていたにもかかわらず、平成23年4月22日に計画的避難区域に指定されるまで、避難勧告はなく、住民の多くは、同年5月中旬ころまで避難できなかった。

  長泥地区住民の被ばく量では健康被害が生じないとする科学的知見は確立していないのであり、今後、重大な健康被害が生じる可能性は否定できない。旧警戒区域と同程度の放射線量下で約2ヵ月間生活せざるを得なかった同地区住民が、健康被害を懸念し、深刻な不安・恐怖を抱くことは至極当然である。

(2)また、本件意見表明は、東京電力自らが繰り返し表明している和解案尊重の約束を踏みにじるものである。

  東京電力は、平成23年10月28日付けの緊急特別事業計画において、「被害者の方々の立場に立ち、紛争処理の迅速化に積極的に貢献するため、紛争審査会において提示される和解案については、東電として、これを尊重することとする。」と表明し、自らが和解案を尊重することを約束した。東京電力は、その後も繰り返し和解案尊重の約束を表明している。

  本件意見表明は、東京電力が今後、和解方針に従って作成される和解案を拒否することの予告である。これは、自らが繰り返し表明している和解案尊重の約束を踏みにじるものであって、到底受け入れられるものではない。

(3)よって、当弁護団は、東京電力に対し、即刻、本件意見表明を撤回し、被ばく慰謝料に関する和解方針を遵守するよう強く求める。

 

3 和解案に片面的拘束力を与える立法措置要求

(1)センターは、原子力損害賠償に関する紛争を迅速かつ適正に解決するために設置されたADR機関であるが、センターの和解案に裁定機能は付与されていない。それゆえ、和解仲介の実効性をどのように確保していくかが、その発足当初から問題となっていた。政府も、センターについて、「今後の紛争処理状況を見ながら、紛争解決機能を強化するための立法措置の在り方についても検討していく」(平成23年6月23日付け枝野官房長官記者発表)としていた。

(2)その後、前述のとおり、東京電力は和解案尊重の約束を繰り返し表明するに至った。当弁護団としても、東京電力がこの約束を誠実かつ確実に履行し、センターによる和解仲介の実効性が確保されることを期待していた。

  ところが、東京電力は、これまで度々、和解案尊重の約束に反する姿勢を示してきた。すなわち、センターの和解仲介案に難色を示す、和解仲介案に対する回答期限を守らない、確立した和解先例を無視した主張をする、などである。このような東京電力の姿勢は紛争解決センターでも問題視されており(平成24年7月5日決定総括基準8参照)、当弁護団も度々抗議している。

  それにもかかわらず、今般、東京電力は、被ばく慰謝料に関する和解方針の考え方を受け入れることを拒否した。もはや東京電力の和解案尊重の約束に期待するだけではセンターによる和解仲介の実効性を十分確保することはできないのであり、立法措置が必要である。

(3)日本弁護士連合会の平成24年8月23日付け「原子力損害賠償紛争解決センターの立法化を求める意見書」では、以下のとおり、センターの和解案に片面的拘束力を与えるべきとする立法提案がなされている。

  「センターの和解案の提示に加害者側への裁定機能を法定し、被害者は裁定に拘束されないが、東京電力側が一定期間内に裁判を提起しない限り、裁定どおりの和解内容が成立したものと見なすこととすべきである。また、東京電力側は裁定案を尊重しなければならないものとし、裁定案の内容が著しく不合理なものでない限り、これを受諾しなければならないものとすること。」

  当弁護団は上記立法提案を支持する。国は、速やかに、これに従った措置を講じるべきである。

 以 上

PDFデータこちら(162KB)