【ご報告】当弁護団は,原子力損害賠償紛争解決センターに対して申入れを行いました。

センター和解案に対する申し入れ事項

 

       2013年3月22日

 

原子力損害賠償紛争解決センター 御中

 

原発被災者弁護団

 

第1 申し入れの趣旨

    貴センターにおいて提案する和解案について、

1 特段の事情がない限り、和解金には遅延損害金を付されるとともに、仮払金を控除する場合には遅延損害金から先に充当することとされたい。万一、和解金に遅延損害金を付さない場合には、これについて清算の対象とすることを取りやめられたい。

 

2 清算条項を付す場合には、以下のような取り扱いとされたい。

(1)  清算条項を付すべき範囲について、両当事者に意見を述べる機会を十分に与える。審理の過程で清算条項を付すべき範囲につき何らの議論がなされていないにもかかわらず、貴センターからの和解案でいきなり清算条項を付すことをしない。

(2) 清算する範囲を、原則として、和解仲介を申し立てている損害に限定する。

(3) 和解仲介を申し立てている損害を超えて清算条項を付す場合は、以下の通りとする。

ア 清算の対象となっている請求権の範囲につき和解契約上で明確化する。

明確化のために用いる用語の定義につき、中間指針等別途の文書を参照する場合は、当該文書の該当箇所を明記する。

イ 和解仲介を申し立てている損害の範囲を超えて清算することにより被災者が得られる利益につき、貴センターより具体的に説明する。

 

3 下記請求権には、清算条項が適用されないこととされたい。

(1) 和解の時点において和解仲介を申し立てていなかったことに理由のある請求権

(2) 清算の対象となっている請求権につき、和解成立後に、その趣旨を適用又は準用すべきと認められる、原子力損害賠償紛争審査会の指針または貴センターの総括基準もしくは東京電力株式会社自身が定める賠償基準が出された場合において、当該指針や基準の適用又は準用により被害者に有利となる部分

 

4 和解案のうち、一部の損害に係る部分のみについて受諾することを認める。

 

第2 申し入れの理由

1 貴センターの現状の取り扱い

貴センターにおいては、和解案を提案する場合、和解の対象となった損害項目については、和解仲介を申し立てた範囲に含まれているかどうかを問わず、包括的かつ概括的に清算条項を付す取り扱い(遅延損害金も清算対象とする)が広がっているように見受けられます。

当弁護団としても、清算条項を付すことに個別の積極的な理由があれば、その限度では付すこともやむを得ないと考えております。

しかし、そのような個別具体的な理由なく、包括的又は概括的に清算条項を付すことについては、以下のような問題点があり、不相当と考えております。

 

2 遅延損害金を放棄させている点について

和解案策定の過程において、遅延損害金を考慮した調整が行われた形跡が伺われないことが多いと思われます。東京電力に対して直接請求する場合には、遅延損害金の放棄は求められていませんので、貴センターの和解仲介の場合において、一般的に放棄を求められるのは、相当ではないように考えています。

貴センターが運営を開始した当初にあっては、和解仲介申立の対象となった請求額も比較的少額のものが多く、かつ、遅延損害金の計算期間も比較的短期間であったため、仮に遅延損害金を付したとしてもその絶対額は多額とは言えない場合が多かったことから、迅速な和解成立により重点を置く観点から、遅延損害金を放棄させることについて一定の合理性のある場合もあったと思われます。

しかし、事故からおよそ2年が経過し、法律及び判例に基づく遅延損害金額は未払い損害金の約10%にも及ぶこととなっていること、今後、不動産に対する賠償など請求額の比較的多いものが和解仲介申立の対象となってくることに鑑みると、貴センターの運営開始当初とは状況が変わっており、貴センターの取扱を変更すべき時期に来ているものと考えます。

よって、当弁護団としては、貴センターの提案される和解案には、原則として遅延損害金を付すこととし、万一、それが適切でない場合であっても、遅延損害金について清算させず、遅延損害金を付すかどうかは、後の司法判断に委ねさせて欲しいと考えています。

また、遅延損害金が付加された損害額の支払いが和解案で提示された場合で、仮払金との清算を行う場合には、通常の損害賠償請求と同様に、仮払金は遅延損害金から先に充当される扱いがなされるべきであります。

 

3 清算する範囲が、本件の請求を超えている点について

通常、訴訟上の和解を行う際は、「本件に関し」て清算条項をおきます。つまり、「本件」すなわち請求原因で特定された本件請求について、清算するという趣旨です。

しかし、貴センターの和解案では、申立に係る請求だけでなく、一定の期間(以下「清算期間」といいます。)における一定の損害項目については、本件で申立てていないものについても、清算の対象とすることが多く見受けられます。このように、清算の範囲を、訴訟上の和解の場合以上に拡大している理由は理解しがたいものがあります。

後から領収書が出てきた場合など、和解の時点で請求していなかったことに理由がある場合についてまで、失権させられてしまうことは、相当とは思われません。

 

4 損害項目の定義について

貴センターの提案される清算条項は、一定の損害項目であって、清算期間に係るものに及ぶこととされることが一般的です。

しかし、個々の清算対象損害項目の定義はなされていませんし、中間指針にもその定義が明示されているわけではありません。

清算条項の適用範囲を明確にするため、清算対象損害項目の定義を明確化すべきであると考えます。

 

5 清算条項の適用除外について

未だ今回の原発事故による被害は継続中であり、被害者らが被った損害の内容は確定していない状況にあることから、今後に原子力損害賠償紛争審査会の指針または貴センターの総括基準もしくは東京電力株式会社自身が定める賠償基準が新たに策定される可能性があり得るものと想定されます。そして、かかる指針や基準が策定された場合において、その指針や基準の策定前に貴センターの和解案の提示を受けて和解を成立させた被害者に不利益が生じないための措置をとるべきであり、その旨を和解契約書に明記する必要があると考えます。

 

6 和解案の一部受諾について

全ての場合ではありませんが、貴センターの提案される和解案につき、全部受諾か又は全部拒否かのオールオアナッシングで回答を求められる場合があります。しかし、このような方法は、独禁法で禁止された抱き合わせ販売にも通じるものであり、また、清算条項を付される場合には、一定の損害に限定して和解したいと考えることにも合理性がありますから、一部受諾も認められるべきです。

 

以 上