【報告】「原発賠償議員懇談会」開催のご報告

「原発賠償議員懇談会」開催のご報告

 

2012年9月11日

 

原発被災者弁護団

 

2012年9月6日,当弁護団は,参議院議員会館において,原発被害救済弁護団(埼玉),双葉町弁護団,弁政連福島県支部,被災者代表の方々(双葉町,南相馬市小高区・原町区,伊達市小国地区)とともに福島県選出の国会議員の方々と原発賠償問議員懇談会を開催致しました。

 

福島選出の与野党国会議員6名(渡部恒三民主党衆議院議員,増子輝彦民主党参議院議員,金子恵美民主党参議院議員,荒井広幸新党改革参議院議員,太田和美国民の生活が第一衆議院議員,石原洋三郎国民の生活が第一衆議院議員,小熊慎司みんなの党参議院議員,)及び他議員秘書の方々に多数ご参加頂きました。

 

今回の議員懇談会は,国会議員の方々の面前で,当日お越し頂いた被災者代表の方々から生の声で被害実態を語って頂き,現状における原発事故の損害賠償上の問題点を明らかにすることに主眼が置かれました。こちらから提起させて頂いた原発賠償上の問題点の主要なものは以下のとおりです(詳細は別紙「原発賠償問題議員懇談会に要望する事項」)。

 

①慰謝料問題(月額10万円をベースとすることに合理性はなく,大幅増額すべきこと等),

 

②不動産等の財物損害(再取得価格による賠償,帰宅困難区域以外でも全損評価があり得ること等)

 

③旧緊急時避難準備区域等の賠償終期問題(平成24年8月末日を賠償終期とすべきでないこと等)

 

④特定避難勧奨地点とその周辺地域の抱える問題(特定避難勧奨地点と認定されるか否かが賠償の分かれ目になっており,地域を分断していること等)

 

また,今回の議員懇談会では,原発事故の損害賠償問題の他にも,被災者の代表の方々と国会議員の方々との間で,地域の除染や原発事故による子ども・被災者支援法等についての意見・情報交換も行われました。

 

さらに,今回の議員懇談会では,被災者代表の方々から,被災現地である福島にて,今回のような機会を設けるべきとの提案がなされ,今回参加された国会議員の方々からもその方向性に賛同する旨の発言がありました。当弁護団としても,福島現地での議員懇談会等の開催に向け助力していく所存です。

 

以上のとおり,今回の議員懇談会は,参加された国会議員の方々に被災者および被災地の被害実態をよりよく知って頂くいい機会となったものと思われます。

 

当弁護団は,今後とも被災者の方々の生の声を国に伝えていく努力を続けていきます。

 

以 上

 

 

 

 

原発賠償問題議員懇談会に要望する事項

 

 

平成24年9月6日 双葉町弁護団

 

原発被災者弁護団 他

 

 

1 原賠審策定の中間指針(平成23年8月5日)の見直しと改定

 

① 慰謝料の大幅な増額。

 

原則月10万円の慰謝料額には、当初より被害者らの不満が大きい。中間指針第二次追補にて明記された一人240万円(居住制限区域)もしくは一人600万円(帰還困難区域)についても、月10万円の慰謝料額が算定根拠となっているものであって、被害者には受け入れられないものである。

 

この点、慰謝料につき、各地弁護団では、避難慰謝料(日常生活阻害慰謝料)は、最低でも月35万円を請求するとの方針が多い。この数字には合理的な根拠もある。

 

また、中間指針においては日常生活阻害慰謝料に言及するのみであるが、他にも、例えば仕事や趣味など生きがいを失われたことに対する慰謝料、先祖代々の土地を失われたことに対する慰謝料、地域コミュニティが失われたことに対する慰謝料など、様々な慰謝料を観念しうる。

 

したがって、被害者の意見を聴きながら、被害実態を踏まえて慰謝料額を決定すべきであって、少なくとも現在の金額より大幅な増額が必要とされるものと考える。

 

② 財物損害に関する指針の策定。その際に、避難先での生活基盤の再取得価額の賠償の視点を取り入れること。

 

財物損害については、平成24年7月20日に経済産業省が「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を、7月24日に東京電力が「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について」をそれぞれ公表した。

 

しかし、これまで原子力損害賠償の紛争の解決指針は原賠審において議論・策定されてきたにもかかわらず、今回は8月3日の原賠審にて事後的な報告がなされたにとどまり、基準の策定過程の透明性が全く確保されていない。

 

また、その内容は、「事故発生前の価値の賠償」という言及からして交換価値の賠償が念頭にあることは明らかであるが、この程度の賠償では、被害者が避難先で生活基盤を回復することはほぼ不可能である。

 

そもそも、本件事故は、被害者の土地や建物という個々の財産の交換価値を失わせたのではなく、そこに住む被害者の生活基盤そのものを奪ったものである。そして、被害者は、場所を選ぶ余裕もないまま避難を余儀なくさせられ、その場所での生活再建を始めざるを得ない状況にある。

 

したがって、財物損害については改めて原賠審にて議論を行うべきであり、その際には、被害者がそれぞれの避難先にて生活基盤を回復できるだけの賠償が行われるよう検討がなされなければならない。

 

③ 旧緊急時避難準備区域に関して、その大部分の地域につき平成24年8月末日を賠償の終期とするが、未だ終期を設定すべきではないこと。

 

中間指針第二次追補は、以下の点をもって平成24年8月末を終期とすることの理由とする。

 

1) この区域におけるインフラ復旧は平成24年3月末までに概ね完了する見通しである。

 

2) 生活環境整備には一定期間を要する見込みだが、第2学期が始まる9月までには市町村内の学校に通学できる環境が整う予定である。

 

3) 避難者が従前の住居に戻るための準備に一定の期間が必要である。

 

しかし、原発事故は未だに終息したとはいえず、市の除染作業すら満足に進んでいない中、帰還できない住民が未だ多数存在するため地域コミュニティの回復はなされておらず、現時点においても、上記のような状況にはない。

 

そして、中間指針第二次追補自体が次の指摘を行う。「但し、現時点(平成24年3月16日)でこれらの事情を前提に目安として示すものであり、今後、当該事情に変更が生じた場合は、実際の状況を考慮して柔軟に判断することが適当」。

 

したがって、未だ賠償終期を認める時期ではない。

 

④ 原賠審の委員に被害者側を参加させること。

 

中間指針は東電の賠償方針の最低限を画すものであるが、被害者より最低限の理解すら得られていないことが、現在の賠償手続の遅滞をもたらしていると考えられる。原賠審の委員に被害者もしくは被害者を代表する立場の人物はなく、被害者は、区域外避難者に関して過去わずかに委員聴取りの機会を与えられた他は、傍聴人として参加できるのみである。

 

言うまでもなく被害者は、本件において東電に対して最も利害関係を有する当事者的立場にあるから、当事者を排除した場で賠償方針を決定することは許されるべきではない。

 

この点、平成23年12月3日の原子力被害の完全賠償を求める双葉地方総決起大会の大会決議においても、要求事項として「国は、原子力損害賠償紛争審査会の委員に我々を参加させること」が掲げられている。

 

2 原紛センターの解決機能実効化に関する法律改正(原紛センターの立法化)

 

① 原紛センターの独立化

 

現在の原紛センターは、原賠法18条に基づく原賠審の和解仲介の任務を行うための機関として設置されたものである。すなわち、文科省の管轄下にあり、かつ原賠審の付属機関としての位置づけである。

 

そのため、本来、損害賠償紛争の解決は法や判例など司法的基準に準じるべきであるにもかかわらず、その独立性が担保されていない。その結果、仲介委員が中間指針に縛られすぎ、中間指針を超える賠償は認められない、中間指針に記載されていない賠償は認められないなど、被害者が満足できる和解案が提示されない現状がある。

 

したがって、準司法的な作用を有する原紛センターを、原子力に関する行政を一部所管する文部科学省に置くのではなく、独立した機関として設置すべきである。

 

② 片面的裁定機能の付与

 

東電と被害者個人との間に大きな力の差がある。「被害者の保護を図る」という原賠法の目的からしても、原紛センターの和解案は、当事者対等を前提とした通常の和解仲介とは異なり、東電が遵守しなければならない性質のものである。

 

にもかかわらず、東電が審理を不当に遅延させる例や強硬に否認姿勢を貫く例が見られるため、紛争解決の大きな障害となっている。

 

したがって、原紛センターの和解案に加害者側への片面的な裁定機能を付与し、被害者は裁定に拘束されないが、東電は裁定案を受諾しなければならないとすべきである。

 

③ 消滅時効中断効の付与

 

理論上、継続的不法行為として、未だ本件損害賠償債権の時効は進行を開始していない考え方もありうるが、仮に平成23年3月11日の事故発生時を時効の起算日と捉えた場合、すでに1年6か月近くが経過し、1年半後に消滅時効を迎える可能性も否定できない。

 

そして、被害の全貌を被害者自身が掌握できていないこと、直接請求が進まず、原紛センターによる和解仲介手続も半年以上の期間を要する案件も珍しくない現状があること、未だ高齢者・障害者等に対する請求のバックアップ体制が確立していないこと、などを勘案すると、わずか3年で損害賠償債権が消滅時効を迎えるとするのは、あまりに被害者に過酷であり、かつ重大な権利侵害を招く恐れがある。

 

したがって、原紛センターの申立に時効中断効を付与すべきである。

 

 

 

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