【報告】東京電力による不当な賠償遅延事例について

東京電力による不当な賠償遅延事例について

平成24年7月25日

 

原発被災者弁護団

 

第1 東京電力による審理不当遅延の事例の存在 

1 はじめに

平成24年7月5日,原子力損害賠償紛争解決センター総括委員会は,「東京電力の対応に問題のある事例」を公表した。

しかしながら,当弁護団が受任している事件の中に,原子力損害賠償紛争解決センターが公表した東京電力による審理の不当遅延事例(詳しくは,原子力損害賠償紛争解決センターホームページ上に公表されている「東京電力の対応に問題のある事例の和解契約書及び審理経過の公表について」を参照)を上回る,不当な賠償遅延事例が存在する(平成23年(東)第17号事件)。

当弁護団としては,これまでも,東京電力の不誠実極まる対応を批判し,適宜の方法でその不誠実さを追求してきたところであるが,経営トップ変更後も依然として東京電力の不誠実かつ不当な賠償対応が改善される兆しが見られない状況に鑑み,東京電力による被災者に対する賠償の不当遅延に警鐘を鳴らし,東京電力による被災者に対する賠償対応を抜本的に改めさせるべく,ここに上記問題事例の概要を公表する次第である。

 

2 東京電力が遵守を誓った5つのお約束

東京電力は国からの賠償支援を受ける条件として,次の5つの約束の遵守を誓約している。

 

1 迅速な賠償のお支払い

2 きめ細やかな賠償のお支払い

3 和解仲介案の尊重

4 親切な書類手続き

5 誠実な御要望への対応

 

東京電力は,原子力損害賠償紛争解決センターが提示した和解案に対し何らの回答もせず,長期間放置したりするような事態が「3 和解仲介案の尊重」の約束のみならず,「1 迅速な賠償のお支払い」の約束にも違反しているということを改めて認識すべきである。

 

 

3 原子力損害賠償紛争解決センターに求められる職責

原子力損害賠償紛争解決センターは,東京電力が上記5つの約束の遵守を誓約していることに鑑み,東京電力による支払遅延および東京電力による和解案の放置等を容認しているかのような現状を真摯に反省し,東京電力による上記約束違反を助長することのないよう,その職責を果たすべきである。

 

第2 東京電力による不当な賠償遅延事例の概要 

【事案の概要】

・ 申立人夫妻は,大熊町に自宅を所有していたところ(土地は借地),夫の定年退職後,夫婦で上記自宅を終の棲家として幸せな生活を送っていた。申立人らの自宅は子供や孫たちが休みのとき等に一同に会することのできる貴重な場であった。

・ 福島第1原子力発電所の敷地から約3キロに自宅所在

・ 主な争点は,住宅・家財の損害,終の棲家を奪われたこと等に対する慰謝料。

・ 原子力損害賠償紛争解決センターには,同一の争点につき賠償を認める内容の和解先例(平成23年(東)第1号事件)が平成24年2月27日の段階で既に存在していた。

 

【審理の経過】

別紙「問題事例と和解先例との審理経過の比較」を参照。

 

【和解案の概要】

後掲「和解案提示理由書(再)(全部和解)」(※ただし,一部抜粋)を参照。

 

【東京電力による不当な賠償遅延態様の概要】

1 回答期限の徒過

  別紙「問題事例と和解先例との審理経過の比較」に記載のとおり,東京電力は,原子力損害賠償紛争解決センターが平成24年1月25日までに申立人側の全請求項目に対する東電側の認否を行うよう回答期限を設定したにもかかわらず,同センターが設定した回答期限を一方的に無視した。

 この点に関し,東京電力側は,平成24年7月19日のテレビ報道によれば,「回答期限の誤認をした」との言い分を述べているようであるが,そのような言い分は明らかに不当である。

まず,上記回答期限は,東京電力側代理人弁護士及び同社社員が同席した口頭審理期日において,仲介委員が繰り返し念を押した上で設定された期日であ

った。このような状況下で設定された回答期限を東京電力側が誤認するはずがなく,「回答期限を誤認した」等という詭弁による言い逃れは断じて許されるものではない。

また,財物損害に関する考え方につき,原子力損害賠償紛争解決センターから東京電力に対し,平成23年12月13日付け求釈明が行われ,東京電力は

平成24年1月4日付け回答書を既に提出していた(この回答内容が不合理であることにつき,本書第2の2参照)ことを踏まえれば,東京電力にとり,回答期限内に申立人側の全請求項目に対する認否を行うことは容易であったものと思われる。

このように本問題事例において,東京電力が回答期限を守ることは容易であったと思われるにもかかわらず,当時,東京電力が上記回答期限を無視した背

景には,東京電力による組織的な事情があった可能性が指摘できる。

すなわち,別紙「問題事例と和解先例との審理経過の比較」から明らかなとおり,当時,東京電力は,和解先例(1号事件)において提示された和解案(住宅や家財の賠償を含む画期的な和解案であった)に対する回答期限を平成24年1月27日に設定されていた。このような状況下におかれていた東京電力としては,社会的な注目が集まる中,問題事例(17号事件)においては住宅等の賠償につき認否留保ないし賠償拒否をしつつ,1号事件では住宅賠償を認める方向の回答を行うというような矛盾した回答を同時期に行うことをしかねたため,いわば組織的に17号事件の回答期限を無視した可能性がある。

本件原発事故では,現時点では,加害者は単一(東京電力のみ)であることにも鑑みれば,東京電力が問題事例(17号事件)の回答期限を知らなかった

(誤認していた)などということは決してありえないはずであり,仮にそのような事態があったとすれば,個々の被災者を蔑ろにした由々しき事態である。

2 指針の趣旨にもとる主張内容の不当性(取るに足らない理由を掲げて争う等)

  本問題事例における指針の趣旨にもとる不当な主張内容の例として,次のようなものがある。

・ 東京電力は,平成23年10月11日付答弁書,平成24年2月2日付準備書面(1),同年2月17日付準備書面(2)のいずれにおいても,福島第1原子力発電所の敷地からわずか3キロの距離に申立人らの自宅が所在しているにもかかわらず,「放射性物質の除染の方法等が明らかになっていない」等の社会の一般常識からかけ離れた不合理な理由を繰り返すことにより,住宅や家財等の財物価値の喪失・減少に関し,認否の留保をし続けた。

東京電力側のこの態度は和解先例(平成23年(東)第1号)が平成24年2月27日の段階で存在していたにもかかわらず,変えられることはなか

った。なお,同和解先例は原子力損害賠償紛争解決センターのホームページ上でも公表されている。

   ※和解先例(1号事件)と問題事例(17号事件)の担当弁護士が同じであったこともあり,申立人側は,和解先例の存在について,口頭審理期日

の場で何度も指摘していた。

・ 情報収集に必要不可欠であったパソコンや避難先の自宅に取り付けたカーテンにつき,当初,生活必需品ではない等との理由で賠償拒否。

・  宿泊料につき,当初,食事代込みの宿泊費の場合は宿泊費全額を支払えるが,食事代別の場合は,食事代については賠償拒否。

 

3 和解先例と矛盾した対応

平成24年2月27日の段階で住宅や家財の賠償を認めた和解先例(1号事件)が存在していたことは,これまで述べたとおりである。この和解先例に

ついては,当弁護団のホームページ上の該当記事をご参照下さい。

 

4 和解案に対する回答の放置

問題事例では,和解案に対する回答期限が設定されていなかったものの,東京電力は和解案が平成24年6月4日に出されたにもかかわらず,一ヶ月

以上も経過した現在に至っても,申立人らに対し,和解案受け入れの態度を示していない。

  なお,東京電力は,平成24年7月19日のテレビ放送の中で,和解案を受諾方向で検討中とテレビ局に対して回答したようであるが,東京電力は,申立人らに対し,いまだそのような回答を行っていない。

東京電力が,申立人らに回答をする前に,テレビ局に対して上記のような回答をしたことは,社会に対し誠実さを装うことが目的であると思われるとこ

ろ,東京電力のこのような対応は,解決を待ち続ける申立人らの気持ちを踏みにじるものであり,申立人らは非常に憤りを感じているところである。

東京電力の申立人らの軽視には目に余るものがある。

第3 原子力損害賠償紛争解決センター側の不手際 

本問題事例の解決が現在に至るまでなされていないことの一因には,原子力損害賠償紛争解決センター側の不手際も挙げられる。

・ 口頭審理期日で仲介委員が「平成24年3月末までには和解案を出す」と明言しながら,事前の予告どおりに和解案が出されなかったこと

・ 申立人側の催促により,漸く和解案が出されたと思ったら,申立人側が望んでもいない一部和解(住宅賠償等の本件の核心問題の解決を棚上げにした内容の一部和解であった)を提示してきたこと。この一部和解案が申立人側を失望させたことは言うまでもない。

・ 申立人側の再考要請を受け入れ,住宅賠償等の核心問題の解決も含む全部和解案が漸く出されたと思ったものの,提示された和解案に対する回答期限が付されていなかったために,和解案提示から1ヶ月以上もの間,東京電力が和解案に回答せず,東京電力による和解案放置を助長したきらいがある

当弁護団としては,原子力損害賠償紛争解決センターに対し,本問題事例における不手際を真摯に反省し,同様の事態が生ぜぬよう再発防止を強く求める次第である。

 

第4 中間指針や和解先例等に照らした東京電力側の対応の検証                                 

1 中間指針,中間指針第二次追補に照らした検証

財物価値の喪失・減少の判定基準として,中間指針では「当該財物が対象区域内にあり,① 財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合 又は② ①には該当しないものの,財物の種類,性質及び取引態様等から,平均的・一般的な人の認識を基準として,本件事故により当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合」(第3-10(指針)Ⅱ)というように,平均的・一般的な人の認識を基準とした判断が是認されていた。

また,中間指針第二次追補では「Ⅰ)帰還困難区域内の不動産に係る財物価値については,本件事故発生直前の価値を基準として本件事故により100パーセント減少(全損)したものと推認することができるものとする」(第2-4(指針)Ⅰ)とされているところ,本問題事例(17号事件)の申立人の自宅が福島第一原発の敷地から3キロ程度しか離れていない事実に鑑みれば,本件原発事故の加害者である東京電力としても,容易に全損判断をすることが可能であったはずである。

2 和解先例に照らした検証

東京電力とすれば,仮に全損判断が可能であったとしても,損害額の評価が困難であった等の主張をすることが予想される。

しかしながら,上述したように,同じ地域(大熊町),原発からの距離もほぼ同じで,主要な争点も共通(住宅等の財物損害,慰謝料)であった事案(1号事件),につき,原子力損害賠償紛争解決センターの和解先例が平成24年2月27日の段階で既に存在していた。

この和解先例は,住宅や家財の損害額の評価方法として,少なくとも現時点で認められる損害額を認定し,仮にそれを超えるような金額の損害が

和解成立後に判明したような場合には,後日,差額分の追加請求が可能となるような内容の賠償方式である内払い方式を採用していた。

本問題事例においても,和解先例の内払い方式に従った迅速な賠償が可能であった(現に,17号事件において原子力損害賠償紛争解決センターから提示

された和解案では,住宅や家財の損害の賠償方式として,内払い方式が採用されている)。

このように内払い方式による迅速な賠償が可能であったにもかかわらず,東京電力は内払い方式を採用した和解先例を無視し,頑なまでに認否留保を貫き,住宅や家財の賠償を引き延ばし続けた。

このような東京電力の賠償姿勢は,上述した「迅速な賠償のお支払い」という約束に悖るものである。

 

第5 不法行為時からの遅延損害金を付加すべきである 

1 不法行為事案における遅延損害金発生時について

損害賠償実務上,不法行為事案は,加害者による不法行為時から遅延損害金が発生すると考えられている。

今回の東京電力による原発事故も不法行為の一種であり,東京電力は不法行為時から被災者に対する損害賠償債務の履行遅滞に陥るため,東京電力は不法

行為時から年5分の割合による遅延損害金の支払債務を負担することとなる。

殊に今回のような未曾有の被害をもたらした原発事故においては,被災者に対する完全賠償がなされるべきであり,安易に東京電力に遅延損害金の支払い

を免れさせることは,被災者が被った損害に対する完全賠償を蔑ろにするものであり,社会的に見ても是認されるものではない。

2 原子力損害賠償紛争解決センターの遅延損害金に関する総括基準について

原子力損害賠償紛争解決センター総括委員会は,平成24年7月5日,総括基準「加害者による審理の不当遅延と遅延損害金について」を公表した。

ともすると,上記指針は,同センターの和解仲介手続きにおいて,東京電力による不当な審理遅延態度が認められるような場合に,これまで認められてこ

なかった遅延損害金の付加を認める内容であることから,被災者救済に資する内容のようにも思われる。

しかしながら,上述したように,遅延損害金は,「東京電力が審理を不当に遅延させる態度をとったこと」を理由に負担するのではなく,「東京電力が原発事故を起こして,被災者(被害者)に損害を被らせたこと自体」を理由に,損害賠償債務を完済するまで支払いを負担させられるものである。

このような観点からすれば,上記総括基準はむしろ不法行為損害賠償債権の遅滞時期(遅延損害金発生時期)に係る原則を狭める機能を果たしているものといえる。

 

3 結 論

以上のことから,本問題事例に対し,原子力損害賠償紛争解決センターは,東京電力の不法行為時すなわち今回の原発事故時である平成23年3月11日からの遅延損害金を付加した和解案を直ちに提示し,本件問題事例の申立人らが東京電力から迅速かつ妥当な損害賠償を受けられるように配慮すべきである。

以 上

「和解案提示理由書(再)(全部和解)」 ※一部抜粋

当パネルは,来年4月末を目処に被申立人が不動産及び家財に関する損害額の算定基準を確定する予定で作業を進めているとのことであったので,そのことを考慮し,標記申立事件(以下「本件」という。)に関して,平成24年4月26日に不動産及び家財についての損害を和解の対象から除外した和解案提示理由書及び和解案を提示した。しかし,その具体的な算定基準が予定どおり示されないので,上記の和解案提示理由書及び和解案を撤回し,改めて本和解案提示理由書(再)を示すこととする。

なお,本和解案は,本件についての和解仲介手続きをすべて終了させるものとして提示するものである。

 

第1 損害費目と認定額 (略)

 

第2 補足説明

損害と認めるか否かについて,特に当事者間に大きな争いのあった費目に関

する仲介委員の判断は,次のとおりである。

1 車両売却損

車両売却損については,避難に伴い売却を余儀なくされたものであるから,保有を続けていれば有したであろう合理的な時価額と,売却額との差額が損害と認められ,レッドブック(平成23年4月号)に基づき,時価額を172万円と認め(なお,売却を余議なくされた経緯に鑑み,いわゆる下取額ではなく中古車販売価格によるのが相当である。),売却代金120万9150円との差額51万0850円を損害と認める。

 

2 精神的損害

(1)避難生活に伴う精神的損害

避難生活に伴う精神的損害について,中間指針を基本に据えて本件の解決を図ることは,避難者の早期救済という意味において一定の合理性を有す

るものである。また,本件事故から7ヶ月目以降(第2期)については,長期の避難生活が継続する虞が現実のものとなり,今後の生活への不安が増大

していることが推測されるのであって,その精神的苦痛に対しては月額5万円を目安とするのが相当である。したがって,申立人らの避難生活自体に伴

う精神的損害については,第1期,第2期を問わず月額10万円を基本部分として認めるのが相当である。

(2)慰謝料の増額ないし別個独立の慰謝料事由について

申立人らは,故郷を失いかねないこと,地域コミュニティの不可逆的喪失のおそれ等が特別な精神的苦痛に該当すると主張する。

確かにそれらの精神的苦痛が甚大なものであることは,容易に想像することができるものである。中間指針第二次追補も,避難指示区域見直しの時点(第3期)における精神的損害について,「帰還困難区域にあっては,長年住み慣れた住居及び地域における生活の断念を余儀なくされたために生じ

た精神的苦痛が認められ,その他の避難指示区域にあっても,中間指針第3の[損害項目]の6で示された精神的苦痛に準じて精神的損害が認められる」

と述べているところであって,申立人らが主張する精神的苦痛についての精神的損害は,第3期における精神的損害の賠償として検討するのが適切だと

思われるので,本和解の対象とはしないものとする。

(3)なお,慰謝料の額については当事者間に非常に厳しい争いがあるので,上記は,内払いの和解提案である。

 

3 財物損害

(1)建物及び家財の損害

本件建物が福島第一原子力発電所から約2.5kmの距離に位置し,放射性物質に相当程度被曝したと認められることからすれば,本件建物及び家財が「財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合」(中間指針第3の10のⅡの②)に該当することは明らかであって,全損と評価すべきである。

全損と評価した場合の賠償すべき損害は,「現実に価値を喪失し又は減少した部分」であって,「原則として,本件事故発生時点における財物の時価に相当する額」(同備考5)である。本件事故当時の本件建物の時価は,取得価格を基本に再取得価格を算定し,これに取得時から本件事故時までの経年による価格損耗分(減価償却費相当額)を控除して求めるのが相当であり,具体的には税務上用いられている非事業用木造建物の減価償却後の残存価値を求める算式を用いて算出した額をもって損害額とするのが相当である。

(算式)減価償却費=取得価格×0.9×償却率×経過年数

本件建物を平成12年に新築した際の取得価格は,2509万6514円を下回らないと認められ,同額を再取得価格として,減価償却費相当額を控除すると,1739万4393円となる。

(算式)2509万6514円×(1-0.9×0.031×11)

上記のとおり,本件建物と福島第一原子力発電所との距離,放射性物質に被曝したと認められる程度等を勘案すれば,本件建物は全損と認めるのが相当であるが,損害賠償による代位(民法422条)を考慮すると,現段階では,上記金額の一部393円を残し,1739万4000円を損害額と認める。

なお,本件事故における不動産価格の評価については,国が買い上げるなどの方策が検討されている現時点での評価方法は確定的ではなく,今後統一的な考え方が示されると思われるので,上記金額は内払いとして提示するものである。ただし,今後統一的な評価方法が定められ,その方法によって算出された時価額が上記金額を下回ることとなる場合があったとしても,そのことは現時点においては予測不可能であるから,清算しないこととするのが相当である。

(2)家財の損害

上記建物内に存在する家財は,原発事故から1年以上にわたり放置されていること等からその価値は著しく毀損したと認められる。そして,申立人らの家族構成,年齢,建物の規模,過去の裁判例,国税庁の雑損控除の取扱い等に鑑みれば,申立人○○が請求する1000万円は,事故前の価値として相当な金額であると認められる。

また,上記3(1)と同様の理由により,上記金額を賠償すべき損害の内払いとして認める。

(3)庭の損害,家屋及び庭の撤去費用

庭の損害,家屋及び庭の撤去費用については,現在価値を算出する一般的な基準を見出すのは困難なため,今回の早期解決を求める和解案提示には含めないこととした。

 

4 看板代 (略)

 

5 仮払補償金の取扱い

上に述べたとおり,避難生活に伴う精神的損害に対する慰謝料並びに不動産及び家財に関する財物損害が内払いであること,今後,第3期における精神的損害に対する慰謝料,庭の損害,家屋及び庭の撤去費用の損害の賠償が見込まれる等を考慮すると,申立人らが支払いを受けた仮払補償金は,本件和解金から控除しないものとするのが相当である。

 

6 清算条項

上に述べたとおり,避難生活に伴う精神的損害に対する慰謝料及び財物損害がいずれも内払いであるので,それらの損害費目については,清算条項を付さないものとする。

 

平成24年6月4日

 

原子力損害賠償紛争解決センター

仲介委員長   北  尾  哲  郎

仲介委員    仁  科     豊

仲介委員    九  石  拓  也

 

 

【この間の出来事についてのまとめ】

 

 

問題事例(17号事件) 和解先例(1号事件)
【事案の概要】                                     福島第1原発から約3キロに自宅建物所在(借地)。申立人2名(ご夫婦)。主な争点は,①住宅・家財の損害,②慰謝料。 【事案の概要】                                     福島第1原発から約5キロに自宅建物所在(借地)。申立人2名(ご夫婦)。主な争点は,①住宅・家財の損害,②慰謝料。
9/1 申立て
9/13頃 申立て
9/16  仲介委員指名通知
9/28  東京電力 答弁書提出
10/3  仲介委員指名通知
10/11 東京電力 答弁書提出 10/11 第1回口頭審理期日
        ※放射性物質の除染の方法等が明らかになっていない  
          との理由で住宅や家財等の損害に関し認否留保  
10/12 弁護団弁護士に相談
10/21 仲介委員から求釈明
      →申立人側 慰謝料の根拠等
      →東京電力側 財物損害の考え方
11/2   申立人側,東京電力側 求釈明に対する回答
11/4 口頭審理期日の日程調整に関する通知 受取り
11/14  第2回口頭審理期日
        →申立人側宿題   本件の慰謝料増額事由
        →東京電力側宿題  財物損害の考え方
12/1   申立人側に対する確認事項書 受取り
         →回答書を12/13の第1回期日に提出
12/13  第1回口頭審理期日
        →求釈明  東京電力側 財物損害の考え方
           回答期限:平成24年1月4日 12/20  申立人側   慰謝料増額事由の主張書面  提出
12/21  東京電力側  財物損害の考え方の主張書面 提出
        →申立人側宿題:1/4までに請求漏れ事項の追加 12/22  第3回口頭審理期日
        →東京電力側宿題:1/25までに主張書面提出(※)
           ※内容:住宅の損害等に関する東電側の考えや認否 12/27  仲介委員  和解理由提示書  提示
         →回答期限:平成24年1月27日
1/4   東京電力側  求釈明に対する回答書  提出
        ※放射性物質の除染の方法等が未判明,区域見直し予定
          等を理由に,一般人の認識を基準としても,財物価値の
          喪失の有無についての法的評価・判断は困難である。
1/25  東京電力側  回答期限無視
1/26   東京電力側 和解案提示理由書に対する回答 提出
        ①住宅・家財の賠償 内払いの拒否,清算条項設定
        ②申立人各自50万円の慰謝料増額 拒否
        ③今回の和解金額からの仮払金非控除の拒否
2/2   第2回口頭弁論期日
       ※東京電力側 1/25期限であった「準備書面(1)」提出
        ①パソコンは生活必需品ではない→相当因果関係否定
        ②車両売却損(避難にあたり1台処分)→相当因果関係否定
         ③宿泊費 → ホテルでの食事代を否認
               ④住宅等の損害 →「1/4付け回答書記載のとおり」と回答
2/9  第4回口頭審理期日
      →申立人側 東京電力側に対し,和解案全部受諾を要請。
2/17  申立人側   陳述書,精神的損害の主張書面 提出
       東京電力側    準備書面(2)提出
2/27 第5回口頭審理期日
3/1   第3回口頭審理期日        →東京電力側 和解案 全部受諾
       ※仲介委員「3週間程度で和解案を提示する」旨を明言        →和解成立(支払期限:平成24年3月9日)
3/5  東京電力から和解金の送金を確認
3月末日経過  ※仲介委員からの和解案提示なし
4月上旬,中旬  申立人側から原紛センターへ 和解案提示の要請
             →しかしながら,和解案示されず
4月下旬  申立人側から原紛センターへ 再度,和解案提示の要請
4/27  仲介委員から,漸く,「和解案提示理由書」が提示される
       ※住宅損害等を除く一部和解案であった。
       ※このような一部和解を申立人らが要望したことはない
5/14  申立人ら:住宅損害の賠償も含む全部和解案の提示要請
6/4   仲介委員 「和解案提示理由書(再)(全部和解)」 提示
        ※東京電力に対する回答期限の設定がなされていない
7/25  現在に至るまで,東京電力側からの回答なし