【報告】飯舘村長泥行政区住民集団申立てのご報告

飯舘村長泥行政区住民集団申立てのご報告

 

2012年7月13日

原発被災者弁護団

 

本日,当弁護団は、原子力損害賠償紛争解決センターに対して、福島県相馬郡飯舘村長泥行政区の住民による集団申立てを行いました。

 

 

飯舘村は福島第一原発から20㎞圏外にありますが、積算放射線量が高いことから、計画的避難区域に指定されています。2012年7月17日午前0時からは避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域の3区域に見直されることが決定しています。

 

 

長泥行政区は飯舘村の20行政区の中で唯一、帰還困難区域に見直される予定の地域です。帰還困難区域とは、5年間を経過してもなお,年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれのある地域であり、現時点で年間積算線量が50ミリシーベルト超の地域が相当します。

 

 

今回の集団申立は、帰還困難区域に指定される予定の地区住民による初めての集団申立となります。避難指示が遅れたことによる被爆の精神的苦痛慰謝料を請求していること、長期にわたり帰宅困難を強いられたことによる精神的苦痛の慰謝料を請求していること、移住を含めた生活再建を目的として公共用地の取得に伴う損失補償基準(後掲)による不動産の賠償と同基準に基づく不動産鑑定の費用を求めていることが特徴的です。

 

 

申立ての概要は以下の通りです。
【件数・金額等】
申立人  41世帯 159名(なお長泥行政区の震災前人口は70世帯 280人)

申立総額 約42億5100万円

 

 

【請求の内容】

高い放射線に曝されたことによる慰謝料(住民一人あたり500万円)
避難に伴う慰謝料(1か月あたり35万円として,平成23年3月から平成24年7月まで595万円)
長期の帰還困難による慰謝料(帰還困難区域指定以降5年分として1000万円)

財物損害(不動産,家財,農機具等)
不動産の鑑定費用
その他の損害

 

 

◆公共用地の取得に伴う損失補償基準(昭和37年10月12日用地対策連絡会決定)に基づく不動産賠償のポイントは以下の通りです。

 

 

 

 飯舘村長泥行政区集団申立てにおける

不動産(特に建物)に対する損害賠償額の算定について

 

本日の集団申立てで、当弁護団は、建物に対する損害賠償額について、公共事業の際の補償基準(公共用地の取得に伴う損失補償基準)に準じて算定する方法を採用すべきであると主張しています。

具体的には、代表者1名の所有建物につき、専門家に依頼し、公共事業の補償基準に準じて算定した賠償額を請求するとともに(仮算定額約4600万円、外構・庭木等を含む)、他の申立人については、算定費用(1世帯21万円)のみを先行的に請求し、その支払いを得て全世帯での算定を行おうとするものです。

一方、固定資産税評価額や所得税の雑損控除制度を利用した算定方法については、後に説明するような問題点があり適切ではないと考えています。

 

1.   理由

▼不法行為に対する損害賠償制度と、公共事業の補償制度とは、全く別の制度だが、行為(不法行為・収用)の前後で、対象者(被害者・被収用者)の財産状態を同等のものとする(対象者の財産の適正な回復)ことを目的としている点では、共通している(判例)

▼土地も含めた不動産を全損させるような不法行為の先例がなく、従来の不法行為理論では賠償額の算定が困難

▼固定資産税評価額や、所得税の雑損控除制度など、対象者の財産の適正な回復を目的としていない制度を賠償額の算定に流用することは不適切

2.     公共事業の補償基準を用いることのメリット・デメリット

▼メリット

・多種多様な建物の再取得費用(なお、財物に対する損害賠償額は、当該財物の取得価格や売却価格ではなく、同種同等物の再取得費用(判例)であり、再取得価格だけでなく再取得に伴う各種費用等も含まれることに注意)の算定基準がきめ細かく定められ、公正・公平な賠償額の算定が可能(補償金算定標準書は約3000頁)

・建築年数に応じた経年減価は行うが、①耐用年数が税法上の制度より長く(木造標準建物で48年)、②残存価値割合も雑損控除制度(1割)より多い2割とされ、③補修された建物は減価率が調整され、④耐用年数を超過した建物についても専門家による個別評価で耐用年数を延長できるなど、築年数の長い建物についても、一定程度の賠償がなされるので、建物の再取得と被災者の生活再建に資する

▼デメリット

・算定には、専門家による現地調査を含む相当量の作業が必要で、算定費用が高額(100-150万円程度)となる

→今回、写真等による簡易な算定方法を提案

3.     税法上の制度を流用する場合の問題点

▼固定資産税評価額を用いる場合、評価額は、総務省の定めた基準に基づき算定することになっているが、実際の評価水準は、自治体によるバラツキが大きく、公正・公平な賠償額の算定を行うことが困難

▼所得税の雑損控除制度を用いる場合は、建物を当初建築した際の建築費用を基礎に算定することになるので、現時点で同種・同等建物を再取得する費用を算定するには不適当

▼税法上の制度の場合、再取得関連費用(設計費、手続費、登記費用など)は算定できない

▼税法上の制度の場合、①耐用年数が短めで、②残存価値割合も少なく、③建物補修を考慮する仕組みがなく、④耐用年数を超過した建物への救済措置がない点で、特に築年数の長い建物の場合に、生活再建が困難となる

4.     土地について

弁護団では、以下の点を考慮した算定方法を検討中である。

▼公示地価等を参照することを視野に起きつつも、代替地需要による地価高騰の可能性がある場合にはこれを適切に考慮する

▼長泥地区と同程度の地価の地域に、地区住民全員が代替地を取得することは事実上困難なため、地区住民全員が現実に代替地(宅地及び農地)を取得可能な賠償額とする必要がある