【報告・意見】自主的避難者の方の件についての報告及び抗議意見

自主的避難者の件についてのご報告及びセンターの姿勢に対する抗議意見

 

2012年6月5日

原発被災者弁護団

 

当弁護団は,2011年10月5日,いわき市内から都内に避難をしてきた方(妊婦以外の成人)の東京電力に対する損害賠償請求の和解仲介手続を原子力損害賠償紛争解決センターに申立てました。この件につき,申立人はセンターが提示した避難慰謝料額に到底納得できないとして和解案の一部を拒絶しました。以下の通り,これまでの経緯をご報告するとともにセンターの姿勢に対して抗議意見を述べるものです。

 

1 申立から現在に至るまでの経緯
2011年
10月5日 避難費用(交通費,家財等生活費増加分),精神的損害慰謝料,一時帰宅交通費,謝礼等合計約300万円を請求額としてセンターに申立てする。
2012年
2月1日  第1回口頭審理期日
3月14日 第2回口頭審理期日 センターが和解案を提示
数日後   東京電力側から受諾の意思表示
3月22日 申立人側からセンターに対して「和解案に対する意見及び求釈明書」提出
4月9日  申立人側からセンターに対して「和解案に対する意見書(2)」提出
5月7日  申立人側からセンター及び東京電力側に対して「和解案に対する回答書」提出(避難慰謝料4万円の部分について申立人が拒絶)
5月30日 避難慰謝料4万円を除いて東京電力と和解成立(計約40万円)

 

 

2 センター和解案の内容(計約44万円)
和解案提示理由書の骨子(一部,第2回口頭審理期日において口頭で確認した点を含む)
① 2011年9月までの申立人の避難の合理性を認める。
② 避難費用(移動費・家財等購入費・家財道具移動費・交通費増加費)として計約24万円,帰宅費用として約5万2000円,謝礼代として約3万7000円,携帯電話利用増加分として5万円を事故と相当因果関係のある費用として認める。
③ 避難慰謝料として4万円,旧緊急時避難準備区域内にある家族の墓参りに行けなかった分として1万円を認める。精神的損害慰謝料には清算条項はつけない。
④ 弁護士費用は1万円とする。

 

 

3 和解案の内容についての問題
本件仲介委員が,避難指示区域外からの避難者について,2011年9月まで(本件申立が10月5日だからだとの説明が口頭審理期日でありました)の避難の合理性を認めたこと,交通費,家財等購入費,謝礼代等としていわゆる実費分40万円程を認めたことは,他に同様の事案で中間指針追補そのままの金額で和解案を提示したり,実際に和解を成立させたりする例(慰謝料について清算条項を入れている場合もある)があることからすれば一応の評価はできるとも言えます。
しかしながら,避難慰謝料を僅か4万円(9月までで計算した場合1日当たり197円)と断じたことは,放射線量や完全な収束をしていない原発事故の恐怖から逃れてきたいわゆる自主的避難者の避難に伴う精神的苦痛をあまりに軽視するものであり,明らかに不当です。
また,2011年9月までの避難の合理性及びその間にかかった実費分の賠償を認めながらも,避難慰謝料だけは,避難指示区域からの避難者の1ヶ月分の中間指針慰謝料(10万円)の半分にも充たない額を提示することは,矛盾していると言わざるを得ません。
センターの当該和解案の背景にはいうまでもなく2011年12月6日に出された審査会の中間指針第一次追補があるものと思われます。しかしながら,そもそも当該指針によれば追補で賠償の対象とされなかったものについても,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められ得るとされています。勿論,実費の支払いを認めた場合に,避難慰謝料が半額になるなどということなどは示されていません。それにも関わらず,センターが指針の表面的な部分にあえて盲従しようとするのは,中間指針第一次追補の名の下に,自主的避難者の声を封じ込めようとしているのではないかとすら考えられます。
東京電力は基本的に指針で明示された金額に沿った形で直接請求に応じているところですが,センターがこの東京電力と同様の和解案を提示し続けるのであれば,その存在意義は全くありません。
センターには,自主的避難者の声に真摯に耳を傾け,避難慰謝料についての硬直した考えを直ちに再考することを求めます。

 

 

4 和解仲介プロセスの問題
申立人が本件で,不満を持ったのは,和解案の内容だけではありませんでした。
申立人は,2011年10月の段階で,いわゆる自主的避難者の賠償問題が置き去りにされていることに強く不満を感じ,センターであれば避難せざるを得なかった事情や精神的苦痛を理解してくれるだろうと期待し,勇気をもって弁護団を通じて申立てを行いました。
しかしながら,申立てから5ヶ月以上も経過してようやく出された和解案で慰謝料が僅か4万円とされたことに大変困惑し,「どうしてなのか」ということをまずは知りたいと思いました。避難指示区域からの避難者であれば最低でも1ヶ月あたり10万円の慰謝料が認められているところ,それ以外の区域からであればその1ヶ月分にも満たなくなってしまうというその落差を到底理解することができなかったからです。申立人の持つ疑問は当然のことです。
そこで,申立人側は,避難慰謝料を4万円としたことの根拠や理由についてセンターに対して釈明を求め,また中間指針追補の誤り等について意見書を提出するなどしました。
しかしながら,センターからは結局何の回答もなく(和解案は撤回しない,釈明の回答はしない,期日も開かないという事務連絡だけが電話でありました),再度口頭審理期日が開かれることもありませんでした。
申立人は,センターに対する期待を裏切られ,大変失望しました。
そこで,やむなく,実費分,墓参りができなかったことの慰謝料(1万円),弁護士費用についてのみ和解案を受諾することとし,どうしても理解・納得することのできなかった避難慰謝料4万円の部分については抗議の意味も込めて和解を拒絶することにしました。清算条項を入れないという前提であったとしても,4万円というあまりに低額な金額を「和解」条項に盛り込むことは申立人にとって容認し難いことだったのです。
和解仲介手続では,結論の妥当性はもとより,結論に至るまでのプロセスにおいても申立人の理解・納得が得られるようにすることが極めて重要です。申立人である被害者の意に沿わないであろう和解案を提示するのであればなおのこと,仲介委員の努力は必要となるはずです。本件では残念ながらそのプロセスそのものが申立人にとって不満として残りました。
そして,現在のセンターの和解仲介手続きの運用を見る限り,同様の不満を感じている人は少なからずいるように弁護団としては受け止めています。原則として,口頭審理期日を1度しか開かない,和解案提示後は期日を開かないといった運用の問題点は5月23日付「【意見】ADR側の運用変更について」でも当ホームページ上で述べている通りです。
センターに対しては,自主的避難者を含め全ての申立人が理解・納得できるような丁寧かつ真摯な手続きを遂行することを強く求めます。

以上

 

以下、申立人ご本人から送られたお手紙の一部抜粋です。

(避難した理由について)
避難した理由は,線量がこわいため,次から次と爆発していく様子をみているとここにはいられないと。町の中には人影がなく「死の町」になっておりました。人影と言えば避難所にいる人だけです。私は避難所で1週間過ごし,住みなれた家を離れざるをえなくなりました。
(センターに対して)
始めから賠償内容・金額が定められているのではないか
それであれば,こんな和解解決センターなど意味のない事と思います。もっとしっかりと両方の立場の考えをとり入れてほしいと思う。好きこのんで私は避難しているわけではありません。精神的損害を考えてほしい。
(東京電力,政府に対して)
まだ4号機はくすぶり続けております。いつどうなるかわかりません。そういう背中合せの状態での生活に避難区域でないからと言って打ちきられてしまう事に納得がいきません。もう1年も東京と田舎の生活をくり返している事に体力的に限界です。1日でも早い解決を望みます。
2012年6月3日

 

 

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