【抗議】漁師人生を奪われたことの慰謝料和解案を東電拒否

「漁師としての人生を奪われたことに対する慰謝料」にかかる和解案に対する東京電力の回答への抗議

 

平成24年6月1日
原発被災者弁護団

 

  1. 当弁護団が平成23年11月30日に原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」といいます。)に申し立てた案件(平成23年(東)第257号事件)について、東京電力は、センターが示した和解案の一部を拒否しました。以下、その内容についてご報告いたしますとともに、センターから提示された和解案を尊重する旨の約束をしていたにもかかわらず、この約束を反故にした東京電力の対応に対し、強く抗議いたします。
  2. 当該案件は、福島県双葉郡浪江町において60年にわたり漁師として生活を営んできた方(本件原発事故当時76歳)が、本件原発事故により避難を余儀なくされるとともに、同事故により東京電力が放射性物質を大量に含む汚染水を海中に放出する等し、福島県沖の漁場を放射性物質により汚染した結果、同地を漁場としていた本件被災者の方の漁師としての生活が奪われたというものです。当弁護団は、当該案件について、東京電力に対し、当該被災者の方の生業であり、天職ともいうべき漁師としての生活を奪ったことに対する慰謝料を適切に賠償するよう求めて参りました。

    これに対してセンターは、本年5月22日、当方及び東京電力に対し、同日付「和解案(骨子)」を書面で提示しました(以下「本件和解案」といいます。)。その中で、センターは、「漁師としての生活を失ったことに対する精神的損害」として、20万円(ただし、期間の定めなし)という賠償額を提示しました。

    当弁護団としては、当該被災者の方の人生そのものである漁師としての生活を奪われたことによる精神的損害が、わずか20万円という評価になったことに対し、極めて遺憾ではあったものの、当該被災者のご意向が、既にセンターにおける手続が6か月に及んでおり、年齢を考えると、これ以上の長期化は避けたいとのことであったため、上記和解案を受諾することとし、本年5月28日、その旨センター側に伝えました。

    しかしながら、東京電力は、本年5月31日、センターに対し、「漁師としての生活を失ったことに対する精神的損害」(総額20万円)にかかる和解案を受諾することはできない旨回答しました。

  3. 東京電力の上記対応は、センターから提示された和解案を尊重する旨を自ら表明した「被害者の方々への5つのお約束」(平成23年10月28日付「緊急特別事業計画」において宣言したもの)を反故にするものです。東京電力は、平成24年2月3日に上記の緊急特別事業計画の内容を改定し、「親身・親切な賠償のための5つのお約束」の徹底・完遂として「被害者の方々の立場に立ち、東電として、審理の円滑化への協力を始め、紛争処理の迅速化に積極的に貢献し、原子力損害賠償紛争解決センターから仲介案を示された場合には、これを尊重して対応する。また、損害項目ごとの部分的な和解を受け入れる等、お支払いの迅速化に努める。」と表明し、さらに平成24年4月27日策定の総合特別事業計画においても同様にセンターの和解仲介案を尊重することを明記しています。しかし、本件和解案の受諾を拒否した東京電力の対応は、被害者の立場に立った親身・親切の賠償を遂行すると自らが表明した被災者への誓約に真っ向から反するものであります。

    本件原発事故による被災者の皆様の多くは、人生の重要な一部分であり、誇りに思って従事されてきた「生業」を奪われたことについて、非常に強い怒り、悲しみ、喪失感等の様々な精神的苦痛を被られております。

    当該事案においてセンターが、金額こそ極めて少ないものの、正式な和解案において「生業を失ったことに対する精神的損害」という概念を認めたことについては、一定の評価ができるものといえます。

    しかしながら、東京電力は、他の事案への波及効果を恐れてか、和解案尊重の表明を反故にしてまで、センターからの正式な和解案の受諾を拒んだものです。

    当弁護団は、東京電力の上記回答に対し強く抗議するとともに、原発事故被災者が日々被り続けている精神的損害の内容に真摯に向き合い、仲介委員の示した和解案を尊重し、「漁師としての生活を失ったことに対する精神的損害」にかかる和解案を受諾することを求めるものであります。

    以 上