【意見】ADR側の運用変更について

<ADRの運用変更について>

H24.5.23
原発被災者弁護団

 

1 センターの運用の変更
最近,原子力損害賠償紛争解決センターが,ADRの運用について重要な変更をしました。
双方代理人が付いている,最近申し立てられた事件については,口頭審理期日は原則1期日限りで終了とし,期日後に仲介委員からの和解案を提示するものの,その後には原則として口頭審理期日を開かない,というものです。

 

 

2 運用変更の背景
この運用変更は,センターへの申立件数が増大し,物理的に処理しきれなくなっていることを背景にしているものと推測されます。
この運用の問題点は,①口頭審理期日を1度しか開かない点,②和解案を提示した後,仲介委員が期日で双方を説得する機会を持たない点,にあります。

 

 

3 ①口頭審理期日を1度しか開かないことの問題
これまでの事件では,センターは申立て後,口頭審理期日を何回か重ね,その中で申立人側から申立てに関する事情を聞き取ったり,補充の立証を求めたりしていました。また,東京電力側から意見も聴取し,請求に対する個別の認否もさせた上で,センターが和解案をまとめ,提示していました。申立人自身,口頭審理期日に参加することで仲介委員の問題意識や考えを知ることできたので,和解案を提示された時にはある程度納得できるということがありました。
しかし,いくら事件数が増大しているからといえ,わずか1回の口頭審理期日だけで仲介委員が和解案をまとめるとなると,議論になっていない点での説明不足や立証不足が原因で,十分な和解案が提示されない危険性があります。裁判では,1回の審理を原則とする少額訴訟という手続がありますが,これは60万円以下の金銭の支払を求める事件に対象が限られています。請求額が数百万円,時には数千万円にのぼり,請求費目も多岐にわたる和解仲介手続について,わずか1回の口頭審理期日だけで結論を出すというのは,あまりに拙速です。申立人も手続きに十分参加できず,何故このような和解案になったのか理解ができず,結果的に納得し難いことが多くなります。

 

 

4 ②和解案提示後に期日を開かないことの問題
次に,和解案を提示した後は原則として口頭審理期日を開かない,という点も,和解仲介手続の実効性の確保という点で大きな疑問があります。
仲介委員が提示した和解案を東京電力が無条件に受け入れるのであれば問題はないのですが,現在の東京電力の対応はそのようなものではありません。東京電力は,特別事業計画の中では,《センターの和解案を尊重する》と表明していますが,実際には,仲介委員から和解案が出された後も,あれこれ反論や抵抗を試みており,すんなり和解とはいかない事件が多い状況です。また,和解内容についておおむね合意ができても,和解契約書の具体的条項の点で交渉が難航することもしばしばあります。
これまでの事件では,当事者双方の見解にかなり開きがある難しいケースでも,期日で仲介委員が双方代理人に和解案提示の理由を説明し,ねばり強く説得することで,何とか和解成立にこぎ着けてきたといえます。
しかし,事件数増大に伴い期日が入りにくくなっているとはいえ,期日での和解案の提示理由の説明や説得をせず,期日外で和解案を出して,後は当事者間で協議をしてください,という姿勢では,和解の成立率が大幅に下がってしまうのではないかと危惧されます。そのような事態になれば,センターの存立意義が問われることになります。
和解案を提示しても,和解が成立しなければ和解仲介手続の意味はほとんど無いわけですから,センターには,和解契約の締結まできちんと事件に関与し,和解を仲介していただくことを強く希望します。

 

 

5 他の問題
さらに,センターの運用には他にも問題があります。一定時期まで時期を区切った和解(例えば,平成23年3月~平成23年12月の時期に生じた損害についての和解)が成立した後,申立人が,その次の時期(例えば,平成24年1月以降)について請求を追加したいとして審理続行を希望しているのに,仲介委員が,「以後は直接請求でやれば良いのではないか」とか「追加請求分については改めて申立てをしてください」として,和解仲介手続の打ち切りを求めた例があります。これも,事件数増大に伴い,なるべく事件を「解決済み」扱いにしてしまいたいというセンターの意向によるものと推測されます。
直接請求で東京電力側がADRでの和解実績を尊重し,以後の時期についても迅速かつ柔軟な対応をしてくれるのであれば,「以後は直接請求」でも良いのでしょうが,現状ではそのような保証はありません。申立人側は,東電の対応に不満や不信感を持ってセンターに和解の仲介を求めているわけですし,一定時期までの和解が成立しても,あくまで一部の和解であって,被害者の損害回復は未だ途上なのですから,申立人が希望する場合,センターは審理続行に応じるべきです。東電が続行された審理において速やかに和解に応じるのであれば,センターの手間もそれほどのものではないはずです。むやみに打ち切りをするべきではありません。
追加請求分について改めて申立てをせよというのも,もっぱらセンターの都合によって,申立人側に負担をかけることになります。委任状も改めて提出することを求められていますが,審理続行を希望している申立人に対し,無用の負担を課すものです。

 

 

6 センターへの要望
以上の通り,センターの運用変更は,センターの本来の職責を放棄するに等しいものです。「原子力賠償紛争解決センターの手引きQ3」には「紛争解決センターでは,中間指針に基づいて類型化されたものだけでなく,個別事情についても,当事者から事情を聴き取ってしっかりと対応します。」とあるところ,センターがこの度変更した和解仲介手続の運用方法は,到底,「しっかりとした対応」を保証し得るものではありません。
当弁護団は,事件数の増加に伴い仲介委員や調査官が多大な苦労と努力を重ねられていることに敬意を表するものですが,そのことが和解仲介手続のプロセスを杜撰にしていい理由にはなり得ないと考えるものです。事件数の増加には,センターの人的・物的体制の整備で対応するのが本筋です。
センターには上記のような運用を直ちに改善することを強く求めます。

 

 

以 上

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