【報告】南相馬市ひばり地区集団申立の件 今後の予定

南相馬市ひばり地区集団申立の予定に関するご報告

平成24年4月13日

 

原発被災者弁護団

 当弁護団では,以下の通り,南相馬市ひばり地区(原町区内)住民の集団による原子力損害賠償紛争解決センターへの申立(ADR)を準備しています。
既に南相馬市の件については,先日もご報告した4月16日に和解案提示予定の集団申立事件(34世帯130人)が先行していますが,今回ご報告するひばり地区の件は,行政区がまとまって行うものとして初めてということになります。
また,小高区の住民による集団申立についても,3月12日に福島市にて記者会見を行い目下準備中でありますが,ひばり地区の集団申立は5月初旬に予定され,こちらが先行するものと思われます。
さらに,南相馬市では他にも太田地区(ひばり地区と同じ原町区内)で集団申立が準備されています。南相馬市以外では,双葉町弁護団が既にADR申立を行っており,それ以外にも飯舘村長泥地区などで集団申立の動きがあります。
原発事故から1年が経過し,ようやくADRでの和解手続きが進むようになり,和解例も増え始めたことから原発被災者の賠償に向けた動きも活発になっています。被災者自身の関心も高まっています。
特に福島現地の住民による集団ADRの申立の動きは,今まで例のないものであり,司法界でも注目がなされています。
ついては,マスコミ各社にも関心をお寄せ頂きたく本日ご連絡した次第です。

 

 

1 南相馬市ひばり地区を巡る状況
南相馬市ひばり地区は,福島第一原発から約20~30キロの所に位置し,旧緊急時避難準備区域にあたります。
この地域は,被害実態及び住民の気持ちを無視した賠償の打ち切りの可能性,避難した住民と避難しなかった住民に対する賠償の異なる取り扱い,生活費の増加分は慰謝料に含まれるとの理由による増加生活費の賠償の拒否等,損害賠償実務において看過することのできない重大な問題がありながら,これまで社会的な注目が集められてこなかった地域といえます。
南相馬市ひばり地区の住民の方々が直面しているこれらの諸問題は,まさに,“原発賠償実務上,置き去りにされてきた問題”なのです。

 

(1)賠償終期の到来による多くの住民に対する賠償打ち切りのおそれ 
旧緊急時避難準備区域は,平成23年9月30日に区域の解除が行われ, 中間指針第二次追補において,賠償の終期の目安が「平成24年8月末ま で」とされている地域です。
しかしながら,現地の状況等を直視すれば,地域の除染は未だ進んでおらず,病院,学校,店舗等のインフラの復旧は十分になされておりません。このような状況下,今年の8月末には多くの住民が賠償の打ち切りに合う可能性があります。

 

(2)避難していない住民及び避難後帰宅した住民の慰謝料額
中間指針第二次追補では,「第1期又は第2期において帰還した場合 や本件事故発生当初から避難せずにこの区域に滞在し続けた場合は,個 別具体的な事情に応じて賠償の対象となり得る」「中間指針の第3期に おいては,避難指示の解除後相当期間経過前に帰還した場合であっても, 原則として,個々の避難者が実際にどの時点で帰還したかを問わず,当 該期間経過の時点を一律の終期として損害額を算定することが合理的で ある」とされています(第2‐1-(2)指針Ⅲ)及び(備考)参照)。
このように,国の指針は,住民間の無用な対立が生ぜぬよう,避難 した住民と避難していない又は避難後帰宅した住民の取り扱いに差異を 設けないよう配慮を示しています。
しかしながら,東京電力作成の「賠償金ご請求の解説」10頁では, 「緊急時避難準備区域にお住まいの方で,未だ避難を行っていない方」 に対する賠償金額は「賠償対象期間にかかわらず,1人あたり10万円」 と記載されており,あたかも避難していない住民には10万円以上の精 神的損害が発生していないかのような対応がなされています。
また,同解説9頁を見ると,東京電力は,緊急時避難準備区域の住民 が避難後に帰宅すると,理由の如何を問わず,帰宅した日を賠償終期と する対応をしています。
地域を守る等の理由から地元に残った住民や失業のおそれ等の理由か ら避難後帰宅した住民は,放射能の恐怖,インフラの崩壊,物資不足, 交通の断絶,家族との離別など様々な精神的苦痛を受けています。
東京電力の上記対応はこのような被害実態に全くそぐわないものであ り,多くの住民はこのような東京電力の対応に怒りの声を挙げています。

これらの住民の声が集まり,今回の,そして今後も続く,集団申立ての 流れになっています。

 

(3)食費の増加,水の購入代は賠償を受けられないのか
東京電力に「生活費の増加分は慰謝料の中に含まれる」との理由で生活 費の増加分の賠償を拒む口実を与えてしまっている根本の原因は,中間指 針自体がそのような解釈を許しかねない規定ぶりになっていることにあるものと思われます。
すなわち,本来,損害賠償実務では,生活費等の実費と精神的損害であ る慰謝料は別個の賠償費目として,別々に賠償が認められているところ, 中間指針の中に「避難費用のうち生活費の増加費用については,原則とし て,後記6の『精神的損害』の(指針)Ⅰ①又は②の額に加算し,その加 算後の一定額をもって両者の損害額とするのが公平かつ合理的な算定方法 と認められる」(第3-[損害項目]2(指針)Ⅱ)②)というような規定 があることから,東京電力はこの指針を「生活費の増加分は慰謝料に含まれる」と自己に有利に解釈し,生活費の増加分の支払いを頑なに拒否しているのです。
しかしながら,原子力損害賠償紛争解決センターの第1号事件(東京電力が原発ADRにおいて初の住宅賠償を認めた事案です。)において,生活費の増加分に該当する事故後の携帯電話代の増加分の賠償を認める和解が成立しているように,生活費の増加分と慰謝料とは別々に賠償されるべきものなのです。
南相馬の多くの住民は,自家栽培した野菜を自家消費する等して,生活をしてきたのですが,今回の原発事故後,野菜の自家栽培・自家消費ができなくなり,十分な損害賠償が受けられない中,食費の増加に直面しています。また,水の放射能汚染のおそれから,ミネラルウォーターを購入する等した分の賠償を受けられるのかという問題もあります。
このような命を支える食と水に関する重要な問題に対し,「生活費の増加分は慰謝料の支払いに含まれる」という被害実態にそぐわない紋切り型の理由でこれらの賠償を拒み続けている東京電力の姿勢,ひいては東京電力にこのような都合のいい解釈を許し,被害を被った住民への迅速かつ妥 当な賠償の妨げとなっている中間指針の内容自体が,社会的に是認できるものなのか否かが問われなければなりません。

 

2 これまでの主な活動
・平成24年1月29日ひばり地区第1弾相談会
(弁護士12名参加,61世帯174名から受任)。
・平成24年2月26日ひばり地区第2陣相談会
(弁護士13名参加,107世帯326名から受任)。
・平成24年3月3日 太田地区第1陣相談会
(弁護士11名参加,123世帯438名から受任)
・平成24年3月31日太田地区第2陣相談会
(弁護士13名参加,57世帯(人数集計中)から受任)

 

3 集団申立てに向けた今後の流れ
・平成24年4月15日(日)午前11時から午後5時まで
ひばり第1陣依頼者との個別面談会(ひばり生涯学習センター)
・平成24年5月11日(金)頃,ひばり地区第1陣 集団申立予定。

(他の地区における相談会開催予定)
・平成24年4月21日(土)午前11時から午後5時まで
小高区民に対する受任のための相談会(サンライフ南相馬)
※180世帯からの受任予定  弁護士30名参加予定
・平成24年5月12日(土)午前11時から午後5時まで
ひばり地区第2陣依頼者との個別面談会(ひばり生涯学習センター)
太田地区第1陣依頼者との個別面談会(太田生涯学習センター)
・平成24年5月20日(日)午前11時から午後5時まで
小高区民に対する受任のための相談会(サンライフ南相馬)
※180世帯からの受任予定  弁護士30名参加予定

 

4 平成24年4月15日(日)の依頼者との個別面談会の概要
既に受任している約60世帯の住民の方々と当弁護団の担当弁護士との個別面談会を1日かけて実施致します。原子力損害賠償紛争解決センターへの集団申立てを実施するための個別相談となります。
15日の個別相談会では,次のような住民の方々も参加される予定で あり,マスコミ各社による個別取材にも対応して頂ける見込みです。
・A氏:避難途中に行政区の区長となり,避難を断念せざるを得なくなった
・B氏:母親の介護が必要であった。避難により家族がバラバラとなった。
・C氏:会津に避難しながらも,行政区長を務める必要があった
・D氏:福島第1原発から20km圏内で事業をしていたが,今回の原発事故により事業を断念せざるを得なくなり,やむなく従業員を解雇することとなった
今後のひばり地区第1弾グループの活動の流れですが,今回の個別面 談を実施後,平成24年5月11日(金)頃に原子力損害賠償紛争解決 センターへの集団申立てを行う予定です。

以 上

 

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