ADR1号事件和解成立の報告と今後の課題
2012年2月27日
原発被災者弁護団
当弁護団が原子力損害賠償紛争解決センターに申立てた和解仲介手続申立1号事件につき,本日、東京電力との間で和解が成立しました。
和解の骨子は以下の通りです。
1 建物の損害約1400万円、家財の損害475万円、慰謝料額一人あたり142万円(平成23年3月から11月までの分)、ペットの死亡慰謝料一人あたり5万円、弁護士費用等を含む損害として申立人ら(ご夫婦)の損害として計2312万7050円を平成24年3月9日までに支払う内容で和解 2 交通費、宿泊費、治療費の約12万円以外については、清算条項を設けない一部の内払金の和解として合意。 3 仮払補償金160万円を控除しない。 4 慰謝料額については、申立人らの個別事情に基づき100万円を増額 |
結論としては、センターが平成23年12月27日に提示した和解案を、申立人がまず受諾し、当初和解案を拒絶していた東京電力も最終的には本日、了解したというものです。
まずは、被災者救済の観点から、和解成立にいたったこと、僅かながらも被災者救済の前進となり得たことを当弁護団として評価するものです。
ただし、以下のような問題点と課題があることも合わせてご理解頂きたくお願いします。
1 申立人らにとって和解金額自体は不十分であること
申立人らはセンターの和解案(和解金総額約2312万円)を受諾しましたが、そもそも申立時の請求金額は本和解金額の約2倍の金額でした。
本和解で精神的苦痛慰謝料(ペット死亡慰謝料は別)はひとりあたり計142万円とされていますが、これは申立請求金額の2分の1程度です。財物喪失分については借地権が本和解の対象から外れ、建物損害額約1400万円についても請求金額の2分の1程度の金額での和解となっています。
本申立人らは、センターの「和解案提示理由書」にもある通り、本和解が内払いを前提としたものであり(いわゆる精算条項を交通費・治療費以外については入れない)、裁判等で更なる立証により追加請求が認められる可能性があること、暫定的に早期の解決を望んだことから受諾するに至ったものであります。今なお避難生活が続く中で、今後の生活を考えた場合には、必ずしも十分ではない金額です。不安も多々あるのが現実です。申立人らにとって、決して完全に満足した内容となっているわけではありません。
特に今回センターで提示された慰謝料額は、長期にわたる避難生活を続けている申立人らにとっては極めて低いものです。
今後は、より被災者の立場に立った損害額での和解がなされることを強く望みます。
2 時間がかかりすぎたこと
本申立ては平成23年9月1日に申立てをしたものであり、和解成立まで既に半年近くが経過しています。手続き開始当初のセンターの不慣れや混乱等を考慮したとしても長くかかりすぎていることは明らかです。
東京電力が、不動産喪失等について事故が終息していないことを理由に認否すらも保留し続けたこと、最低限の賠償基準を示したにすぎない中間指針以上の支払いを拒んできたこと、センター和解案が12月末に提示されてからも和解案をいったんは拒絶したためにさらに2か月が経過してしまったことなど、東京電力の不誠実な対応が和解成立までに長期間を要したことの大きな原因となっています。
今後は、センターが、和解仲介手続において先行内払い、一部和解等を積極的に活用した工夫をするとともに、センターの和解仲介案の尊重義務を負っている東京電力に対して誠実な対応を強く求めることにより、迅速な解決・支払いが進むことを強く望みます。
3 東京電力が仮払金控除を求めてきたのは不当であること
本件で最後に東京電力がこだわったのは、既に被災者に支払われている仮払金(本件では一世帯160万円)を本和解の中で控除するということでした。
申立人らとしては、未だ原発事故が完全に終息しているわけではなく、避難生活終息の目途が立たない中で、現時点で早々に仮払金を控除することに強く反発しました。申立人らが避難を強いられていることによる損害は今後も拡大していくこと、今回の和解は現時点で確認されている損害の一部についての和解であることからしても、仮払金を控除した金額を今回の和解金額とするという東京電力側の主張は理不尽なものと言わざるをえません。
原発事故が未だ終息していないことは東京電力自身が不動産損害額を算定評価できないことの理由としていたものであり、仮払金控除を早々に求めることは矛盾した態度ともいえます。
2000万円以上の和解金額という点からは160万円という仮払金の控除は一見僅かな金額にも見えますが、先の見えない避難生活を続けている申立人らにとっては大きな金額です。
また、不動産喪失の損害が含まれない被災者にとっては、避難継続中の和解時点では和解対象の損害金額がせいぜい百数十万円またはそれ以下という可能性もあるところ、その場合でも仮払金が控除されてしまえば、苦労して和解にこぎつけたもののほとんど実際には支払いがなされないという事態も生じ得ます。東京電力に請求をすることで、かえって仮払金の返還を求められるのではないかと心配する被災者も数多くいるところです。そして、そのことが被災者にとって、ADR手続きに踏み切ることを躊躇する理由となっているという現実があります。
本件では最終的には譲歩したものの東京電力が本和解手続きの中で仮払金の控除を最後まで求めてきたこと、東京電力が他の案件において同様に仮払金の控除を求める姿勢を示していることは誠に遺憾です。かかる東京電力の対応に抗議をするとともに、速やかにその対応を改めることを強く求めます。
以上
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