1 控訴審第8回口頭弁論期日の内容
(1)日時
2026(令和8)年6月15日(月)午後2時30分、仙台高等裁判所101号法廷(大法廷)において、鹿島区訴訟の控訴審第8回口頭弁論期日が開かれました。
(2)控訴人提出書面について
① 控訴人第54準備書面(福島第一原発1号機は、本件津波襲来前に本件地震により破損しており、かかる点に関し、被控訴人国には、規制権限不行使の違法があること)
[内容]福島地裁判決が否定した津波到達前の1号機破損について、主張を補充し、そのような予見可能な地震によって損傷を受ける原発の運転を認めていた国には規制権限不行使(国が適切な耐震基準の設定等を怠ったこと)の違法があることを論じるものです。1号機の事故原因に争いがあり、この点について、JNESの解析結果、熱力学モデルによる事故解析、逃がし安全弁が作動した証拠の欠如、地震直後の高線量検出などを根拠に、炉心溶融の原因は地震にあったと主張しています。また、本件地震は基準地震動の範囲内であった以上、そのような地震で原子炉が損傷すること自体が許されず、国の責任は免れないと論じています。
② 控訴人第55準備書面(2010(平成22)年6月14日原子炉施設保安規定変更認可決定の違法性、及び、明確に誤りのある1号機の事故時運転操作手順書が存在するにもかかわらず、手順書整備の指示権限を行使しなかったことの違法性)
[内容]1号機について、国が2010年に保安規定の変更を認可した際、非常用復水器(IC)の作動可能性が高まる重要な運転変更を認めながら、運転員の教育・訓練や事故時手順書の適切性を十分確認せず、また明らかに誤りを含む手順書の是正も行わなかった点に規制権限不行使の違法があることを論じるものです。1号機ではICの運転経験や訓練が乏しく、事故時手順書には存在しない設備の記載や保安規定と矛盾する内容まで含まれていたにもかかわらず、国はこれを放置しました。その結果、地震発生後にICの適切な運用ができず、1号機の事故進展と水素爆発につながったと主張しています。
③ 控訴人第56準備書面(小児、青年、若年成人におけるCT放射線被ばくによる健康リスク)
[内容]近年公表されたCT放射線被ばくに関する大規模国際共同研究の成果を踏まえ、小児・青年・若年成人における低線量放射線被ばくであっても、脳腫瘍や造血悪性腫瘍の発症リスクが有意に増加することが、最新かつ信頼性の高い疫学研究によって裏付けられたことを明らかにするものです。約100万人規模の研究において、低線量域から有意なリスク上昇が確認され、交絡やバイアスへの十分な検討も行われていることから、低線量被ばくによる健康影響を否定する見解は採用できないことを論じています。
④ 控訴人第57準備書面(電離放射線とガン:国連による近時の疫学的証拠のレビュー、及び、ICRP委員らによるレター)
[内容]国連科学委員会(UNSCEAR)による最新の疫学レビュー及びICRP委員らの連名による見解を踏まえ、低線量被ばくであっても、がん死亡・がん発症リスクが増加すること、LNTモデルの妥当性が現在も国際的専門家によって支持されていることを明らかにするものです。UNSCEARは近年の500件以上の研究を総合して低線量域におけるリスク増加を定量的に示しており、またICRP及びUNSCEARの現役委員らも、閾値を示す証拠はなくLNTモデルが放射線防護上最も適切なモデルであると表明していることから、低線量被ばくリスクを軽視する見解は採用できないことを論じています。
⑤ 控訴人第58準備書面(被控訴人東京電力準備書面(4)第2、第3の2(2)及び4に対する反論)
[内容]東電が、緊急時避難準備区域と一時避難要請区域では被害実態や生活阻害の程度が異なるとして賠償格差を正当化していることに対し、鹿島区では両区域の住民が同様の被害を受けており、そのような線引きは実態に反することを明らかにするものです。鹿島区では原発事故直後に大多数の住民が避難し、未除染下での生活や地域機能の喪失など共通の被害を受けました。また、行政区は地域共同体の基礎単位であるにもかかわらず、東電の賠償基準による区域間格差は住民間の分断や差別感を生じさせ、新たな精神的苦痛をもたらしているとして、実態に即した損害評価を求めています。
⑥ 控訴人第59準備書面(マイナー・サブシステンスができなくなったことによる被害、及び、被控訴人東京電力準備書面(4)第3の3(2)に対する反論)
[内容]原発事故によって鹿島区における「マイナー・サブシステンス」(山菜採り、きのこ採り、家庭菜園など、人と自然との関わりを通じた生活活動)が長期間にわたり失われたこと自体が重大な被害であり、原判決の慰謝料評価は不十分であることを明らかにするものです。 マイナー・サブシステンスは単なる娯楽ではなく、地域の自然や共同体との結び付きを支える生活の一部であったにもかかわらず、放射能汚染や出荷制限によって事故後も長期間継続できなくなりました。本書面は、その被害が2011年9月末で終了したものではなく、少なくとも2016年頃まで継続していたことを示し、実態に即した精神的損害の評価を求めています。
(3)国提出書面について
① 被控訴人国第7準備書面
[内容]控訴人らが主張する「B.5.b」情報に基づくシビアアクシデント対策義務論に対する被控訴人国の反論です。国は、控訴人らが依拠する長谷川公一意見書はB.5.bの内容や確率論的安全評価の考え方を誤解しており信用できないと主張しています。また、規制権限不行使の違法が認められるためには、地震・津波による全電源喪失という具体的危険の予見可能性が必要であり、原因事象を特定しない抽象的なシビアアクシデント対策義務論は法的に成り立たないなどと述べています。
(4)東電提出書面について
① 被控訴人東京電力準備書面(6)(弁済の抗弁)
[内容]被控訴人東京電力が裁判外で既に支払った賠償金について、本訴で認容される損害額から控除されるべきであると主張するものです。同様の主張は福島地裁の一審の中でも出されましたが、令和8年1月31日時点の基準日での支払額について弁済済みであると述べています。
② 被控訴人東京電力準備書面(7)(控訴人ら第50準備書面に対する認否・反論)
[内容]控訴人第50準備書面が主張する中間指針第5次追補の増額事由による慰謝料増額について、被控訴人東京電力が反論するものです。東電は、鹿島区では、多くの住民が早期に帰還しており、原判決が認定した慰謝料額は既に相当な水準にあるとか、控訴人らが挙げる個別事情は原審でも審理・評価済みであり、新たな事情ではない、あるいは増額事由の存在や精神的苦痛の増大について客観的な立証が不足しており、中間指針第5次追補は裁判規範ではないなどと主張しています。
(5)意見陳述等について
控訴人意見陳述(事故直後の過酷な状況や地域コミュニティの変容、子どもたちの被害など)
控訴人第58準備書面要旨陳述(林弁護士)
控訴人第59準備書面要旨陳述(内田弁護士)
2 今後の日程について
2026年9月28日(月)午後2時30分 第9回口頭弁論期日(仙台高等裁判所101号法廷)
2027年1月18日(月)午後 第10回口頭弁論期日
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