阿武隈会訴訟判決に対する声明

阿武隈会訴訟判決に対する声明

2020(令和2)年10月9日

              東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団

1 はじめに
2020(令和2)年10月9日,東京地方裁判所は,福島県田村市都路町地区(旧緊急時避難準備区域)への移住者,二地域居住者(またはその予定者)が,東京電力ホールディングス株式会社及び国に対し,自然との共生生活等喪失慰謝料の支払いと,各原告ら所有の土地,建物,家財等の賠償を求めて同裁判所に提起した訴訟について,判決を下した。

2 判決内容
⑴ 国及び東京電力の責任について
判決では,東京電力について,原賠法上の責任以外の責任を認めず,重過失についても認めなかった。そして,国については,予見の精度及び確度が不十分である,結果回避可能性が高いとは認められない,などとして,規制権限を行使しなかったことについて国家賠償法1条1項の違法性を認めなかった。
しかしながら,原発事故はそれが生じた場合に広範囲の国民の生命・身体に危険を生じさせるものであり,万が一にも発生させてはならないものである。本件においては,原発事故発生の予見可能性や結果の回避可能性は十分認められるものであった。したがって,東京電力には予見可能性に基づいた重大な過失があり,国には,法に認められた規制権限を行使し,原発事故の発生を防ぐ義務があった。判決は,原発事故による危険を適切に考慮することなく,これらを否定したものであり,到底認められるものではない。

⑵ 原告らの損害について
判決は,原告らの主張する自然との共生生活を実現する権利につき,平穏生活利益として生活の本拠を定めるという限度でしか認めず,その限度を超える部分は法律上保護された利益にあたらないとした。また,生活の本拠からの避難を余儀なくされたものでないと認定した原告らについては,本件事故による精神的損害を全く認めなかった。
次に,財物損害については,原告ら所有の不動産につき,交換価値の下落分を上回る財産的損害を受けたものと認定したものの,損害額はごく僅かというほかないものであった。
これらの判断は,原告らが都路町地区で実現していた自然との共生生活を全く理解せず,その価値を不当に低く評価するものである。また,空間放射線量や土壌のセシウム濃度の高さ,将来にわたって環境が回復しないことなどの事実を看過したものであり,原告らの被害実態を全く反映していないものである。
ただし,旧緊急時避難準備区域における不動産等の財物損害を認めた部分の判断は評価できるものであり,注目に値する。

3 今後の予定・まとめ
弁護団は,このような不当な判決を受け入れることは決してしない。今後も,原発事故における国及び東京電力の責任を明確にし,自然との共生生活等を含め原告らが受けた損害に対する適切な賠償を求めていく所存である。

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