【報告】都路訴訟(第15回口頭弁論期日について)

1 第15回口頭弁論期日について

平成30112日(金)午後2時,福島地方裁判所郡山支部303法廷において,第15回都路町訴訟口頭弁論が開かれました。

 

2 主張書面の概要について

⑴ 原告が提出した原告第48準備書面から第50準備書面の内容は,次のとおりです。

(原告第48準備書面)

国が原発事故後においても適切な対処をしなかったという点を主張しました。具体的には,①国は,本来であれば,放射線量に基づいた避難指示を出すべきであり,それが可能であったのにもかかわらず適切な避難指示を出さなかったこと,②国は,今後の予測を提供する義務があるのに予測結果が公表せず,周辺住民に対して適切な情報提供をしなかったこと,③

国が設定した基準は汚染が高い地域に対する賠償額が低い地域より賠償額が低いという逆転現象が生じさせ,地域社会の分断,復興政策にも影響が出ており,国の賠償基準,支援策が不平等不十分であったこと,を指摘しました。原発から20キロ圏内と,20キロ~30キロ圏内との分断を法的に主張した内容です。

(原告第49準備書面)

被告国が,「工学的」に考えると,予見できなかった・結果を回避できなかったという新たな主張していることに対し反論しました。国は,度々「工学的」という言葉を使用していますが,「工学的」の具体的内容を主張していません。政府事故調の委員をしていた柳田邦男氏の著作によれば,「工学的」とは,自然災害は何処で起きるかが予測できないところがあり,万全の設計をすることは予算枠を超えてしまうことから,設計をするには経済的合理性を考慮して基準を設ける,という考え方のようです。しかし,このような考え方自体おかしいし,過失論において経済的合理性という意味での「工学的」の有無は関係ないと反論しています。要は,金がかかるなら,やらないことに合理性があるということですが,地震・津波が予見できたならば,これを回避しなければならないはずであり,法律の議論とは無関係の議論だと主張しました。

(原告第50準備書面)

東電の準備書面(18)に対する反論を行いました。東電は,年間20ミリシーベルトまでが受忍限度で,かつ,20ミリシーベルト以上の被ばくはないと主張しいています。しかし,事故当時の公衆被ばくの上限は,年間1ミリシーベルトでしたので,東電の主張には合理性はないと反論しています。また,年間20ミリシーベルトの根拠とされているUNSCEAR2013報告書自体も著しく合理性を欠いています。そもそも,UNSCEAR2013報告書はWHO報告書の考え方と一致していません。東電は,浴びた放射線量が少ないと健康被害が生じないと主張していますが,UNSCAER2010報告書は低線量でも健康被害がゼロではないという見解をとっていました。また,UNSCARE2013報告書では原発事故によってガンの増加は予測されないかのように主張されていますが,それらの記載はこれまでのUNSCEARの主張からしても不自然であると反論しています。

⑵ 被告国が提出した第25準備書面の内容は,次のとおりです。

(被告国第25準備書面)

国は,地震が発生し得る根拠は信用性に乏しいので,国が直ちに原子力防災をするのではなく,東電に委ねるべきであり,東電に委ねている以上,国には過失がないと主張して,被告国第21準備書面で主張した確率論に関する主張を補足しました。

⑶ 被告東電が提出した準備書面(19)及び(20)の内容は,次のとおりです。

(被告東電準備書面(19)

被告東電は,低線量被ばくについては,そもそも年間100ミリシーベルトが基準になっており,100ミリシーベルトの被ばくでも発がんはないといえることからすると,年間20ミリシーベルトでも当然影響はないと主張しています(これに対する原告の反論が,前記原告第50準備書面になります)。

(被告東電準備書面(20))

被告東電は,中間指針とおり,旧緊急時避難準備区域については,平成248月まで合計180万円の賠償額で妥当であるという損害賠償に関する主張をしました。中間指針は,最低限の金額としているものの,東電によれば,中間指針で示された基準が妥当であり,特に旧緊急時避難準備区域の人は帰ろうと思えば帰ることができたのだから20キロ圏内と事情が違うと主張しています(既に原告側で反論済みの議論ですので,被告東電準備書面(20)に対し,再反論する必要があるかどうかを含め検討しています)。

 

3 原告の意見陳述について

原告の1人が,法廷で,家族と別れて避難生活を送ったことについての苦労,裁判所に望むことなどについて意見を述べました。

 

4 進行協議期日について

今後の主張立証につき,原告から,責任論は概ね主張したので残りの反論と,近いうちに損害総論を主張する旨述べたところ,被告国は責任論につき引き続き反論を行うとともに損害論については検討中である旨,被告東電は順次反論する旨述べていました。被告国は,本年度内を目途に責任論の反論を終わらせたいということでしたが,被告東電は,責任論の反論も年度内に終わらせるのは難しい(なるべく早くしたい)と答えています。

裁判所から避難経路との関係で原告の主張する適切な避難指示義務違反等の被侵害利益について釈明を求められたので,原告からそれらの義務違反等が国賠法上の地域住民の権利を侵害するものであること,その眼目が避難地域の区分けにある点について回答しました。

また,原告から陳述書の提出を3月までには提出したい旨述べたところ,裁判所は,原告証人尋問,専門家証人の尋問の実施時期について,来年秋以降の方向で考えているという説明がありました。

 

5 今後の期日について

平成301221日(金)14時~

平成3131日(金)14時~

平成31426日(金)14時~

平成31621日(金)14時~

*場所はいずれも福島地方裁判所郡山支部303号法廷です。

 

【本件についての問合せ先】

原発被災者弁護団都路町担当 弁護士 林 浩靖(03-6912-9271