【報告】福島市渡利集団ADR申立てで,東京電力がセンターの和解案を拒否

【報告】福島市渡利集団ADR申立てで,東京電力がセンターの和解案を拒否

原発被災者弁護団

2018.8.3

 

2018年6月18日付けニュースでご報告しましたように,福島市渡利地区の集団ADR申立て(申立人は1107世帯・3107名/申立時点)について,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)は,渡利地区内で特定避難勧奨地点の設定が検討されたと推認される各地点(合計2地点)を中心に半径500メートルの範囲内にあると認められる申立人(合計190世帯程度)に,東京電力が1人あたり金10万円の慰謝料を支払うことを内容とする和解案骨子を提示し,2018年7月31日までに,受諾する方針か否かの回答を求めていました。

 

申立人側は,2018年7月27日付け回答書をセンターに提出し,本件和解案骨子については対象者の範囲も慰謝料の金額も大いに不満であるものの,本件和解案骨子に基づいて提示される和解契約書には,今回の賠償金を受領するとそれ以上の請求ができないという意味での清算条項が置かれないので,対象となった申立人にとっては,本件和解案骨子に基づく和解案を受諾することに特にデメリットが見当たらないことから,基本的に受諾するとの回答をしていました。

 

しかし,東京電力は,回答期限の同年7月31日,「和解案骨子に対する意見書」をセンターに提出し,「本和解案骨子に基づく和解に応ずることはできません」と回答して,和解案骨子の受諾を拒否しました。

東京電力は,拒否の理由として,①特定避難勧奨地点候補地の空間放射線量から半径500メートルの範囲内の住民に慰謝料増額を基礎付けるような法益侵害が招来されたと評価することはできない,②平成23年10月8日の住民説明会(特定避難勧奨地点候補地が明らかになった)により,候補地点の周辺住民の不安や生活阻害が増加したことを基礎付ける証拠がない,などと主張しています。

 

東京電力は,国から賠償金の資金支援を受けるにあたって政府に提出した,累次の総合特別事業計画において,「被害者に対する5つのお約束」「3つの誓い」等の中で,《センターの提示する和解仲介案を尊重する》と繰り返し誓約してきました。

 

申立人らも,東京電力がセンターの提示する和解仲介案を尊重すると誓約しているからこそ,センターに和解仲介手続を申立て,約3年にわたり,被害の実態を訴えてきたものです。

現地視察や現地での口頭審理を含む約3年の審理を経てセンターが提示した和解案に対し,東京電力が自社の見解に固執して受諾を拒否してしまうのでは,何のための審理か,何のためのセンターか,全く分かりません。

東京電力は,国が原子力損害賠償紛争審査会の元に設置したセンターの判断を,重く受け止めようとせず,自社に都合の悪い和解案は拒否すれば良いという態度を取っています。わが国史上類例のない環境被害を引き起こした原発事故の加害者としての自覚のない傲岸不遜な態度であり,被害者を愚弄するものです。

 

被害者が負担の大きい訴訟を起こさなくても,迅速かつ適切な賠償を受けられるようにするというセンターの存在意義は,東京電力の和解案拒否によって,大きく揺らいでおり,センターの紛争解決機能は危機に瀕しています。

 

当弁護団は,東京電力のかかる不当な和解案拒否に強く抗議するとともに,センターに対し,和解案の受諾に向け,東京電力に強く働きかけ,説得することを求めていきます。

 

本件についての問い合せ先:

弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

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