【報告】福島市渡利集団ADR申立てで,センターが和解案提示

【報告】福島市渡利集団ADR申立てで,センターが和解案提示

原発被災者弁護団

2018.6.18

 

2015年7月21日付けニュースでご報告した,福島市渡利地区の集団ADR申立て(申立人は1107世帯・3107名/申立時点)について,約3年弱にわたり審理が続けられてきましたが,2018年6月7日の期日において,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)の仲介委員より,和解案骨子が申立人・東京電力双方に提示され,提示理由が口頭で説明されました。

 

〔和解案骨子の内容〕

第1 和解の対象となる申立人について

申立人らのうち,特定避難勧奨地点の設定が検討されたと推認される各地点(合計2地点)を中心に半径500メートルの範囲内にあると認められる者

 

第2 精神的損害の金額

1人あたり金10万円(*月10万円ではなく,一時金として10万円)

 

第3 期間

平成23年10月8日から同年12月31日まで

 

第4 弁護士費用

精神的損害の合計金額の3%

 

〔和解案の対象世帯/弁護団調べ〕

・合計190世帯程度(人数は未集計)

 

〔和解案骨子の提示理由の概要〕

①特定避難勧奨地点の設定が検討された2地点は,特定避難勧奨地点に指定される蓋然性が高く,特定避難勧奨地点に指定されるほどの放射線量があったと推認した。

②上記2地点から半径500メートルの範囲内の申立人らは,上記2地点について特定避難勧奨地点の指定が検討されたことが公表された平成23年10月8日の住民説明会を経て,それまでの抽象的・主観的な不安感から,具体的・客観的な不安感を抱くに至り,それに基づく生活制限もさらに強まったことから,賠償が必要と判断した。

③500メートルの範囲については,住宅地での幅広い年齢の人が徒歩で困難なく移動できる距離であり,特定避難勧奨地点の設定がなされる蓋然性が高かった2地点と日常生活の領域が同じといえる範囲と考えた。

④精神的損害の認定対象となる期間は,平成23年10月8日の住民説明会を契機として,住民の不安感が具体的になったと認め,不安が薄らぐまでおおよそ3か月間は必要と考えた。

 

〔今後の和解仲介手続の進行〕

・申立人,東京電力双方が,2018年7月31日までに,上記の和解案骨子を総論として受諾する方針か否かをセンターに回答することになりました。

・双方が和解案骨子について総論として受諾する場合,個別に対象世帯を確定し,センターが和解契約書を提示するという流れになります。

 

〔弁護団のコメント〕

・当弁護団は,特に本件原発事故直後に放射線量が高かった(最大でH23.3.15に24.24μg/mlを記録)福島市内の渡利地区において,申立人の皆さんが放射線被ばくに対する不安を抱え,生活上も被ばくを避けるために様々な制約を強いられてきたこと(外出を控える,洗濯物を外に干せない,子どもを外で遊ばせられない,学校行事の中止,家庭菜園ができない,山菜が採れない等々)を審理の中で主張立証してきました。センターは,2016年4月25日には現地視察を実施して渡利地区を見分し,同年12月2日及び2017年1月23日には福島市での現地口頭審理期日を開催して,申立人から直接に被害の実情を聞き取りました。

・そうした審理にもかかわらず,センターが,わずか約190世帯しか和解案の対象とせず,精神的損害をわずか1人10万円しか認定しなかったことに対しては,失望を禁じ得ません。自主的避難等対象区域とされた地域の住民は,中間指針第二次追補によって,大人はわずか1人8万円の慰謝料と,1人4万円の追加的費用の賠償しか受けていません(妊婦・18歳以下の子どもは増額有り)。何の落ち度もない申立人の皆さんが受けた,本件原発事故に起因する放射性物質汚染の被害が賄われているとは到底評価できません。渡利地区では,除染によって生じた汚染土を自宅敷地内で現場保管(地上保管・地下保管)することを強いられ,これによる精神的苦痛も非常に大きいものがありましたが,センターはこれに対する慰謝料も認めませんでした。センターが高線量と認定した特定避難勧奨地点候補地以外にも,同様に特定避難勧奨地点の設定基準以上の高線量の地点が渡利地区内に多数存在したことを当弁護団は主張立証しています。

・センターが上記の限度の和解案骨子を提示したのは,東京電力によるセンターの和解案拒否が拡大する状況の中,東京電力も受諾できるであろう範囲の和解案に留めたものと考えざるを得ません。

・しかし,東京電力の代理人は,上記程度の和解案骨子に対しても,期日において反発を示しており,和解案骨子を受諾するかどうか,予断を許さない状況です。当弁護団は,東京電力に対し,東京電力が,政府に賠償金の援助を求めるにあたり提出した累次の総合特別事業計画において,《センターの和解案を尊重する》と誓約していることを遵守し,センターの提示した和解案骨子を受諾するよう求めます。

・申立人の皆さまには,2018年7月15日(日)の10時から及び13時から,福島駅近くの「コラッセ福島」において,センターからの和解案骨子提示についての説明会を開催してご説明する予定です(2回の説明会は同内容です)。

 

本件についての問い合せ先:

弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

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