【報告】飯舘村蕨平・比曽の集団ADR申立てでセンターが東京電力に最終回答を求める

【報告】飯舘村蕨平・比曽の集団ADR申立てでセンターが東京電力に最終回答を求める

 

2018.4.19

 

飯舘村蕨平集団申立て(全部和解等した世帯を除き,27世帯89名/H25.1申立て)で,東京電力が原子力損害賠償紛争解決センターの和解案のうち,被ばく不安慰謝料(大人1人50万円,妊婦・18歳以下の子どもは1人100万円)を拒否している問題で,センターは,平成30年4月18日付「和解案提示理由書(補足)」を示し,東京電力に対し,同年5月18日までに和解案の諾否について最終回答するよう求めました。

東京電力が最終的に拒否の回答をした場合には,和解仲介手続を打ち切り,和解仲介手続の概要を公表することを予告しています。

同時に,飯舘村比曽集団申立て(57世帯217名/H26.11申立て)でも,センターは,被ばく不安慰謝料についての和解案を拒否している東京電力に対し,同年5月18日までに和解案の諾否について最終回答することを求め,拒否回答の場合には和解仲介手続を打ち切り,概要を公表することを予告しました。

 

センターは,蕨平集団申立てに関する前記「和解案提示理由書(補足)」において,東京電力に対し,次のように述べています(一部要約)。

 

① 被申立人(=東京電力)は,本件和解案の対象となる申立人らの個別具体的な精神的苦痛を正視していない。

・センターは,福島市で行った口頭審理期日において,申立人ら本人に直接話を聞いており,その余の世帯についても詳細な陳述書が提出されている。これらによれば,申立人らはいずれも,放射線被曝への具体的な恐怖や不安を覚えており,特に,本件事故当時子どもであった申立人らは,自分の将来への影響や,将来自分に子どもが生まれた際の影響について,その親である申立人らは自分の子ども達の将来の影響について,恐怖や不安を覚えている。

・申立人らが,蕨平において,放射線に対する特別な防護措置も講じずに本件事故前とほぼ同じ生活をしていた,という具体的状況下において,蕨平の放射線量が旧警戒区域や帰還困難区域と同程度であることが明らかとなった後に,子どもやその親が受けた衝撃や後悔,これらの申立人らの恐怖や不安による苦痛が,筆舌に尽くしがたいものであろうことは,通常人においても容易に理解できるはずのものである。これらの申立人らの精神的苦痛をもって,具体的な権利侵害が生じているとはいえないだとか,科学的根拠もなく漠然としたものであるなどとは到底いえない。

・被申立人は,低線量被曝に関する科学的知見やデータを指摘するが,低線量被曝については,健康影響がないことがないことが明らかにされているとはいえない。

また,放射線防護や放射線管理の立場からも,しきい値がなく,直線的にリスクが増加するという考え方が採用されており,科学的知見に基づいて一定量の放射線被曝は許容するという考え方ではなく,できるだけ放射線被曝は避ける,ないし少なくするという考え方が採られており,法規制がされている。

このような科学的知見に関する状況やこれを踏まえた放射線防護や放射線管理の考え方及び国内法令の規制は,仮に,これらの申立人らの被曝線量が低いものであったとしても,恐怖や不安を抱くことが合理的であるとの評価につながるものであって,被申立人はこれらの実態を正視すべきである。

② 被申立人は,本件和解案が考慮した精神的苦痛について,中間指針で考慮済みと主張するが,中間指針において,旧警戒区域ないし帰還困難区域と同程度の放射線量であった蕨平に滞在を続けることとなった申立人ら固有の個別具体的な事情まで考慮したと認めるに足る記載はなく,本件和解案が認めた精神的苦痛を考慮済みであると評価することはできない。

③ 蕨平に隣接する長泥の集団申立てにおいては,本件と同内容・同理由の慰謝料増額の和解案が提示され,和解が成立しているところ,被申立人は,本件と長泥集団申立ての差異について,「帰還困難区域に指定された」点以外に具体的に明らかにしていないことからすれば,被申立人は,蕨平が「帰還困難区域に指定された」地区ではないという一時をもって拒否回答をするもので,本件の個別具体的な事情を斟酌していない。

④ 被申立人は,本件事故による被災者及び国民に対し,当センターから提示された和解仲介案を尊重する意思を自ら表明している。

当パネルは,本件和解案に対する被申立人の拒否に,何らの合理的理由を見出すことはできないと考える。本件和解案の対象となる申立人らに通常人において容易に理解できる苦痛が生じていることからすれば,本件は,個別具体的な事情について審理を尽くした本手続において和解によって紛争を解決すべきものであることは明らかである。

したがって,本件がこのまま打ち切りとなることは,当パネルとしても極めて不本意である。

 

センタ-がこれまで3度にわたり和解案提示理由を文書で説明し,東京電力に粘り強く和解案の受諾を求めてきたことについて,当弁護団は敬意を表します。

センターの指摘する上記の各点はいずれも正当であり,東京電力は,申立人らが本件原発事故によって被った被ばく不安に関する精神的苦痛を直視し,自ら誓約している《和解仲介案の尊重》を遵守して,センターの和解案を受諾するべきです。

当弁護団は,改めて,東京電力に対し,センターの和解案を受諾することを強く求めます。

 

本件についての問い合せ先:

弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

本ニュースのPDFファイルはこちら(150KB)