【報告】飯舘村長泥・蕨平田畑集団申立てで東電に和解案の提示理由を補足説明し,受諾を勧告

【報告】飯舘村長泥・蕨平田畑集団申立てでセンターが東京電力に和解案の提示理由を補足説明し,受諾を勧告

 

2017.11.8

 

2017.6.28付けニュースでお伝えしましたように,飯舘村長泥・蕨平の住民72世帯77名が申し立てた,田畑の財物損害の東京電力基準以上の賠償を求める集団申立てで,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)が,平成29年2月14日に提示した,東電基準を上回る和解案(和解金額は,提示後一部修正があり,和解案が提示された71世帯76名合計で約1億7080万円,以下「本和解案」)について,東京電力は,東電基準以上は支払わないとして,和解案の受諾を拒否しています。

 

この問題について,センターは,平成29年11月6日に進行協議期日を開催し,東京電力代理人2名,従業員2名が出席した席で,以下のとおり,本和解案の提示理由を詳細に補足説明し,本和解案の受諾を改めて勧告しました。

 

〔センター担当仲介委員が口頭で説明した和解案の提示理由〕

1 前提となる事実認定

提出証拠によると,以下の事実が認められる。

(1) 長泥・蕨平の地理的状況や農業の歴史

長泥・蕨平地区は,大半が森林に覆われており,田畑の多くが,申立人らの先祖が手作業で切り開き,開拓したものである。申立人らは,田畑を受け継ぎながら,少しずつ手作業で耕作地を広げ,面積を拡大するなど,試行錯誤を繰り返してきた。

個人や家族が自らの田畑だけで農業をするのではなく,地域的に協力し,一体となって農業を行ってきた。

これらの長年にわたる田畑への投下資本は,金銭評価できるものもあるが,知り合いのつて,ゆい等の地域のつながりにより,無償ないし物々交換で提供された,金銭評価が容易でないものも多い。

また,申立人らは,長泥においては,ヤーコンの栽培,蕨平においては,特別栽培米・エコ米など,長年培ってきたノウハウを用いながら,地域的特性を活かして農業を行い,生活の糧としていた。

長泥・蕨平地区においては,田畑は先祖代々の家産(家の財産)として受け継がれており,外から人が移動してくることも少ないため,民間の農地取引数は極めて少ない。

(2) 申立人らの現在

申立人らが本件原発事故時,現に耕作していた田畑は,放射性物質による汚染のみならず,動物の侵入による獣害,木々の繁殖により荒廃し,長泥・蕨平の農業は壊滅的打撃を受けた。

申立人らは,本件原発事故時,農業をやめる意向はなく,事故がなければ農業を継続していたと認められるが,福島県内の避難先において,一部を除いては,農業を再開するには至っておらず,再開したい希望はあるものの,長泥・蕨平に戻る目処は立たず,避難先で農地を購入することもできていない。

帰還困難区域である長泥地区はもちろん,放射性廃棄物の減容化施設を受けいれた蕨平地区も,前述した壊滅的な打撃や風評被害,除染によって田畑の肥沃な表土部分が剥ぎ取られてしまったことなどを併せ考えると,当分の間,被申立人らが両地区で農業を再開し,生活の糧とする見込みは立たないと言わざるを得ない。

 

2 事実認定を踏まえた和解案の考え方

(1)  基本的考え方(総論)

本件の審理を通じて,申立人らの田畑は金銭的評価が容易でないものも含めて,様々な投下資本によって形成されたものであること,長年のノウハウによる地域特性を生かした農業を行ってきたこと,地域外から人が移動してこないために買う需要が少ないこと,そうした地域的特性等から,取引価格比較法のみの評価では,直ちに,田畑の本来の価値,本件で賠償すべき申立人の損害を測ることはできないことが明らかになった。

両地区の農業については,原発事故による壊滅的状況に陥っており,このような状態で,申立人らが農業を再開できていないことが,申立人ら被災者に帰責できない原因によるものであることは言うまでもない。

これらの状況にある申立人らの被害をどのように回復すべきか検討し,当パネルは,本件の解決としては,少なくとも,申立人らが事業再開の見通しがつくような十分な賠償をすべきであると考えた。

これは,当センターにおいて,農機具などの一定の事業用動産の賠償において,本件事故の特異性,すなわち,単純な個別の財物の損害だけでなく,地域全体のインフラや周辺環境が丸ごと破壊されてしまい,ここから得ていた有形無形の利益が失われたことを考慮し,十分な賠償を提案しているのと同様の考えである。

これらの事業用資産の賠償においては,単に中古動産として売買した場合の価格がいくらになるのか,などの交換価値の賠償にこだわることなく,実際の耐用年数を考慮した残価の認定や,事案によっては取得価格を損害として認定するなど,柔軟な損害額の認定を行ってきた。この点は,判例時報2213号,当センターの野山・前和解仲介室長の論文にも記載がある。

このような考え方を前提に,農業を事業として考えるならば,田畑は,農機具と同様,生産財そのものであり,むしろその基本的中核となる事業用資産というべきである。

このような田畑の賠償が,付随的な資産である農機具よりも劣位の賠償で十分と言うことは到底できないと考える。

むしろ,食品を扱う農業は,原発事故による放射性物質と全く相容れないものであり,両地区の一次産業が壊滅的な打撃を受けていることなど,事業再開を困難にする事情があることを考慮すると,一般的な事業用動産の賠償に比して,手厚い賠償をする必要があると考える。

(2) 具体化するための枠組み,補正についての考え方

以上に述べたような和解の基本的な考えを具体化するために,当パネルでは,一方において,被申立人から不動産価格調査書が提出され,他方,申立人から,不動産価格調査書に記載された取引事例について,申立人らによる情報公開請求の結果が証拠提出されたことを踏まえ,不動産価格調査書の調査価格を補正する方法によることを考えた。

具体的には,既に述べた通り,農業の廃止,負債整理,生活資金を必要とすること,高齢化による経営縮小,田畑を区別しない価格設定などの事情から,本件価格調査書の価格には,補正すべき点が認められると考えた。

当パネルでは,補正すべきか否か,その幅については,純粋な不動産鑑定による手法を参考にしつつ,被害実態等の背景事情を考慮して判断することとした。

すなわち,本件和解案は,不動産価格調査書等の価格調査の補正の考え方を参考にしつつ,本件の被害実態,背景事情を考慮し,和解先例との均衡も考慮した上で,事業再開の見通しが付く十分な賠償として,田については3割〔×100/70〕,畑については特殊事情が少ないので2割〔×100/80〕の補正をした金額を賠償すべきと考えた。

その補正の考えは,純粋な意味での不動産鑑定で行う補正とは異なり,その考え方を援用して,本件での具体的で妥当な解決を図るための考え方を盛り込んだものである。

以上が,当パネルの提示した和解案の考え方の説明である。

 

以下では,被申立人からの意見に対して,参考までにパネルとしていくつか指摘する。

① 補正の要否について

被申立人は意見書において,本件において補正の必要性がない,と述べるが,その立論の根拠となっている,取引事例の価格が妥当な価格として認識される水準の範囲内か否かは,個々の不動産鑑定士の経験に基づくものだといっている。

しかし,補正すべきか否かは,純粋な不動産鑑定の考え方を用いても,個々の不動産鑑定士の判断により,補正する場合もあれば,補正しない場合もあると考えられ,いずれかが著しく不合理ということはできない。

② 情報公開の結果について,

被申立人は情報公開請求の結果の信用性について言及するが,国交省による文書照会の回答も,アンケート形式のものにすぎず,その記載よりも,情報公開請求の結果が一般的抽象的に信用できない,ということはいえない,と考えている。

むしろ,(開示された農業委員会の)議事録には,担当委員が実際に(売買当事者と)会ってきた等の記載も散見され,信用性が認められる。

③ 不動産鑑定に関する法律について

被申立人は,不動産鑑定評価に関する法律について言及し,不動産鑑定士以外の者が鑑定を行うことを禁止している,としてその専門性を強調する。しかし,同法52条1号においては,農地を農地として取引価格を評価する場合には,同法にいう不動産鑑定評価には含まれないとしている。従って,この法律を援用することは誤りである。

④ 被申立人の単価算定方法の検証が不可能であること

本件では,いわゆる基準地の不動産価格調査書は,当パネルの再三の要請にもかかわらず,被申立人から証拠提出されておらず,期日における開示もできないとされている。不動産価格調査書の担当不動産鑑定士名も不明である。和解案提示後に,補正が必要でないと被申立人代理人が話を聞いた(福島県不動産鑑定士協会の)取材担当者も不明である。このような事情から,被申立人の単価算定方法の正確な検証が不可能であることも指摘しておく。

 

本件に先行する田畑の和解事例として,山木屋集団事件があり,関連証拠が提出されている。本件の提示額は,この事件の提示額の範囲内であり,同事件の考え方,和解金額との均衡も考慮して,検討したものである。

本件以外の個別事案で,被申立人が自認した単価(東電基準)で和解が成立したものもあると仄聞しているが,その単価による賠償を当センターが積極的に正しいと判断しているわけではない。

 

以上の事情を総合考慮し,本件和解案は,個別具体的事案に基づき,妥当な解決を図ることを目的とした仲介委員の裁量の範囲内で提示したものである。

本和解案は,陳述書によって明らかになった,大半が森林で,その森林を切り開いて開拓してきた等の地域的特性や,申立人らによる情報公開請求の結果を考慮して提示したものである。

被申立人には,改めて,本日説明した内容や,和解案を順守するという約束に基づき,受諾に向けて再度検討して頂きたい。

〔仲介委員の説明は以上〕

 

 

このように,センターは,本和解案が,審理の結果明らかとなった長泥地区,蕨平地区の被害実態を踏まえたものであること,農機具の賠償と比較しても,農地の賠償は,単純な交換価値の賠償では十分でなく,申立人らが事業再開の見通しが付くような十分な賠償をすべきであること,取引事例価格法による調査価格の補正は,取引価格を評価する上で考慮すべき事情があることを理由としつつ,単なる不動産鑑定上の補正ではなく,被害実態を踏まえ,具体的妥当性を考慮して仲介委員の裁量により行った補正であること,等を説得的に述べました。

その上で,被申立人に対し,12月6日までに,再度本和解案の受諾に向けた検討を行い,検討結果を回答するようにと求めました。

 

当弁護団は,東京電力に対し,《センターの和解案の尊重》を社会的に誓約していることを踏まえ,センターの和解案を受諾するよう,改めて強く求めます。

 

本件についての問い合せ先:

原発被災者弁護団 事務局次長 弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

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