【報告】飯舘村長泥・蕨平田畑集団申立てで東電基準を上回る和解案提示

【報告】飯舘村長泥・蕨平田畑集団申立てで東電基準を上回る和解案提示

 

2017.2.20

 

飯舘村長泥・蕨平の住民72世帯77名がH26.10~H26.12に申し立てた,田畑の財物損害の東京電力基準以上の賠償を求める集団申立てで,平成29年2月14日,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「センター」)が,進行協議期日において,東電基準を上回る和解案を提示しました。

 

(1) 東京電力は,長泥・蕨平地区の田について480円~500円/㎡,畑について340円~350円/㎡という賠償基準で賠償をしていますが,その根拠として,代表地(長泥,蕨平の田・畑各1筆)について,不動産鑑定士作成(ただし氏名は墨塗り)の不動産価格調査書を提出していました。

(2) 東京電力提出の不動産価格調査書では,「取引事例比較法」を採用し,過去の民間の農地売買事例(田畑について各4事例)の取引価格を基に,代表地の評価額を算出していました。

(3) 申立人側は,かかる取引事例について,飯舘村農業委員会に情報公開請求を行い,農地法3条の許可の際の審議資料の開示を得ました。開示資料によると,いずれの取引事例も,売主側に,農業を廃止する,負債を整理する,生活資金を確保する,高齢化による事業縮小等の事情がありました。また,田・畑の単価を区別せずにまとめて投げ売りしている例も見られました。

申立人側は,取引事例にはこのように取引価格を下げる要因が見られ,《売りたくて売る》場合の価格を示しているに過ぎず,申立人らのように,《売りたくないのに農地の価値を毀損された》場合の賠償価格として採用することはできない旨主張していました。

(4) 仲介委員は,このような申立人側の主張に理解を示し,前記の取引事例の取引価格そのままを根拠に代表地の評価額を算定するのは相当ではないと判断しました。その他,本件で審理した一切の事情を踏まえ,代表地について,田は本来の価格の70%程度,畑は本来の価格の80%程度の金額が東京電力基準となっていると判断し,田は東京電力基準÷0.7〔東京電力基準の143%〕,畑は東京電力基準÷0.8〔東京電力基準の125%〕をもって,センターの評価額としました。

(5) その上で,田畑は個別性があるとして,代表地についてのセンターの評価額が固定資産税評価額の何倍かという割合を求め,これを係数として,申立人ら所有の各土地の固定資産税評価額に係数をかけて,各田畑の評価額を算定しました。なお,固定資産税評価額が低い場合には算定した評価額が東京電力の認めた賠償金額を下回ることがあるので,その場合には東京電力の認めた賠償金額をもって賠償金額とするとしました。

なお,この結論のみ,平成28年12月28日付け「和解方針に関する連絡書」で事前に予告されていました。

(6) 仲介委員は,合計71世帯(和解金額合計は約1億8754万円)について,世帯ごとの具体的和解案(和解金額算定表,和解契約書案)を提示し,和解案に対する諾否の回答期限を1か月後の3月14日と指定しました。

(7) 当方は,飯舘村の平成22年度の公共事業用の土地買収基準単価(田:1470円~1540円/㎡,畑:1310円~1340円/㎡)による賠償を主張しており,かかる主張が認められなかったことは遺憾ですが,センターが集団申立てで東京電力基準を超える和解案を提示したのは,当弁護団の知る限り,川俣町山木屋地区の集団申立て(H26.2.7和解案提示)に次いで2例目です。住民のみなさんにとっての農地の大切さを考えるとき,本和解案による賠償額は決して十分なものではありませんが,東京電力基準を超える和解案がセンターから再び提示されたことは,重要な意義を有すると言えます。

(8) 東京電力は,田畑・山林の賠償基準について,その根拠となる不動産鑑定書等を公開していませんが,国の準司法機関であるセンターから,その賠償基準が不十分であることを指摘されたものであり,東京電力基準の正当性は大きく揺らいでいるといえます。東京電力は,田畑・山林の賠償基準の根拠となる不動産鑑定書等を公開し,広く社会の検証を受けるべきです。

(9) 東京電力は,センターから提示された和解案を尊重する旨を,政府に提出した新・総合特別事業計画の中で誓約しており,本件和解案についても速やかに受諾すべきです。

 

参考資料:H28.12.28付け「和解方針に関する連絡書」

 

本件についての問い合せ先:

原発被災者弁護団 事務局次長 弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

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