飯舘村比曽地区集団ADR申立てについて和解案の提示

2016年11月9日

 

飯舘村比曽地区集団ADR申立てについて和解案の提示

 

   原発被災者弁護団

 

・飯舘村比曽地区集団ADR申立てについて,原子力損害賠償紛争解決センターから和解案の提示がありましたので,ご報告致します。

 

第1 飯舘村比曽地区集団ADR申立ての概要

1 申立人

飯舘村比曽行政区住民 57世帯217人

なお,比曽行政区の原発事故前人口は,86世帯339人→世帯ベースで約6割強が参加

比曽行政区は居住制限区域に指定。帰還困難区域に指定された長泥行政区の西隣。

 

2 経緯

H26.11.5 第1陣申立て

H27.2.27 第6陣申立て

H27.12.18 福島市市民会館にて現地口頭審理期日 30世帯について口頭審理

H28.10.31 被ばく不安による慰謝料増額についての「和解案提示理由書」,「和解方針に関する連絡書」(和解基準),第1陣として29世帯の和解案をセンターが提示/諾否の回答期限はH28.11.22と指定

 

3 請求損害項目

避難慰謝料,被ばく不安による慰謝料増額,その他の慰謝料増額,避難費用,一時立入費用,生活費増加費用(食費増加分,水道光熱費増加分,交通費増加分,家財道具等購入費用,衣類日用品購入費用),生命・身体的損害(慰謝料,通院交通費),宅地・建物の財物損害及び住居確保損害,財物損害(家財道具,農機具,田畑,お墓,井戸等),弁護士費用等

 

*直接請求済みの損害項目も多いが,直接請求による賠償からの増額を請求した。

*今回のADRで審理の対象となった期間は,H23.3~H27.12。

*H28.10.31提示(第1陣)の和解案(29世帯124人)で認められた金額の総計は,約11億7000万円。

 

第2 原子力損害賠償紛争解決センターから提示された和解案の概要

1 被ばく不安による慰謝料増額

(1) 和解案の結論

妊婦・子ども(18歳以下と解される) 1人80万円の慰謝料増額

その他(大人)            1人40万円の慰謝料増額

*H28.10.31提示(第1陣)の和解案(29世帯124人)で認められた慰謝料増額の合計は,5240万円(40万円×89人+80万円×21人)。

(2) 和解案が被ばく不安による慰謝料増額を認めた根拠

・比曽行政区の空間放射線量,土壌汚染状況,被ばく線量が深刻であること

-土壌汚染については,法令上の規制に係る基準値を大きく上回ること

-空間線量等が帰還困難区域である長泥行政区に匹敵する数値であり,中には長泥行政区を上回る数値も測定されていること

・計画的避難区域の指定はH23.4.22であり,申立人らが,本件原発事故直後から,特段の防護措置を置くことなく生活をしていたこと

・放射線被ばくの健康影響に関する知見,報道等の状況(健康被害が生じている可能性も否定されていない)を踏まえると,申立人らが,がん発症のリスク増加等,健康面に関する不安を抱くことはやむを得ないこと

(3) 被ばく不安による慰謝料増額の和解案が3たび出されたことの意義

・飯舘村長泥地区集団ADR 妊婦・子ども1人100万円,大人1人50万円の慰謝料増額の和解案(H25.5)→東電受諾(H26.2)

・飯舘村蕨平地区集団ADR 妊婦・子ども1人100万円,大人1人50万円の慰謝料増額の和解案提示(H26.3)→東電拒否(H26.5~現在)

・センターは,飯舘村南部の特に線量が高い地域の住民については,被ばくによる健康不安を感じることも合理的であり,東電にはこれに対する慰謝料の増額賠償をすべき責任があることを3たび東電に突きつけた。

・東電は,100mSv以下の低線量被ばくでは,発がんリスクは明らかでないと主張しているが,センターは,100mSv以下の被ばく線量の場合の放射線による発がんリスクは,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方の妥当性が否定されていない状況にあると指摘している(理由書9頁)。

・東電は,申立人らの被ばく線量は年間20mSvを大きく下回ると主張するが,センターは,ホールボディカウンターによる測定の対象にヨウ素131が含まれておらず,放射性ヨウ素による初期の内部被ばくの実態が明らかにされていないこと等を指摘し,東電の主張を排斥している(理由書8頁)。

・東電は,センターの指摘を受け止め,和解案を受諾すべきである。

2 それ以外の損害項目

別表のとおり。

・直接請求と比較して特に有利なのは,①生活費増加分,②農機具の財物損害,③自宅に残した家財道具の財物損害。

・①生活費増加分(食費,水道代,光熱費,交通費等)は,東京電力は「慰謝料に含めて支払っている」として賠償に応じないが,ADR和解基準では賠償を認めた。

・②農機具の財物損害は,直接請求では耐用年数を10年として計算しているが,ADR和解基準では30~40年として計算した。

・③自宅に残した家財道具の財物損害は,比曽地区は居住制限区域であるが,帰還困難区域と同等の賠償が認められた。

・東電は,センターの和解案を尊重し,速やかに和解案を受諾するべきである。

 

第3 問合せ先

弁護士 秋山 直人(原発被災者弁護団・事務局次長,飯舘村比曽集団ADR申立て主任)

03-3580-3269

本ニュースのPDFファイルはこちら(232KB)

 

<添付資料>

区域再編図

直接請求基準とADR和解基準の比較

H28.10.31付け和解案提示理由書(原子力損害賠償紛争解決センター)

H28.10.31付け和解方針に関する連絡書(原子力損害賠償紛争解決センター)