【お知らせ】東京電力の一部先行支払拒否方針に対する抗議

当弁護団では,下記のとおり,東京電力の一部先行支払拒否方針に対して強く抗議いたします。

 

東京電力の一部先行支払拒否方針に対する抗議

東日本大震災による原発被災者弁護団

1 東京電力は,補償対象期間における各損害項目について,金額に争いがある限り,その項目全部の支払に応じない方針を示しました。

2 東京電力の合意書から『一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません』という表記の削除がなされましたが,東京電力はなおも,同一損害項目内においての一部先行支払を拒否し,あくまでも被害者に東京電力基準での「合意」を押し付けようとしています。

3 このような東京電力の態度は,自ら「5つのお約束」として挙げる「迅速な賠償」「きめ細やかな賠償」という約束を反故にするものであり,弁護団は,強く抗議するとともに直ちにその態度を改善することを求めます。

 

弁護団は,通訳案内士の件につき,原子力賠償紛争解決センターへの仲介申立(ADR)をする一方で,東京電力株式会社と直接の交渉を行ってまいりました。その交渉の場において,東京電力株式会社は,その代理人を通じて次のような立場を明らかにしました。

補償対象期間内における各補償項目の請求については,当該期間内における当該補償項目についての全部の損害として請求されたものと考えており,「補償金請求書類(請求書用紙)や「結果通知書」にも,その旨を記載しているところである。
したがって,特に留保がされていないものについては,当然に,全部の請求であると考えており,当該補償対象期間内における当該補償項目についての全部の請求でないもの(一部請求と把握されるもの)については,合意及び支払をしない方針である。
なお,「合意書」の書式から「一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません」という文言を削除しているが,上記の考え方自体は,当初から何ら変更をしていない。

上記東京電力の立場は,被害者からの追加請求を困難にし,同一の損害項目内においては一部和解・一部先行支払を行わない方針を示すものです。かかる方針は例えば,毎月10万円という避難に伴う慰謝料額には納得いかないが,せめてその範囲内での支払いをすみやかにして欲しいという避難者からの要望には応じないということです。
かかる東京電力の対応は,以下に指摘するとおり,迅速かつきめ細やかな賠償を拒絶する態度を明らかにしたものであり,極めて誠意を欠く不当なものであることから,当弁護団としてその対応の是正を強く求めるものです。

1, 原子力事故によって,被害者の方々は,突然,その日常を奪われ,現在も先行きの見えない不安な生活を余儀なくされています。被害者の生活の困窮を防ぎ,一日も早い生活の再建を実現するためにも,東京電力による迅速な賠償の支払いが強く要請されていることは言うまでもありません。
そうであるなら,損害について意見の相違がある場合であっても,特に疑義のない部分については,可及的に速やかな支払いがなされるべきであり,意見の相違については,支払後の議論に委ねればよいはずです。
しかしながら,上記東京電力の方針によれば,当事者間で意見の相違がある限り,その損害項目については,その全部について支払を受けることができません。
その帰結として,被害者は,早期の支払を我慢するか,甘んじて東京電力の言うとおりに支払を受けるかのいずれかの選択を迫られるということになります。われわれ弁護団は,窮境にある被害者の足下を見るかのような東京電力の方針を断じて容認することができません。

2, なお,上記東京電力の立場は,弁護団が代理人を務める通訳案内士の方に関する交渉において明らかにされたものです。
弁護団は,通訳案内士の方について,「中間指針」において認められた平成23年5月末までにツアーがキャンセルされたことによる損害については,それを超える損害について争いがある場合であっても,先行して速やかに支払うべきことを求めてきました。
しかしながら,上記東京電力の方針によれば,「中間指針」を超える損害を請求しようと思えば,その意見の相違に決着がつくまで,「中間指針」において示された損害についてさえ,支払を受けることができないことになります。
これは,通訳案内士に対し,事実上,「中間指針」に示された類型的損害を超えた損害の請求を断念することを要求するものであり,極めて不当なものです。
通訳案内士の方々は,その多くが零細な個人事業主であり,原発事故によって,その生活の糧を失って,将来の不安にさらされています。一刻も早い賠償の支払が不可欠であるところ,東京電力は,上記方針に基づいて,誠意を欠いた対応をとり続けています。

3, 東京電力は,平成23年10月11日付プレスリリースにおいて,「(補償金ご請求のご案内)に掲載した合意書見本における『一切の異議・追加の請求を申し立てることはありません』という表記は,いかなる場合でも追加のご請求ができないかのような誤解を招く表現となっておりますので,実際にご請求者さまにお送りする合意書用紙においては,当該部分を削除いたします。」と発表しました。
東京電力の上記立場を踏まえると,このプレスリリースは,やむを得ない事情によって請求漏れが発覚した場合,あるいは「中間指針」等で明示されなかった損害項目が指針に追加される等の後発的事象が生じた場合などについて,例外的に請求に応じる可能性があることを表明したに過ぎないつもりのようです。
結局,東京電力に対して「補償金ご請求書類(請求書用紙)」による損害賠償を行った場合,請求した損害対象項目については補償対象期間における損害の全部を請求したものと扱われることになり,この請求に基づいて合意がなされた後には,追加の請求をしても支払を拒否される危険があります。
また,当初から「全部の請求ではなく,追加の請求もありうる」旨を注記するなどして請求を行った場合,そのような請求は,東京電力から拒絶される可能性が高いといえます。
東京電力は,平成23年10月28日付「特別事業計画」において,「迅速な賠償の支払」「きめ細やかな賠償の支払い」を約束していますが,この約束は,早速,反故にされているというほかありません。

4, 弁護団は,東京電力の上記方針に対し強く抗議するとともに,このような方針を撤回し,支払うことに争いのない部分については,可及的に速やかな支払がなされるように求めていきます。
また,弁護団は,通訳案内士の方に対する賠償について,たとえ中間指針に示された類型的損害を超える部分を請求する場合であっても,少なくとも中間指針に明確に示された範囲内(5月末までのキャンセル分)においては,引き続き速やかに一部先行支払がなされるように求めていきます。

以 上

 

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