【抗議】飯舘村比曽地区集団申立てにおける東京電力の不誠実な対応(8月4日追記)
2015.7.24
1 飯舘村比曽地区集団申立て(57世帯217名/H26.11申立て)で,現在,センターでの審理が行われています。平成27年7月15日,東京電力から,各世帯ごとの主張整理一覧表が提出され,東京電力の再認否・求釈明・反論等が示されました。
しかし,東京電力の再認否等の対応が余りにも不誠実であるため,いくつかの例を挙げ,強く抗議します。
2 東京電力の賠償基準に沿わない請求は認めようとしない姿勢
全体に,東京電力は,東京電力の賠償基準に沿わない請求は認めようとしておらず,自社の賠償基準に固執しています。一連の中間指針及び追補も,指針・追補に明記されていない損害でも,本件原発事故と相当因果関係の認められる損害は賠償されるべきものであることを繰り返し注意喚起しています。また,センターにおける和解仲介手続は,中間指針・追補や東京電力の定型的賠償基準に囚われず,被害者の個別の被害の実態に即して適正な賠償を実現するための手続ですが,この点に対する東京電力の無理解が甚だしいといえます。
3 住居確保損害について
(1) 東京電力は,直接請求においては,居住制限区域内の持ち家に居住していた被害者からの住居確保損害の請求について,請求書に示された「営業・就労に関するご事情」「医療・介護に関するご事情」「子どもの生活環境に関するご事情」「その他の合理的なご事情」という4つのチェックボックスのいずれかにチェックを入れれば「移住の合理性」を認め,それ以上に個別具体的な事情の記載を求めておらず,裏付け資料の提出も求めていません。
しかし,飯舘村比曽地区集団申立てにおいて,東京電力は,既に本件原発事故後約4年半にわたって長期の避難生活を余儀なくされている申立人らの状況を理解しようともせず,詭弁を弄して,「移住の合理性」を否定しようとしています。
(2) 世帯1
福島市松川町の仮設住宅に避難を続けている世帯1の申立人(70代女性)が,福島市に移住を希望する理由として,長男に面倒をみてもらいたい,一人暮らしでは病気になったときに不安がある,通院している病院が近くなる等の理由を挙げました。
これに対し,東京電力は,
「 上記理由からは,本件事故の有無に関わらず将来福島市へ転居していたことも考えられ,中間指針第四次追補に定められる『移住等をすることが合理的』と認めることは困難です」
と認否しました。
《本件原発事故が無くても福島市へ転居していたかもしれない》などというのは,完全な詭弁であり,東京電力には,4年以上にわたって避難生活を続けている高齢の申立人の置かれた状況に対する想像力が全く欠如しています。
東京電力は,上記申立人に対し,このままずっと仮設住宅での避難生活を続けろというのでしょうか。
(3) 世帯2
世帯2の申立人は,既に福島市内に土地を購入し,領収証も証拠提出しています。仕事も福島市内で行っています。
にもかかわらず,東京電力は,
「申立人は将来自宅に戻り営業再開することも考慮されており,中間指針第四次追補に定められる『移住等をすることが合理的』と認めることは困難です」
と認否しました。
比曽で事業をしていた申立人が,廃業届の提出の有無についての質問に対し,《自宅に戻って営業を再開する可能性があるので廃業届は出していません。ただ,いつ戻れるか分からないので,営業再開の目処は立っていません》という趣旨の回答をしたことを捉えた揚げ足取りです。
多くの申立人は,《いつかは比曽に戻りたい》という気持ちを持っています。それは,生まれ育った故郷に対する当然の思いです。
しかし,現実に,本件原発事故から約4年半を過ぎた現時点でも,比曽地区の放射線量は相当に高く,いったいいつになれば比曽に戻って,原発事故前と同様の生活が営めるのかは,全く見えていません。
そのような状況の元で,《いつかは戻りたいが,それまでの間,移住して落ち着きたい》と考えている申立人らに対し,東京電力は,《将来自宅に戻る可能性があるので移住の合理性は認められない》などと言って住居確保損害の賠償を免れようとしているのです。
「帰還意思はあるが避難が長期にわたることを理由に他所で新たに住居を確保しようとする者」が住居確保損害の賠償対象者であることは,野山宏・前原子力損害賠償紛争解決センター和解仲介室長の「原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解の仲介の実務 11」(判例時報2216号7頁)でも明記されているところであり,当たり前の話です。
(4) 世帯3
世帯3は,本件原発事故前は比曽で4世代12人の大家族が同居していた世帯です。
本件原発事故により避難を強いられ,世帯3は多い時で6世帯に分離し,ばらばらになってしまいました。その後,それぞれが移住先を決め,既に分離後の3世帯が移住先の土地を購入するなどしています。
かかる経緯は申立人らにおいて説明し,土地売買契約書等も提出しているにもかかわらず,東京電力は,
「現段階において,移住の合理性を認めるご事情のご説明がないことから,お支払いは困難です」
と認否して,直接請求であれば全く問題なく住居確保損害が認められるケースであるにもかかわらず,住居確保損害の支払を拒否しています。
(5) このように,東京電力の住居確保損害に関する認否は不誠実極まりないといえます。直接請求における取扱いと比較しても明らかに不合理です。ADRに和解仲介を申し立てた申立人らを敵視していると見られても仕方のない対応です。
4 被害者の説明に耳を傾けない姿勢,想像力の欠如
(1) 世帯4
世帯4では,避難後に購入した,アマチュア無線の無線機・アンテナの購入費用を請求しています。
飯舘村(住民約6100名)には,200人を超えるアマチュア無線の有資格者がいました。村役場にも無線が使える者が多くいました。
本件原発事故後に,電話が使えない状態が4,5日続き,村の連絡体制として役場の者を中心として配備し,アマチュア無線をしている村民が動員されて協力しました。その後も,離ればなれになった村民間で,家にいながらにして,不特定多数の交信・交流をして(1対1の電話とは違います),誰がどこに避難していて無事であるのか,何か困っているのか,半ば公的な情報共有の手段としていました。
世帯4の申立人もアマチュア無線を活用しており,比曽から福島市に避難し,周波数が変わったために新たに無線機やアンテナを買い直す必要があったものです。
このような経緯・実情を準備書面等で説明しているにもかかわらず,東京電力は,
「多数人との連絡は、仮にパソコンを所有されていたのであれば、メールやSNS等を利用することによっても実現可能ですから、あえてアマチュア無線を使用する必要性もありません。」
と認否しました。
東京電力の上記のような認否は,中山間地域の生活について想像力を働かせることができず,都会の発想で切り捨てているものであり,被害者の説明に耳を傾けない姿勢と言わざるを得ません。
(2) 世帯5
世帯5の申立人(80代女性)は,本件原発事故前,農業を営んでおり,毎日,朝5時半から午後2時まで働いており,問題なく日常生活を送っていました。
しかし,本件原発事故後,仮設住宅での避難生活によって,狭心症,高血圧症の持病が悪化し,平成24年1月に脳梗塞を発症し,10日間入院しました。また,平成25年4月から胸椎圧迫骨折により1か月入院しました。
申立人は,かかる事情を説明し,「避難生活により悪化」と明記されている診断書も提出しました。
しかし,東京電力は,
「脳梗塞の発症について、初診日が事故から相当期間が経過していること、本賠償で提出された診断書によれば避難生活との関係は不明のため、事故との相当因果関係を認めることは困難です。」
という理由で,入通院慰謝料等の賠償を拒絶しました。
高齢者にとって仮設住宅での避難生活がいかに過酷なものかについての理解が欠如しており,《避難生活との関係が不明と書いてある診断書が直接請求の段階で提出されている》ことを強調し,新たに提出された診断書を無視して本件原発事故との相当因果関係を否定しようとするその態度は,不誠実なものです。
5 過剰な証拠資料の提出要求
(1) 世帯6
世帯6では,お盆に家族(4世代)が県内外から比曽の実家に集まる行事が本件原発事故前から恒例であったところ,本件原発事故後の平成23年8月,本件原発事故のために比曽の実家に家族が集まることができなかったことから,レンタカーでマイクロバスを借りて墓参に行き,飯坂温泉に家族で宿泊しました。この宿泊費等は,本件原発事故がなければ生じなかった費用であり,損害として請求したところ,東京電力は,
「本件原発事故前と比較して一定程度の損害が発生しているものと考えられることから,東京電力における直接請求の扱いに則り検討させていただきます。つきましては,申立書及び準備書面から宿泊及びマイクロバスを利用したのは13名であると考えられますが,申立外の方については氏名及び事故時住所を明らかにし,その裏付けとなる客観的資料(住民票等)を提出していただきますようお願いいたします。」
と認否しました。
しかし,本件原発事故の加害者である東京電力から,家族の行事に集まった家族4世代全員の住民票まで上から目線で提出を要求される筋合いはありません。13名がそれぞれの宿泊費を請求しているわけではなく,世帯主である申立人がまとめて負担し,それを申立人の損害として請求しています。参加した13名が家族であることについて,特に疑うべき事情があるのであればその旨を指摘すべきであり,特に疑うべき事情もないのに,全員の住民票の提出まで要求するというのは,過剰な証拠資料の要求です。
(2) 本人の陳述書でないから認められないとの主張
世帯7~9について,東京電力は,慰謝料増額事由等に関し,世帯を代表してある申立人が陳述書を提出していることに対し,《当該陳述書では他の申立人の事情をうかがい知る資料とはならない》などと認否しています。
これまでセンターでは,世帯が集まって申立てをしている事案で,世帯の代表者の陳述書によって,世帯を構成する他の申立人の慰謝料増額等の事情について認定してきていますし,代理人弁護士の報告書によって陳述書に替える扱いも認めてきています。そのことは,東京電力は当然に認識しているはずです。
陳述書は陳述書の作成名義人の事情についてしか証拠資料にならないなどという主張は,申立人ごとに陳述書を作成・提出しろと言っているに等しく,センターのこれまでの運用にも反し,申立人らに無用な負担を課そうとするものです。
6 小括
東京電力は,新・総合特別事業計画で,「3つの誓い」として,「最後の一人まで賠償貫徹」「迅速かつきめ細やかな賠償の徹底」「和解仲介案の尊重」を掲げています。
「最後の一人が新しい生活を迎えることができるまで,被害者の方々に寄り添い賠償を貫徹する」「被害者の方々に徹底して寄り添う立場」とも記載しています。
しかし,本件和解仲介手続における東京電力の認否を見ますと,東京電力は完全に二枚舌を使っていると言わざるを得ません。
上記に例を挙げた東京電力の認否等のどこが,「被害者の方々に徹底して寄り添う立場」なのでしょうか。逆に,直接請求における取扱いよりも厳しい審査を主張し,申立人らの説明に耳を傾けず,個別の損害の実態を見ようともせず,過剰な資料提出要求によって申立人に不要な負担をかけ,何らの落ち度もない申立人らに二次被害をもたらしています。
このような東京電力の不誠実な態度は,到底許されるべきものではなく,申立人らは,東京電力に対し,厳重に抗議します。
以 上
7 追記(平成27年8月5日)
比曽地区集団申立てでは,平成27年12月に口頭審理期日が開催されることが決定しています。申立人らは福島市での開催を希望しており,センターも福島市での開催を予定していると思われます。飯舘村長泥地区,蕨平地区の集団申立てでもこれまで福島市での現地口頭審理期日が開催されてきました。
しかし,東京電力は,平成27年8月4日付け「進行に関する意見書」において,口頭審理期日の開催場所はセンターの東京事務所を希望するとし,電話会議方式で行うことは可能だ,などと述べてきました。
30世帯超の世帯が直接仲介委員に被害の実情を訴えたいと希望しているのに,東京での電話会議で済ませようとするなど,どこが「被害者の方々に徹底して寄り添う立場」なのでしょうか。東京電力は,福島に出向き,直接に申立人らから被害の実情を真摯に聞くべきです。被申立人のこのような不誠実な態度に対して,重ねて強く抗議します。
以上
本件についての問い合せ先: 原発被災者弁護団 事務局次長 弁護士 秋山直人(03-3580-3269) 本ニュースのPDFファイルはこちら(245KB)