中間指針追補に対する原発被災者弁護団見解
１ 原子力損害賠償紛争審査会は，平成２３年１２月６日，自主的避難等に係る損害について，中間指針の追補を発表した。
２ 中間指針追補は，住民が放射線被曝への恐怖や不安から自主的避難をしたことが合理的でやむを得ないと認められる地域として，福島県内の２３市町村（人口の多い福島市，郡山市，いわき市，相馬市等を含む）を「自主的避難等対象区域」と定めた。
これらの市町村について自主的避難の合理性が認められたことは，当然である。自主的避難等対象区域に指定されなかった福島県内及び周辺の市町村についても，原子力損害賠償紛争解決センター等での手続では，個別具体的な事情を踏まえて自主的避難の合理性を広く認めるべきである。
３ 中間指針追補は，目安となる損害額（精神的苦痛に対する慰謝料のみならず，生活費の増加費用等も含むとされている）について，自主的避難等対象区域から自主避難した住民も，避難せずに滞在した住民も，１８歳以下の子どもや妊婦については一律４０万円，それ以外の住民について一律８万円という，極めて低い金額を示した。
４ 中間指針追補は，自主的避難等対象区域から避難をした住民については，
①自主的避難によって生じた生活費の増加費用
②自主的避難により，正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛
③避難及び帰宅に要した移動費用
といった損害が生じていることを認めている。
また，自主的避難等対象区域にとどまった住民についても，
①放射線被曝への恐怖や不安，これに伴う行動の自由の制限等により，正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛
②放射線被曝への恐怖や不安，これに伴う行動の自由の制限等によって生じた生活費の増加費用
といった損害が生じていることを認めている。
しかるに，これらの損害が，合計しても１人一律８万円だというのは，全く理解できない。
審査会は，自主的避難者からのヒアリングも行ったはずであるが，被災者の声を真摯に受け止め，その被害を回復しようという姿勢に欠けると言わざるを得ない。
５ 中間指針でも，屋内退避区域・緊急時避難準備区域内から避難せずにとどまった住民に対して，１人一律１０万円のみという慰謝料額が示され，放射線被曝への恐怖や不安を抱えて生活する住民の精神的苦痛に対する評価が極めて低いという問題がある。
今回の中間指針追補は，この問題を解決するどころか，かえって，自主的避難等対象区域からの自主的避難者・滞在者の精神的苦痛をいっそう軽視する姿勢を示したものといえる。
６ 東京電力が，このような中間指針追補を盾にして，自主的避難等対象区域からの避難者・滞在者に，中間指針追補の損害額を賠償すれば事足れりという姿勢を取ることは許されない。
中間指針追補も，「中間指針追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく，個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る」「個別具体的な事情に応じて，これら以外の損害項目が賠償の対象となる場合や異なる賠償額が算定される場合が認められ得る」と述べている。
中間指針追補は，「一定の自主的避難等対象区域を設定した上で，同対象区域に居住していた者に少なくとも共通に生じた損害を示す」ことを目的にしたもので，自主的避難者等に対する損害賠償の最低限度を示したにとどまり，賠償の範囲を制限する趣旨のものではない。
従って，原子力損害賠償紛争解決センターでの和解仲介手続等において，自主的避難等対象区域からの自主的避難者や滞在者が，中間指針追補の定める金額を超える損害を被っていることを具体的に示した場合には，東京電力は，当然，その賠償に応じるべきである。
中間指針追補は，自主的避難等対象区域について，住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱いたことには合理性がある，と認めているのであるから，自主的避難との間に相当因果関係が認められる損害は，全て本件原発事故との間に相当因果関係が認められる損害として，賠償の対象になるというべきである。
また，精神的苦痛に対する慰謝料についても，原子力損害賠償紛争解決センターは，被災者の声に真摯に耳を傾け，中間指針追補の金額を事実上の上限として取り扱うようなことなく，適正な慰謝料金額を和解案として提示すべきである。
７ なお，東京電力は，中間指針追補で示された最低限度の損害賠償については，被災者から請求書を出させ，合意書を取り交わした上で支払うなどという方法を取るべきではない。前記最低限度の損害賠償については，対象の被災者全員に案内をした上，損害賠償の一部として至急に支払うべきである。
平成２３年１２月１２日
東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団
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