飯舘村長泥・蕨平田畑集団ADR申立てにおける東京電力による不正行為の発覚について

平成27年4月10日

 

飯舘村長泥・蕨平田畑集団ADR申立てにおける

東京電力による不正行為の発覚について

   原発被災者弁護団

  1 本件集団申立ての概要

 申立人:72世帯77名(飯舘村長泥,蕨平の各集団申立ての申立人のうち,田畑を所有している者)

 申立日:平成26年10月14日(第1陣67名),平成26年11月17日(第2陣9名),平成26年12月22日(第3陣1名)

 請求内容:田畑の財物損害について,東電基準による賠償では不十分であるとして,増額を求める申立て

 東電基準:田について480円~500円/㎡,畑について340円~350円/㎡。

 申立人らの主張:申立人らは,飯舘村の平成22年度の公共事業用の土地買収基準単価(田について1470円~1540円/㎡,畑について1310円~1340円/㎡)による賠償を求めています。 長泥地区は帰還困難区域,蕨平地区は居住制限区域で,東京電力への直接請求では蕨平地区住民は5/6の賠償しか受けられませんが,全損(6/6)の賠償を求めています。

 請求総額:約18億2900万円(ただし,約3億0200万円は既払いのため,追加請求額は約15億2700万円)

 

  2 発覚した不正行為

 ① 平成27年4月3日午後3時から,原子力損害賠償紛争解決センター・第一東京事務所3階で開催された第1回進行協議期日において,仲介委員が,東京電力代理人に対し,東京電力基準の策定に際し,東京電力が福島県不動産鑑定士協会に依頼して提出を受けた不動産鑑定書の証拠提出はできないのかと質問しました。 ② これに対し,東京電力代理人が,「センター限りで出してますけど」と発言しました。東京電力代理人が,センターに対し,東京電力基準の根拠となった不動産鑑定書を「センター限り」として提出していたことが発覚しました ③ 申立人代理人から,「聞いていない」「どういうことか」「不公正ではないか」と質しました。 ④ 仲介委員は,東京電力代理人から提出された不動産鑑定書について,「見てはいるが,証拠とはしない」と発言。仲介委員が,申立人側には一切示されていない当該不動産鑑定書を検討していたことを明らかにしました。

  仲介委員から東京電力代理人に,不動産鑑定書を証拠として正式に提出できないのかと何度か質問しましたが,東京電力代理人は,「個人情報が含まれており,証拠として提出する考えはない」と回答しました。 ⑤ 進行協議期日に先立ち,申立人側が,申立書において,東京電力基準はその具体的根拠が全く公表されておらず,合理性を有しているのか否か検証不可能であると指摘していたのに対し,東京電力側は,答弁書において,東京電力基準が適正な水準であることを裏付けるため,申立人ら所有の田畑のうち「代表田畑」について,東京電力側不動産鑑定士による「個別鑑定」を実施したいと提案しており,申立人側は,そのようなことは必要ないと反対していました。

  仲介委員は,東京電力代理人から,東京電力基準の元となった不動産鑑定書を正式な証拠としては提出しない旨の方針が示されると,「(東電基準について)具体的な算定の根拠が出てこないと,基準としての合理性を判断することができない」と述べ,「個別鑑定」に協力することを申立人ら代理人に求めてきました。  ⑥ 平成27年4月9日に担当調査官から申立人代理人に電話で説明があったところによりますと,東電からは平成27年1月19日に「センター限り」として,長泥地区や蕨平地区の田畑の東電基準の算出の根拠となった「標準地の不動産鑑定書」が提出され,仲介委員及び調査官の全員が当該不動産鑑定書の内容を確認しているとのことです。

   担当調査官は,「標準地鑑定書は,審理の進行を検討するために参考としている」と説明しました。

 

  3 本件不正行為の問題点

 ① 東京電力代理人が,「センター限り」として,田畑の財物損害の東電基準の元となった不動産鑑定書をセンターにのみ提出し,申立人側には伏せていたことは,和解仲介手続の公正を著しく損なうものであり,許し難いものです

   センターの和解仲介手続でも,裁判手続と同様に,当事者が証拠書類をセンターに提出する際には,相手方当事者用の副本を併せて提出しなければならないとされています(和解仲介業務規程23条4項)。かかる規定は,仲介委員の判断の基礎となる証拠書類については,相手方当事者にも検討と反論の機会を与える必要があるという,手続の公正を図る上での当然のルールを前提にしたものです。

 ② 仲介委員も,「センター限り」として,申立人側には伏せた状態で提出された資料(正式な証拠資料ではない)なのであれば,中身を検討せずに東京電力代理人に突き返すべきです。不動産鑑定書を検討した上で,「証拠とはしない」と言われても,申立人らにとっては全く信用できません。

 ③ 「証拠とはしない」といっても,当該不動産鑑定書を検討したことが,仲介委員の判断に影響したことは明らかです。仲介委員が,東京電力代理人に当該不動産鑑定書を正式な証拠として提出するように促したり,東京電力が求めていた「代表田畑」の「個別鑑定」に積極的になったりしたのは,明らかに当該不動産鑑定書を検討し,東京電力基準の根拠について関心を持ったからに他なりません。

   仲介委員が,申立人側に伏せて提出された不動産鑑定書を検討したことは,中立かつ公正な立場で事案の究明を行うべき仲介委員の職責(和解仲介業務規程21条)に違反するものと言わざるを得ません。

 ④ 4月9日の担当調査官からの説明によると,「標準地鑑定書は,審理の進行を検討するために参考としている」とのことですが,仲介委員の頭は1つであり,「審理の進行」の検討と,「審理の内容」の検討とを明確に区分できるはずがありません。また,「審理の進行」がどのようになされるかが,「審理の内容」に影響することも自明です。申立人側からすれば,仲介委員が「標準地鑑定書」を検討したことが,「審理の内容」すなわち和解案に影響することを危惧するのは当然であり,手続の公正を害することは否定しようがありません。

 ⑤ 特に,田畑の財物損害については,その賠償の具体的基準が公表されていないことについて,当弁護団は賠償開始当初から問題視しており,平成26年2月27日付けで,東京電力に対し,賠償の具体的基準(地区ごとの「基準地」の設定状況や「基準地」の単価を含む)を公表するよう申入書を提出していました。また,同日付けで,センター総括委員会及び経済産業大臣に対しても,東京電力に対し,賠償の具体的基準を公表するよう指導を要望する要望書を提出していました(当弁護団のHPのH26.2.27付け,H26.3.19付けニュース参照)。

   東京電力は,申入書に対し平成26年3月13日付けで「回答書」を提出し,「個人の資産の状況が特定されるおそれのある内容につきまして第三者に開示することはいたしておりません」として,賠償の具体的基準の公表を拒否していました。

   このように,東京電力は,賠償の具体的基準の公表を拒否して,被害者側が基準の批判的検討をできないようにしていながら,センターに対しては「センター限り」として,賠償基準の内容を示す基準地の鑑定書を提出していたものです。

   また,センターも,被害者側から上記のような賠償基準公表の要望があることを知りながら,被害者側に黙って基準地の鑑定書を検討していたものです。

 ⑥ 東京電力代理人が当たり前のように「センター限りで出してますけど」と発言したことからしても,本件に限らず,これまでの和解仲介手続において,東京電力が同様に申立人側には伏せたまま,資料を「センター限り」で提出している疑いがあります。 例えば,家財道具の財物損害について,東京電力はその賠償基準(定額賠償)の根拠を被害者からの求めにもかかわらず,一切明らかにしていませんが,センターは東京電力基準を和解案の提示に使っています。このことはかねてから,根拠の明らかでない基準を用いるのは不合理であると批判が強いところですが,センターが,東京電力から,東京電力基準の根拠となる統計資料等を「センター限り」として提出を受けている疑いがあります。

 

4 申立人側の対応

 ① 平成27年4月9日付で,センター(担当パネル)と東京電力代理人に「抗議書」を提出し,厳重に抗議しました。

 ② 同日付けで,センター総括委員会に対し,和解仲介業務規程18条に基づき,担当仲介委員に「和解仲介手続の公正を妨げるべき事情」があるとして,担当仲介委員の忌避申立て(審理の担当から外すことを求める申立て)を行いました。

 ③ 同日付けで,センター総括委員会・和解仲介室に対し,他にも同様に東京電力が申立人側には伏せて「センター限り」として証拠となる資料をセンターに提出していた事例がないかの調査を求める申入書を提出しました。

    以 上

  〔参考規定〕 和解仲介業務規程(原子力損害賠償紛争解決センターのHPに掲載)

  第18条 仲介委員について和解仲介手続の公正を妨げるべき事情があるときは,当事者は,その仲介委員を忌避することができる。

2 仲介委員の忌避についての決定は,当事者の申立てにより,総括委員会が行う。

  第21条 仲介委員は,法令,要領,この規程その他総括委員会の定める規則を遵守し,中立かつ公正な立場で事案の究明及び紛争の迅速かつ適正な解決に努めなければならない。

  第23条 2 当事者は,早期に紛争の問題点に関する主張及び証拠を提出しなければならない。

3 仲介委員は,当事者に対し,主張の整理補充,又は証拠書類その他必要な書類の提出を求めることができる。

4 前3項により当事者が提出する書類については,センターが定める数の副本(引用者注:調査官用と相手方当事者用の2通とされている)を併せて提出しなければならない。

   本件についての問い合せ先: 原発被災者弁護団 事務局次長 弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

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