【報告】福島県田村市都路町地区居住者の集団提訴事件

福島県田村市都路町地区居住者の集団提訴事件

 

1 2015年2月9日,福島県田村市都路町地区の旧緊急時避難準備区域の居住者105世帯399名が,東京電力株式会社及び国に対する損害賠償請求訴訟を福島地方裁判所郡山支部に提訴しました。 田村市都路町地区は,福島第一原発から15~30㎞圏内に位置し,その多くは、福島第一原発から20㎞~30㎞内に位置する旧緊急時避難準備区域に指定された地区です。この地域は,豊かな自然に恵まれた地域であり,季節が来れば山に入り山菜やきのこをとることは,原告の生活の一部でしたが,現在では,以前のようにはできなくなっています。また,平成23年3月12日に,田村市が都路町地区全域に避難指示を出したこともあり,多くの住民が避難をしました。現在では、元の住居に戻った原告もいますが、避難を継続している原告も多く存在します。原告は,現在でも原発事故以前と同じ生活はできていない状態にあるのです。 本件訴訟の請求内容は,このような豊かな自然に恵まれた地域における生活を根こそぎ奪われたこと自体を損害ととらえ、慰謝料を請求するものです。具体的には自然豊かなコミュニティ等喪失慰謝料等として、各原告一人当たり1100万円、総額約37億円の請求をしています。

 

2 原告らは,原子力損害賠償紛争解決センターに対する和解仲介の申立てによっては,上記の原告らに生じた損害の賠償を得ることができないために本件訴訟を提起したという経緯もあります。 慰謝料については,中間指針第二次追補(2012(平成24)年3月16日)は,「中間指針において避難費用及び精神的損害が特段の事情がある場合を除き賠償の対象とはならないとしている『避難指示等の解除等から相当期間経過後』の『相当期間』は,旧緊急時避難準備区域については平成24年8月末までを目安とする。」としていることから,旧緊急時避難準備区域に居住していた本件原告らは,平成24年9月以降の避難慰謝料については「特段の事情」がない限り支払を受けることができない扱いとされています。そして,原子力損害賠償紛争解決センターは,この「特段の事情」がある場合について限定的な例示にとどめており,このセンターの基準では,本件原告らが平成24年9月以降の避難慰謝料の支払いを受けることは困難な状況です。 また,原子力損害賠償紛争解決センターは,本訴同様に被害者らが原発事故によるコミュニティ喪失の慰謝料を請求する内容の和解仲介申立を行っても,その判断を回避し,和解案の提示を拒否する対応を続けています。このような対応からして,同センターによって本件原告らの請求である「自然豊かなコミュニティ等喪失慰謝料」に関する和解案が示されることを期待することも極めて困難です。 なお、当弁護団では,既に,平成26年3月10日付にて,田村市都路町地区への移住者,移住予定者に関する集団提訴案件を東京地方裁判所に提起しておりますが,上記提訴にも同様の問題がありました。

 

3 国会事故調は,「当委員会は,本事故の根源的原因は歴代の規制当局と東電との関係について,「規制する立場とされる立場が『逆転関係』となることによる原子力安全についての監視・監督機能の崩壊」が起きた点に求められると認識する。何度も事前に対策を立てるチャンスがあったことに鑑みれば,今回の事故は「自然災害」ではなくあきらかに「人災」である。」と述べ,本件事故が人為的な原因によってもたらされたものと断定し,被告東電と被告国との責任に言及しています。 本件訴訟の原告らは,まさに上記国会事故調と同一の視点に立っています。つまり,今回の事故は「自然災害」ではなく「人災」であると考え、 ①本件事故の発生について,被告東電の原子力損害の賠償に関する法律上の責任を確認することに加えて被告東電の民法709条の不法行為責任を明確にし, ②同時に被告国の国家賠償法に基づく責任を確認した上で, ③原告らに発生した全ての損害の賠償を履行せしめ,原告らが失った生活を取り戻し,都路町のコミュニティと人間の尊厳を回復することを可能とする完全な損害賠償を実現するために本件訴訟を提訴したものです。 加えて,原告らは,本件訴訟において本件事故についての被告東電と被告国の責任を明確にすることにより,事業者である被告東電と規制当局である被告国に原子力の安全に関する抜本的な対策を講じさせ,福島第一原発のような危険な原子力発電所の稼働を直ちに停止させ,原子力発電所の事故が二度と発生しないことの実現を追求するものです。

以上

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