【報告】 南相馬市特定避難勧奨地点の隣接地(非設定世帯)財物賠償の和解案受諾を求める意見書を提出

 南相馬市特定避難勧奨地点の隣接地(非設定世帯)財物賠償の和解案受諾を求める意見書を提出

 

  1 平成26年12月19日、原子力損害賠償紛争解決センター(ADR)から、特定避難勧奨地点に設定されていない世帯についても、財物賠償を認める旨の和解案が提示されました。

  ところが、東京電力は、平成27年1月30日、特定避難勧奨地点に設定された世帯については和解案を受諾する旨表明する一方、特定避難勧奨地点に設定されていない世帯については、和解案を受諾しないとの方針を明らかにしました。

 

  2 このようなADRによる和解案を受諾しないとする東京電力の対応は、まさしく自らが新・総合特別事業計画において公表した「ADRが提示した和解案を尊重する」旨の誓約を反故にするものに外なりません。

  また、特定避難勧奨地点に設定されていないという事情のみから、財物賠償が認められないとの結論を導くことは、避難指示等対象区域外の財物についても個別具体的な事情に応じて賠償が認められることがあるとする中間指針に反するものです。 さらに、特定避難勧奨地点に設定された世帯と特定避難勧奨地点に設定されていない世帯とにおいて、個別具体的な事情を無視して、不動産や家財といった財物賠償において差異を設けるものであり、ひいては設定世帯と非設定世帯との間での軋轢や地域の分断を招来しかねないのであって、到底許されるものではありません。

 

  3 そこで、当弁護団は、平成27年2月10日、ADRに対し、東京電力が和解案を受諾するべきである旨の意見書を提出しましたので、ご報告いたします。

  意見書の内容を要約すると、以下のとおりです。

  ⑴ 東京電力は、和解案を受諾しない具体的理由として、特定避難勧奨地点に設定されていないことから避難は申立人ら自身の判断によること、放射線量が特定避難勧奨地点の設定基準を下回っていること、申立人らが概ね月1回の一時立入を行っていること、申立人らのうち一部が自宅に滞在していること等からして、申立人らが財物を管理することが不能であったということができない旨主張しています。

  ⑵ しかしながら、 申立人世帯が特定避難勧奨地点に設定されなかった理由は、電気事業連合会による測定方法が形式的・画一的に行われたことによって、その際に正しい空間線量が測定されていなかったことによるのであって、申立人らのその後の測定結果では、設定世帯よりも高い空間線量が測定されており、決して申立人らの自宅の空間線量が特定避難勧奨地点に設定された世帯と比べて低いとはいえません。 また、申立人世帯の一時立入の態様は、自宅から1メートルも離れていない隣地を含む周辺の複数の世帯が特定避難勧奨地点に設定されたことの危機感などから、月に1回、時間も最長で1時間程度にすぎず、自宅の換気を行うことすらできなかったのであって、一時立入によって自宅を管理することができたとはいえません。現に、建物は、地震によって生じた雨漏りを修復できずに痛んでしまい、居住することができない状況になりました。また、家財道具についても、その大半を処分しなければならない状態が生じました。 さらに、申立人世帯には、妊娠中の者や幼児を含む子がおり、まさに放射能に対する具体的かつ現実的な危機感により、避難を余儀なくされたものであります。申立人らの一部の者が平成24年春頃から自宅に滞在しているのは、高齢の申立人が持病のために避難を継続することができなかったことによるものであり、その者も自宅と親族宅を行ったり来たりする生活を送っているのであって、自宅を十分に管理できる状態にはありません。 以上の事実から、上記の東京電力の和解案受諾拒否事由には正当な理由がなく、東京電力の対応は、特定避難勧奨地点として設定されたか否かのみによって和解案の受諾の可否を決したと言わざるを得ないものであります。

  ⑶ 本件において、ADRは、上記⑵をはじめとする申立人の個別具体的事情を考慮して自宅の管理が十分にできなかったと認定し、さらに申立人世帯の放射線量、避難期間、一時立入の態様等に即して、不動産の価値減少率を20%、家財道具については他の世帯の約半額とする旨の和解案を提示したものであり、中間指針の趣旨に適うものであります。 申立人らは、この和解案の内容は、申立人らの被害の賠償として不十分なところはあるものの、中間指針を踏まえて最低限の賠償を認めたものとして、これを受諾したものです。

  ⑷ したがって、申立人は、東京電力に対し、和解案を直ちに受諾するよう強く求める次第です。

 

  4 今後、東京電力側において動きがあり次第、随時、報告申し上げます。

以 上