【報告】福島市大波地区、伊達市雪内・谷津地区集団ADR申立

 

2014年11月18日

 

福島市大波地区、伊達市雪内・谷津地区集団ADR申立

 

   原発被災者弁護団

  平成26年11月18日,福島市大波地区、伊達市雪内・谷津地区の原子力損害賠償紛争解決センターに集団ADRの申立をしました。

 

  <申立人数・世帯>

【大波地区】 ・申立人998人(今後追加予定の方がさらに4人) 333世帯

【谷津】 ・申立人61人 19世帯

【雪内】 ・申立人182人 57世帯

【全体】 ・申立人 1241人(+4人) 409世帯

 (いずれの地区も住民の約85%)

 

  <申立の趣旨>

申立人ひとりあたり平成23年3月11日から和解成立日まで毎月10万円 (申立時である平成26年11月までとした場合、ひとり44ヶ月分440万円、総額54億6040万円)

 

  <申立のポイント>

本件各地区は、福島第一原発事故により放出された放射性物質により高濃度に汚染されました。例えば、文部科学省の第4次(平成23年11月5日)航空機モニタリング調査結果によれば、年間10~20mSv(ミリシーベルト)の地帯を示していました。国が避難を強制した避難指示区域の一部に比べ、遙かに線量が高いことになります。除染を経た今もなお汚染状態は解消していません。 申立人らは、本件事故から現在まで、3年半以上の長きに渡り、日々放射能被ばくに対する不安に苛まれ、日常生活を阻害され続けてきましたが、本件各地区が「避難指示等対象区域」に含まれず、「自主的避難等対象区域」であるがために、申立人らの精神的損害は「事故発生当初の時期」(妊婦子どもは平成23年12月末まで)しか存在しないものとして扱われ、大人1人8万円という極めて不十分な慰謝料しか得られていません。 そこで、本ADR手続において、迅速かつ適正な被害救済が図られることを求めています。

 

  <地区の位置・特色>

本件各地区内に特定避難勧奨地点の指定をされた世帯はありませんが、当該指定を受け、その格差やコミュニティ崩壊が問題になった小国地区(平成25年2月に約1000人が慰謝料を求めて集団ADR申立。平成26年2月にひとりあたり月額7万円×22ヶ月で和解成立)と極めて近い場所に位置しています。

 

    大波地区:昭和30年に合併されるまで隣接する伊達市霊山町下小国及び上小国とともに「旧小国村」の一部であった。現在でも、大波地区の多くの住民は、小国地区に住む親類宅への訪問や通勤、買い物などで日頃から小国地区を訪れている。小国地区はいわば大波地区の住民にとって生活圏の一部となっている。   また、自然豊かな山間地域であり、多くの住民は古くからこの地に住み、近くの山で山菜やキノコ等を採取し、家庭菜園で果物や野菜を育て、井戸水を飲用その他生活用水として使用するなど、長年に渡り、豊かな自然の恵みを享受してきた。農林業に従事する者も多い。   大波地区は平成23年に政府の原子力災害現地対策本部が特定避難勧奨地点指定の検討対象区域として地区内の全戸を対象に放射線量の詳細調査を実施した。その結果、玄関と庭先において、2.9μSv/h(地上1m)、3μSv/h(地上50cm)の地点などがあったものの特定避難勧奨地点の指定はなされなかった。ただ、2μSv/h以上の家屋が多かったことから、福島市独自の面的除染をすることが決定され、福島市の渡利地区同様に除染の「最重点地区」とされ、いちはやく平成23年10月18日から除染が開始された。   また、平成23年11月16日,福島県は,同年秋に福島市大波地区内で収穫された玄米から食品衛生法に定められた米の暫定規制値(1Kg当たり500Bq)を超える,1Kg当たり630Bqの放射性セシウムが検出されたと発表した。これに伴い,国は,「福島県福島市(旧小国村の区域に限る。)において産出された平成23年産の米」について出荷制限を指示することとなった。主食である米の出荷制限はその時点で全国初めてのことであった(特定避難勧奨地点の指定がある隣接の伊達市小国地区〔旧小国村)〕の米の出荷制限の指示は、これより後の同月29日付けである。)。   それに先立つ平成23年10月12日に福島県知事が米の安全宣言を出していたこともあって,平成23年11月16日以降,報道機関により大々的に大波地区の汚染状況が報道された。報道機関は「大波地区」ないし「旧小国村」という単語を記事の見出しに多用したため,大波地区の住民は,他の地区の住民から差別的な目で見られることとなってしまった。現在でも約半分の農家が作付けを再開しておらずその苦しみは続いている。   さらに、大波小学校では福島市内の他の地域の小学校に比べても高い線量が測定されており、平成23年5月に屋外において3.42μSv/hの値が計測され,同年6月上旬まで3μSv/hを超える高い数値が続いていた。除染の実施により,線量は除染前に比べて低い数値で推移するようになったが、一度高い線量が測定された大波小学校に子供を通学させることを保護者らは躊躇した。結果、本件事故のあった平成22年度当初は41人いた児童が、平成23年夏には23人まで減少した。平成25年3月には10人いた児童のうち7人が卒業し、2人が転校したことで児童が1人になり、その児童も平成26年3月に卒業し、かつ入学予定者だった2人の児童の保護者が学区外の小学校への入学を希望したため、児童がゼロになり休校となった。今なお大波小学校に生徒はいない。   かつて住民らがスポーツを楽しんでいた大波農村広場(野球場2面、他スポーツ施設があった)は今、広大な除染廃棄物の仮置場となっている。

 

  雪内・谷津地区:福島県北東部に位置する伊達市霊山町掛田にある集落であり、約280人(92世帯)が居住している。霊山町は、阿武隈山系の最北端にあり、四方を300~500mの山に囲まれた丘陵地から形成されている。この地区には、霊山町が平成4年に福島地方土地開発公社に委託し、山を切り崩して開発、造成してできた「谷津団地」がある。谷津団地には、25戸の戸建住宅に加えて、A棟からM棟まで13棟の市営住宅が存在する。   谷津団地は、販売当時、「家庭菜園も楽しめるひろびろ空間」、「恵まれた自然環境を活かした魅力ある住環境整備に力を入れています」、「緑豊かな環境の中にあります」等、良好な自然環境を謳い文句としており、「緑さわやかなまちづくり協定」に協力できることを購入申込の条件にしていた。実際、同地には、このような謳い文句に違わぬ良好な環境があり、本件事故前までは、住民は、野菜や果物を育てたり、近くの山で山菜を採ったり、池で釣りをするなど、恵まれた自然環境ならではの暮らしを楽しんでいた。   また、雪内・谷津地区は、地区内に掛田幼稚園、霊山三育保育園、伊達市立掛田小学校、霊山中学校があるほか、小学校に隣接して児童館があるなど、子育てに適した地域であった。そのため、この地域で子育てをするために居を構えた申立人も少なくない。谷津団地から三育保育園まで500m、掛田小学校まで200m、霊山中学校まで600mといずれも徒歩圏内であるため、谷津団地の販売時には「各公共施設とも指呼の間にあり保原、福島への通勤、通学にも最適の地です」等の謳い文句も用いられていた。   市営住宅があるため、幼い子どもがいる世帯、若い世帯、母子家庭などが他の周辺地区に比べて多いのが特徴である。   雪内・谷津地区は、特定避難勧奨地点の検討対象とならなかったため、行政による戸別の環境放射線モニタリング詳細調査は実施されていないが、伊達市が住民に対し線量計を貸し出して地区の線量を測定し、その結果を市に報告することとなった。それによれば、平成23年6月16日及び平成23年11月20日の測定では大半が1μSv/hを越えているほか、2.235μSv/hや1.809μSv/hという非常に高い数値も計測されている。また、平成24年10月から12月頃にかけて、ようやく伊達市から委託された除染業者により各戸の除染が行われたが、本件事故後1年以上経過した平成24年8月時点においても、地上1㎝で、29.3μSv/h、100㎝でも2.89μSv/hという高い値を示している箇所があった。ほぼ全ての地点で、年間の積算被ばく量が5mSv以上であったことになる。今でも、2μSv/hを優に超える放射線量が検出される地点は珍しくない。   雪内・谷津地区の申立人243人中、未成年者は58名(23.86%)である。この中には福島市が行う甲状腺検査で「A2」(5.0㎜以下の結節や20.0㎜以下ののう胞が認められる)判定を受けた子どもが数名いる。この結果につき、「原発事故によるものとは考えにくい」と説明する専門家も存在するが、事故の影響がないとの科学的な根拠が示されているわけではない。いずれにしても、このような甲状腺検査を定期的に受けなければならないこと、経過観察を求められていることは紛れもない事実であり、子どもの母親達が不安に感じるのは当然である。   かつて子ども達のよい遊び場であった児童公園(谷津団地すぐそば)と西側畑と調整池の地中には大量の除染土が埋まっている。

 

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