【報告】飯舘村蕨平集団申立てで東京電力が和解案を一部受諾,重要部分を拒否

【報告】飯舘村蕨平集団申立てで東京電力が和解案を一部受諾,重要部分を拒否

 

2014.5.28

 

 飯舘村蕨平地区の集団申立て(33世帯,111名)で,東京電力は,原子力損害賠償紛争解決センターから提示されている先行2世帯の和解案について,センターから設定された4度目の回答期限の5月27日の午後10時28分,和解案の一部を受諾し,重要部分を拒否するとの回答書を提出しました。

 

 東京電力が拒否したのは,和解案のうち,

① 避難に係る精神的損害に対する慰謝料の一括払いを,帰還困難区域と同様,平成28年4月~平成29年3月の1年間についても認めた点(1人月10万円×12か月=120万円)

② 本件原発事故発生後,蕨平に留まった申立人の被ばく不安に対する慰謝料の増額として,妊婦・子どもは1人100万円,それ以外の者は50万円を認めた点

③ 3度目の回答期限の翌日である5月3日から受諾までの間について,未払い額に対し年5%の遅延損害金を認めた点

です。

 

東京電力が受諾したのは,和解案のうち,不動産の全損賠償(移住を選択している申立人については,移住先での住居の取得が必要であることを考慮した内容)や,その他の部分です。

東京電力は,受諾した部分についても,帰還困難区域と同等の賠償については受け入れられないとしつつ,《本件限りの解決方法として,提示された金額を受諾する》などと述べています。

 

上記①について,東京電力は,《現時点の状況を踏まえても,蕨平地区において,本件事故後6年間が経過する平成29年3月まで住民の帰還が困難であるとは断定できない》《(居住制限区域である蕨平地区において)一律に帰還困難区域と同等の精神的損害の賠償を実施することは,現行の賠償実務に混乱を生じさせる》などと述べています。

しかし,センターは和解案提示理由書において,蕨平地区についての具体的事情,すなわち,①帰還困難区域の長泥地区よりも高い放射線量が村の放射線量測定で検出されていること,②除染は着手すらされておらず,地区の総面積の9割以上を占める山林も含めた蕨平全域について除染終了の見通しは全く立っていないこと,③田畑は荒廃し,飼育していた牛は全て手放されており,飲料用及び農業用の水源の沼からも放射性セシウムが検出されていること,④村内の医療機関,各商店,小中学校も再開の見通しが立っていないこと,⑤風評被害が相当長期間続くことが容易に想像でき,農業等の第一次産業の再開・継続は困難であること,⑥第一次産業に従事する住民が戻らなければ,商業等も成り立たないこと,を指摘した上で,仮に現在の想定どおり,平成28年3月に蕨平地区の避難指示が解除されたとしても,そこから1年以上,申立人らの社会生活や生計が成り立つ見込みはなく,結局,本件原発事故から6年間は帰還が困難である,との判断を示しているものです。

東京電力は,センターが審理に1年以上をかけ,申立人らからも直接話を聞いた上で示した判断に対し,単に《行政が居住制限区域と決めたのに,帰還困難区域と同等の賠償を求められては現行の賠償実務に支障を生じる》という形式的な理由から拒否しているもので,到底,センターの和解案を尊重しているとはいえません。

 

 また,上記②について,東京電力は,《低線量被ばくに関する科学的知見やデータに照らせば,申立人らに損害賠償を基礎付けるだけの具体的な権利侵害があったということはできない》などと述べています。

 しかし,帰還困難区域の長泥地区同様,蕨平地区の住民も,本件原発事故直後から,旧警戒区域と同程度の高線量の状態だったにもかかわらず,そのことを適切に知らされることもなく,避難指示もないまま,相当期間,従前とほぼ同様の生活を続け,相当程度の放射線に被ばくする危険にさらされたものです。このような状態に置かれた蕨平地区の住民が,放射線被ばくへの恐怖や不安を感じるのは当然であり,センターは,そのような恐怖や不安に対し,慰謝料の増額を認めたものです。

 長泥地区の集団申立てでは同様の被ばく不安慰謝料に対する慰謝料の増額を既に認めていながら,蕨平地区について居住制限区域であることを理由に拒否する東京電力の主張は全く不合理なものであり,到底,センターの和解案を尊重しているとはいえません。

 

 さらに,上記③について,東京電力は,《審理を不当に遅延させたものとは考えていない》などと述べています。

 しかし,3月20日に和解案提示理由書が示され,同日及び3月24日に先行2世帯の和解案が示された後,東京電力は,3度にわたって,センターが指定した回答期限に和解案に対する諾否を回答せず,2か月以上にわたって回答を留保し続けたものです。センターは,このような東京電力の対応について,「審理を不当に遅延させる行為」と判断し,遅延損害金を付加したもので,かかるセンターの判断は当然のものです。

 

 以上のとおり,東京電力は,新・総合特別事業計画で表明している,《センターから提示された和解案の尊重》《手続の迅速化に取り組む》との誓約に反した対応をしていると言わざるを得ません。

 

 当弁護団は,東京電力に対し,センターの和解案の重要部分を拒否したことに強く抗議するとともに,拒否部分について受諾するよう,再度要求します。

 

 また,このような東京電力の対応を許すようでは,東京電力が和解案のうち自社に都合の悪い部分は拒否し,一部のみを受諾するという前例を作ってしまうこととなり,センターの紛争解決機能は著しく失われ,被害者がセンターに対する申立てを躊躇することになります。

センターに対しては,和解案のうち東京電力が拒否した部分について,受諾するよう強く東京電力を説得することを求めます。

 

 本件についての問い合わせ先:

弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

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