【報告】飯舘村蕨平集団申立てで東京電力が帰還困難区域と同等の賠償に強く抵抗

【報告】飯舘村蕨平集団申立てで東京電力が帰還困難区域と同等の賠償に強く抵抗

 

2014.5.22

 

 飯舘村蕨平地区の集団申立て(33世帯,111名)で,東京電力は,原子力損害賠償紛争解決センターから提示されている2世帯の和解案について,帰還困難区域と同等の賠償を認めた部分の回答を全て留保し,強く抵抗しつつ,その他の部分のみ一部受諾するとの5月16日付け回答書を提出しました。

 

 蕨平集団申立ての和解案提示理由書で,センターは,

① 日常生活阻害慰謝料の一括賠償を帰還困難区域と同様,平成28年4月から平成29年3月までの1年間についても認める。

② 土地・建物・家財等の財物損害について,全損と評価する。

③ 移住を選択している申立人については,土地・建物の財物損害について,移住先での住居の取得が必要であることを考慮して賠償額を提示する。

④ 被ばく不安慰謝料として,1人50万円,妊婦又は子どもは1人100万円を認める。

という和解方針を示していました。

 その理由として,センターは,蕨平行政区の避難指示解除見込み時期は,居住制限区域として最長の平成28年3月とされているが,

① 飯舘村による放射線量測定結果によれば,蕨平行政区内の宅地からは,帰還困難区域に指定された長泥行政区の宅地よりも高い放射線量が検出されていること

② 現時点で除染は着手すらされておらず,地区の総面積の9割以上を占める山林も含めた蕨平全域について除染が完了する見通しは全く立っていないこと

③ 田畑は荒廃しており,当面作付けもできず,飼育していた牛は全て手放されており,飲料用・農業用の水源の沼からも放射性セシウムが検出されていること

④ 村内の医療機関,商店,小中学校も再開の見通しが経っていないこと

⑤ 蕨平地区について風評被害が相当長期間続くことが容易に想像でき,農業等の再開・継続は困難であり,農業等に従事する住民が戻らなければ,商業等も成り立たないこと

を指摘し,結論として,仮に平成28年3月に避難指示が解除されたとしても,少なくとも,そこから1年後(事故から6年後)の平成29年3月までに申立人らが蕨平に帰還することは困難である,と判断しています。

 

 かかるセンターの判断に対し,東京電力は,「蕨平地区において,本件事故後6年が経過する平成29年3月まで住民の帰還が困難である,などとは断定することができない」と述べていますが,いったいどのような根拠で,1年以上の審理の上示されたセンターの上記判断を批判するのか,全く不明です。

 

 

 東京電力は,ごく一部のみ和解案を受諾するとしていますが,和解案の一番重要な部分である,帰還困難区域と同等の賠償を認める部分を受諾しておらず,いつ諾否の回答をするかも全く明らかにしていません。

 既に33世帯中24世帯について,センターから正式な和解案が提示されていますが,東京電力はその全てについて諾否の回答を保留にしたままです。

 

 このような東京電力の対応は,一部については受諾しているというポーズを示して世間の批判をかわそうとするものというべきであり,同社が2013年12月27日付け「新・総合特別事業計画」で「3つの誓い」として誓約している内容,特に「センターから提示された和解仲介案を尊重するとともに,手続の迅速化に取り組む」との誓約に真っ向から反するものです。

 被害者は,東京電力が《和解案の尊重》を誓約しているからこそ,センターに申立てをしているのであって,かかる誓約を反故にするのは被害者に対する背信的行為です。

 

 東京電力は,帰還困難区域と同等の賠償について抵抗する理由として,区域再編の結果に応じて賠償金の算定方法に差異を設ける現行の賠償実務に混乱を生じさせるとしていますが,そもそも,「避難指示期間割合」なるものを設け,財物賠償を小出しにする「現行の賠償実務」では,被害者はいつまで経っても帰還や移住という選択ができず,将来設計が立てられずに不安な状態のままに置かれることになります。

 

 また,既に川俣町山木屋地区の集団申立てでも,居住制限区域や避難指示解除準備区域について不動産の全損賠償等は認められており,個別申立案件ではさらに多くの自治体で,不動産の全損賠償等が認められています。

東京電力が,直接請求でも財物損害について「60/72」の賠償を認めており,帰還困難区域に近い状況であることを自ら認めている飯舘村蕨平地区で,このように和解案に強く抵抗するのは不可解です。和解案そのものの正当性を争っているというよりも,他地区への波及効果を恐れての抵抗と見ざるを得ません。

 

このような東京電力の対応(センターの和解案の一部のみ受諾し,重要な部分については長期間保留にする)を許したのでは,センターの紛争解決機能は失われ,被害者が申立てを躊躇し,その存在意義が根本から問われるというべきです。センターには,東京電力に対して和解案受諾を強く説得するように求めます。

 

 東京電力に対しては,《和解案の尊重》《手続の迅速化に取り組む》との誓約を遵守し,これ以上の引き延ばしを図ることなく,センターの和解方針及び和解案を全面的に受け入れるように求めます。

 

 本件についての問い合わせ先:

弁護士 秋山直人(03-3580-3269)

 

 本ニュースのPDFファイルはこちら(108KB)