【報告】飯舘村蕨平集団申立てで,帰還困難区域と同等の賠償認められる

飯舘村蕨平集団申立てで,帰還困難区域と同等の賠償認められる

 

2014年3月20日,原子力損害賠償紛争解決センターより,飯舘村蕨平行政区の集団申立て(33世帯,111名)について,「和解案提示理由書」が出されました。あわせて,先行して1世帯について,具体的な全部和解案が提示されました。その内容についてご報告致します。

 

● 帰還困難区域の長泥と同等の賠償を認める

  和解案提示理由書では,蕨平地区の住民も,隣接する長泥地区の住民と同様,少なくとも平成29年3月までに帰還することは困難だとして,《帰還困難区域の長泥と同等の賠償》を認めています。

  その理由としては, 放射線量が長泥と同等以上に高線量だったこと,除染の遅れ,インフラの復旧の遅れ等から,仮に,現時点での避難指示解除見込み時期とされる平成28年3月に避難指示が解除されたとしても,そこから1年以上は,住民が蕨平に帰還して,従前同様の社会生活を営んだり,農業等で生計を立てたりすることは困難であること等が指摘されています。

  具体的には,次の方針が示されています。

  ① 蕨平では,包括請求は平成28年3月まででしたが,平成28年4月~平成29年3月の1年間について,一人月額10万円×12か月=120万円の慰謝料を認めるとしています。

  ② 土地・建物等の財物損害に関する価値減少率は,全損と認めています(東電の主張は,60/72)。

  ③ 土地の財物損害について,移住を選択している者については,前記の理由で移住の選択が合理的であるとの判断を踏まえ,移住先での住居の取得が必要であることを考慮して賠償額を提示する,としています。

 

  また,長泥集団申立てにおける和解案と同様,被ばくに対する不安の慰謝料として,大人1人50万円,妊婦・子供(本件原発事故当時18歳以下)1人100万円の慰謝料増額を認めています。

 

  このように,《帰還困難区域と同等の賠償》が認められたことは,申立人らが当初から求めていた内容で,大きな成果です。

  なお,蕨平の集団申立てを担当されている仲介委員3名のうち2名は長泥の集団申立ても担当されております。担当の仲介委員及び調査官は,昨年11月に福島市で現地口頭審理期日を開催し,住民から被害の実情を直接聞いた上で,かかる判断を示したものです。

 

● 先行して提示された和解案から分かること

  さらに,同時に出された1世帯の和解案から,次のことが分かります。

 ① 家財道具等購入費用,衣類日用品購入費用,食費増加分(自家消費米・野菜),水道料金増加分,交通費増加分,一時立入交通費等の損害項目についても,長泥集団申立てでの基準(平成25年5月24日付け「和解方針に関する連絡書」記載)と同じ水準での賠償が認められています。

 ② 慰謝料について

   前記のとおり,1年分の慰謝料120万円が追加され,被ばく不安慰謝料(慰謝料の増額)が認められました。また,個別の事情を踏まえ,慰謝料を一定の期間,月3割(3万円)増額しています。

③ 土地について

  長泥集団申立てと同様,移住先が決まっている(このケースでは福島市)ことを前提に,福島市の平均的な宅地を購入するのに必要な費用として,平均宅地面積(241.35㎡)×平均宅地価格(47,159円)=約1138万円の賠償が認められ,これに加えて,蕨平で所有していた宅地面積から前記241.35㎡を控除した面積については,東京電力基準による賠償額(固定資産税評価額×1.43)が加算されています。

  かかる算定方法は,中間指針第四次追補と比べても有利なものです。

④ 建物について

  東京電力基準では48年の耐用年数経過後の残存価値を2割として減価償却計算をしていますが,和解案では,主たる居住用建物について,「平成23年平均新築単価158,800円×床面積」を想定新築価格とした上で,この想定新築価格について,48年の耐用年数経過後の残存価値を8割として減価償却計算をしています。

  つまり,建物の固定資産税評価額をベースにするのではなく,平成23年平均新築単価をベースにして想定新築価格を計算した上,48年以上経った古い建物でも,想定新築価格の8割以上の賠償を認めるものです。

  こうした和解案は,蕨平が形式上は居住制限区域であることも踏まえると,中間指針第四次追補の内容に比してもより柔軟で,被害回復に資するものと評価できます。

⑤ 農機具について

  通常の農機具:耐用年数30年・最終残価率27.65%(この最終残価率は東電基準と同じ)

  トラクター:耐用年数40年・最終残価率27.65%

  10万円未満の農機具:耐用年数30年,最終残価率70%

   として購入金額から減価償却計算しています。購入金額は,販売証明書等から認定しています。

    また,

  3年以内に購入した農機具:購入価格の100%を賠償

   としています。

  ⑥ 自宅に残してきた家財道具について

  居住制限区域の東電基準ではなく,帰還困難区域の東電基準をベースにし,さらに,高額家財の存在が認められる場合には一定の増額を認めています。

 

● 東京電力に対し受諾を求めること

  このように,原子力損害賠償紛争解決センターからは,飯舘村蕨平住民の皆さんの被害の実情を踏まえ,不法行為法の基本理念である原状回復の理念に基づき,生活再建に資する内容の和解案が提示されています。今後,残りの世帯についても,順次,同様の方針に従って和解案が提示されるものと見込まれます。

  当弁護団は,東京電力に対し,新・総合特別事業計画で掲げている「3つの誓い」,特にその中の《原子力損害賠償紛争解決センターから提示された和解仲介案を尊重する》との被害者に対する誓約を遵守し,いたずらに抵抗することなく,和解案を受諾することを強く求めます。

  また,原子力損害賠償紛争解決センターに対しては,仮に東京電力が和解案に対し,反論書面を出すなどして抵抗したとしても,毅然と対応し,和解案の受諾を説得いただくように求めます。

 

 本件についての問い合わせ先:

  弁護士 秋山直人(H26.3.31まで:03-3230-1056,H26.4.1以降:03-3580-3269)

 

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和解案提示理由書のPDFファイルはこちら(208KB)

平成25年5月24日付け和解方針に関する連絡所のPDFファイルは,こちら(308KB)