和解事例集 II

原発被災者弁護団・和解事例集II

(平成25年1月〜平成25年6月30日)

平成25年10月1日 東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団

  • ※原発被災者弁護団では,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」)への申立てをこれまで数多く行ってきました。この和解事例集は,その中の一部を成果としてまとめたものです。いずれも,原紛センターが和解案の提示を行い,和解が成立した案件です。
  • ※ 内容に誤解を与えるおそれのある点が存在するなど,後日訂正の必要が生じた場合には,適宜更新を行いますので,よろしくご了承ください。
  • ※ 依頼者の個人情報に触れる場合など,事案の詳細についてご質問いただいてもお答えできない場合があります。ご理解下さい。
  • ※ 皆さま方の損害賠償請求の参考にしていただけたら幸いです。原発被災者弁護団ではこれからも情報発信を行っていきたいと存じますので,皆さま方の有益な情報もお寄せいただければ幸いです。

各論点における到達点

避難費用

  • ( 1)避難先から平成24年末より民間賃貸マンションに移転する際の転居費用名目で,敷金・保証金全額,仲介手数料,保険料,賃貸保証料が認められた。
  • ( 2)避難後購入した衣服について,いつどこで何をいくら購入したかの主張が困難であり,数枚の衣類を写真で撮影し提出した事例につき,請求額の66%である25万円が認められた。
  • ( 3)風呂用の薪から高濃度のセシウムが検出されたため,薪風呂からエコキュート風呂に変更した工事費用170万円余りを請求したところ,和解案では給湯器取付費用の平均額として20万円が認められた。

知人・親戚宅宿泊等の謝礼等

  • ( 1)39日分の宿泊費を1日5000円として支払い,領収書を提出したところ19万5000円全額が認められた。
  • ( 2)ペットの世話を親族にみてもらっていることに対する謝礼金11万円のうち,5万円が認められた。
  • ( 3) 平成23年12月〜平成24年8月までの期間の親族宅宿泊の謝礼金として実際に拠出した96万円が損害として認められた。
  • ( 4)双葉町から東京の親族宅に避難した事例で,夫婦2名2か月分の費用として親族に対し支払った謝礼金30万円余りが損害として認められた。

生活費増加分(食費以外)

  • ( 1)太陽光発電での売電予定額約23万円が請求通り認められた。
  • ( 2)楢葉町におけるソーラーシステムによる売電損害について2年分の賠償が認められた。
  • ( 3)富岡町からの避難者の案件で,物品購入につき合計350万円余りが認められた(全て領収書提出)。避難当初(避難後4か月まで)の化粧品,文具,消耗品も認められたが,全ての消耗品等が認められたわけではなく,判断基準は不明。ウイッグ,腕時計(もともと持っていた物と同機種の中古),書籍(放射線・原発関係の書籍)も認められた。

生活費増加分(食費)

  • ( 1) 3人家族で南相馬から東京に避難したケースで,月1万円の野菜購入費用が認められた。
  • ( 2)富岡町からの避難世帯。富岡では自家消費分のみ野菜を栽培していた案件につき,4名で月額3333円が認められた。

精神的損害(避難に伴う慰謝料)

  • ( 1)避難先病院にて,がんの治療方針が大きく変更となり,変更後の治療に伴う副作用等で苦しんだ事例につき,通院慰謝料は認められなかったが,がんの治療方針変更,その他「避難生活により悪化」と診断書に記載されていた 腰椎ヘルニア等への配慮も含めて,70万円程の一時金が認められた。
  • ( 2)既に平成23年分につき和解が成立済みの事例の第2次申立て(平成24年分)につき,第1次申立時には認められなかった,世帯の分離に伴う慰謝料の増加(親世帯につき月額3万円,子世帯につき月額5万円)が認められた上,平成23年分についてもさかのぼって慰謝料の増加が認められた。
  • ( 3)南相馬市小高区でひとり暮らしをしていた女性が,東京の娘夫妻の家に避難をしたところ,腰痛による歩行困難等が生じたため小高への帰還はおろか,一人暮らしの継続もできなくなった事例につき,月額20万円(6カ月間)の慰謝料が認められた。
  • ( 4)双葉町からの避難者の事案。持病(ガン)を抱えての避難生活であることについて,月3万円×15か月の増額が認められた。
  • ( 5)事故前より腰部に持病があり,歩行困難のため障害等級3級の認定を受けていたところ,避難生活中に病状が悪化した事例につき,避難慰謝料の増額として本人につき10割超の慰謝料増額が認められた。また,本人の妻についても6割程度の増額が認められた。なお,生命身体損害としても,入通院慰謝料160万円が認められた。
  • ( 6)幼児とともに避難したことを理由に,避難当初の半年間について両親に月額3万円の増額が認められた。また,原発事故の影響で勤務先が閉鎖され,転勤することとなったことにより,家族分離が生じたことから,避難後半年〜10か月まで家族各自につき月額5万円の増額が認められた。
  • ( 7)配偶者が避難中に亡くなったことに関する慰謝料の増額として,本人に一時金70万円,配偶者に5万円×8か月の増額が認められた。
  • ( 8)移動回数多数,家族の離別,ペットとの離別という事情のある避難者について,月5万円の慰謝料増額が認められた。
  • ( 9)平日は東京に単身赴任しており,休日のみ大熊町に在住していた方について月額10万円の慰謝料が認められた。
  • (10)高齢の夫婦の事案。夫については,要介護3・脳梗塞に起因する持病,自律神経障害及び発汗異常を理由に月6万円増額×14か月,妻については,要支援2・歩行障害が生じるほどの重度の膝関節痛・腰痛,高血圧による上肢痺れ・不眠症・夫の介護を理由に月6万円増額×14か月が認められた。
  • (11)双葉町から東京への避難者で高齢の女性の事案。避難生活への不適合・従前同居していた息子一家との別離を理由に,月5万円の増額が25か月分認められた。
  • (12)避難当時妊婦であった申立人について,月3万円×18か月(H23.3〜H24.8)の慰謝料増額が認められた。
  • (13)ペット死亡の慰謝料として,世帯に対し一時金10万円が認められた。
  • (14)福島第一原発で,メンテナンス業者の従業員として働いていた単身者が,勤務先の会社の東京営業所に配属がえとなり,東京近郊の実家から通勤するようになった事例について,東電は実家に住んでいるので避難が終了したとして賠償を拒否。和解案は,月10万円の慰謝料×14か月分(H23.12〜H25.1)を認めた。
  • (15)双葉郡内に住民票があり,原発事故当時東京の大学に通っていた方の事案。東京での就職を断念し,大学卒業後に実家に戻り,福島県内で就職活動を行う予定であった者について,避難者と認定され,月10万円×22か月の慰謝料が認められた。
  • (16)大切に育てていた鶏の死亡につき6万円の慰謝料が認められた。
  • (17)第1回和解時には認められなかった精神的損害の増額につき,第2回の和解時に期間をさかのぼって家族間別離による慰謝料増額(月額3万円)が認められた。

精神的損害(入通院慰謝料)

  • ( 1)事故後週1回の歯科通院が1年以上続き,診断書には「環境変化などのストレスが原因と思われる咬合性外傷,歯ぎしり,歯周組織炎」と記載された事例につき,通院慰謝料158万円を請求したところ,130万円が認められた。
  • ( 2)楢葉町から避難した高齢の女性が避難生活により変形性膝関節痛が悪化し,月2回程度,14か月間通院した事例につき,通院慰謝料80万円が認められた。
  • ( 3)原発事故後,うつ病になり退職した事例につき79万円の慰謝料+診断書作成費用が認められた(実通院日数30日弱)。
  • ( 4)双葉町から避難した高齢の女性が,避難中に不安神経症を罹患。避難生活により発症ないし悪化と記載された診断書を提出したところ,入通院慰謝料50万円が認められた(2週に1度程度の通院を1年以上継続した事例)。
  • ( 5)突発性難聴等を発症した事例につき,入通院慰謝料が申立人請求額全額の154万円認められた。突発性難聴に関する後遺症慰謝料は,赤本基準で9級・690万円となるが,原発事故の寄与度は5割であるとして345万円が認められた。
  • ( 6) 腰部脊椎管狭窄症にて4か月通院した申立人について,相当因果関係を認めつつ,寄与度を5割として45万円の慰謝料が認められた。

営業損害

  • ( 1)海外に健康食品を輸出していた企業が,原発事故に基づく外国政府の輸出停止措置によって損害を被ったとして賠償請求をしたケースにつき,平成23年3月から平成24年3月の13か月分について,9000万円程度の逸失利益の賠償が認められた。
  • ( 2)原発事故による放射線規制に伴い発生した増加費用等を請求した事例につき,増加運搬費用や検査費用,事故によって利用できなくなった工場の売却費用について申立人の請求どおり認められた。
  • ( 3)事故により委託先の工場が閉鎖され,取引先への納品が間に合わなくなるなどの被害を受けた事例につき,申立人が取引先への納期を守るために利用した臨時運送費,納期に間に合わなくなったために代替品を納品することになったことによる差額分,取引先との納期に関する打合せのための出張交通費等が認められた。
    また,委託先工場内に放置された製品が錆び付くなどして無価値となったことの損害につき,「他に転売しないこと」を条件に請求金額通りの賠償が認められた。

  • ( 4)全国に拠点のある製造販売業者の間接被害の事案。
    東電側は,申立人が全国的な企業であったことから,取引に代替性があり,東北地方で売上が減少したとしても他の地方でカバーできること,全社的には売上は本件原発事故後にむしろ増えていることなどを主張し,請求には一切応じられないとしたところ,センターは請求額の2割を本件事故に基づく損害として認めた。
  • ( 5)個人事業主の営業損害について,確定申告書上は売上が年500万円程で経費率も高いが,売上見込みの増加及び経費は実際にはそれほどかかっていないことを主張した事例につき,和解案では,経費率は30%,売上について170万円の増加見込みを認め,年約700万円として計算し,1年間の営業損害として約500万円が認められた。
  • ( 6)茨城県ひたちなか市で事業を営んでいた方の風評被害につき,850万円の賠償が認められた。
  • ( 7)食品を輸出しようと計画していた事業者の事例につき,輸出実績がないとして,直接請求ではゼロ回答であったが,約300万円の賠償が認められた。
  • ( 8)在庫商品の損害額につき,直近の棚卸時の在庫額ではなく,過去3年分の平均価格を基準とすることが認められた。

就労不能損害

  • ( 1)本件原発事故当時就労していなかったが,H23.5から福島の実家の電気工事店でアルバイトをする予定だった事例につき,就労不能損害として5か月分約60万円が認められた。
  • ( 2)原発事故の影響で勤務先が工場を閉鎖し,他県の工場へ転勤することとなった事案につき,単身赴任していた5か月間については「特別な努力」に該当するとして,平成22年分の平均収入月額の5か月分が認められた。
  • ( 3)原発事故後の経営悪化を理由にH23.11に解雇された者につき,事故前は「65歳まで勤務する」との口頭の合意があったことを主張したところ,申立時までの給与減収分と,退職金の減収分合計約1400万円が認められた。

財物損害(不動産)

  • ( 1)庭師を入れて手入れしていた庭木(7メートルを超える松を含む計50本ほど)につき,庭師に作成してもらった見積もりを基に請求したところ,請求金額を若干丸めた金額である100万円程が認められた。南相馬小高区の事例。
  • ( 2)避難中何者かに富岡町の自宅2階の窓が壊されたところ,修復費用の3割が認められた。
  • ( 3) 登記簿上は山林,固定資産評価上は宅地・雑種地混在の土地(楢葉町・避難指示解除準備区域)につき,全体が一体として宅地であるとの認定を受け,宅地として賠償が認められた。本事例では少なくとも3年間は避難が続くとして3年分の賠償が認められた。

財物損害(家財)

  • ( 1)4人(申立人,妻,妻の母,幼児)世帯・冨岡の居住制限区域予定地。1500万円の火災保険に加入していた事例について1250万円の賠償が認められた(個別的な立証は火災保険の保険証券を出したこと,家財が一部入っていたという倉庫の写真を提出したことのみ。家財の個別内容について写真等は提出していない)
  • ( 2)東京にいる家族1名を含めて6人分750万円が認められた事例。避難指示解除準備区域における625万円の2割増し。建物面積,倉庫の存在,複数世帯住居であることを考慮した旨の和解案計算書あり。
  • ( 3)大熊町からの避難者の事案。単身世帯ではあるが,H22年に夫を亡くしている。亡夫の家財もあることを考慮し,東電基準の「2人以上の場合」の「世帯基礎額」475万円をベースに,480万円の和解案提示。
  • (5)1500万円の火災保険に入っていた世帯につき,東電提示額より100万円増額され545万円が認められた。建物,室内の写真及び家財リスト,一部領収書を提出。

財物損害(農機具)

  • ( 1)10万円未満の物についても「帳簿に記載のない資産」に対する東電の計算基準で賠償が認められた。また販売証明書に記載のない資産についてはまとめて20万円の賠償が認められた。

財物損害(その他)

  • ( 1)南相馬市小高区に一人暮らしをしていた方が,避難に伴う持病の悪化により,小高区に戻ることはできなくなったとして,避難先に約250万円でお墓を購入した事例につき, 小高区に所有していたお墓の価値等を考慮して150万円の賠償が認められた。

除染費用

  • ( 1)南相馬の事案。自宅周辺の庭木を伐採,除草した費用として(自宅修繕費用30万円とは別に)101万円が認められた。
  • ( 2)南相馬市原町区の事案。除染費用として屋根の葺替費用約190万円を請求した事例につき,交換前の屋根瓦に比べグレードの高い屋根瓦に交換したことなどを考慮し,請求額の75%である142万5000円が認められた。その他雨樋交換費用20万円,畑の土嚢入替費用約2万円については,全額認められた。定額の自宅補修・清掃費用30万円は上記の除染費用とは別に満額認められている。
  • ( 3)南相馬市原町区。除染のために支払った,屋根の葺き替え費用(約200万円),庭木伐採費用(約30万円)②発注はしたが,まだ着手していない除染費用(壁紙張替えなど)約300万円の請求に対し,①屋根の葺き替え費用は75%の約170万円,庭木伐採費用は全額が認められたものの,②未着手分については,判断が留保された。75%の賠償に止まった理由は,屋根の葺き替えによる資産価値の増加が考慮されたため。

自主的避難者案件

  • ( 1)福島市からの避難者。家財の新規購入費用については全額認められた一方,福島出身とのことで受けた差別や,マイホームの売却,子供の健康に対する不安等に対して求めた慰謝料の増額については認められなかった。
  • ( 2)生後半年の娘と両親の3人の家族が福島市から避難した事例。妻が事故当時育児休業中で,平成23年冬ころから復職予定だったが,避難したことにより復職が平成25年春となってしまったことなどを理由に就労不能損害等の賠償を求めたところ,半年分の就労不能損害,二重生活による生活費増加分(月額3万円),避難雑費(月額2万円)等約450万円の賠償が認められた。