原発被災者弁護団・和解事例集Ⅳ

原発被災者弁護団・和解事例集Ⅳ

(平成26年1月〜平成26年6月)

平成26年8月12日 東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団

  • ※ 原発被災者弁護団では,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛センター」)への申立てをこれまで数多く行ってきました。この和解事例集は,その成果の一部をまとめたものです。いずれも,原紛センターが正式な和解案の提示を行った事件です。
  • ※ 内容に誤解を与えるおそれのある点が存在するなど,後日訂正の必要が生じた場合には,適宜更新を行いますので,よろしくご了承ください。
  • ※ 依頼者の個人情報に触れる場合など,事案の詳細についてご質問いただいてもお答えできない場合があります。ご理解下さい。

避難生活で支出した賃料

  • ( 1)富岡町から東京への避難者の事案。賃料月額15万円の賃貸住宅で避難生活。直接請求では賃料の一部しか認められなかったため,ADR申立て。H27.3.31まで,将来分を含め,賃料・礼金全額,敷金の2割,駐車場の賃料が認められた。

生活費増加分(食費以外)

  • ( 1)警戒区域からの避難者の事案。家財・被服代・日用品購入費用について,領収証に基づき約25万円の和解案が提示されたが,小高基準を適用すべきことを申し入れたところ,小高基準が適用され,60万円(小高基準での一人世帯の標準額)が認められた。
  • ( 2)旧緊急時避難準備区域からの避難者。子どもが幼く,自宅を売却して県外に新居を購入。購入時期はH24.8を過ぎていたが,新居の家財道具調達費用の半額(約50万円)が認められた。

精神的損害(避難に伴う慰謝料)

  • ( 1)帰還困難区域からの避難者の第二次申立ての事案。車椅子で生活をしており,H24.8〜H29.5までの58か月×月20万円=1160万円の日常生活阻害慰謝料が認められた。
  • ( 2)浪江町から避難した夫婦の間に本件原発事故後のH24.7に出生した子どもについて,出生時から月10万円の日常生活阻害慰謝料を認めた。
  • ( 3)旧緊急時避難準備区域からの避難者に対し,H24.9以降和解案提案時のH26.3末までの賠償が認められた。申立人は,事故前からいわき市へ電車通勤していたところ,原発事故により常磐線が不通となったために,いわき市への避難を継続していた。賠償期間の伸長に加え,世帯分離を理由にH23.3月からH26.3月まで3割の慰謝料増額も認められた。
  • ( 4)旧緊急時避難準備区域からの避難者の事案。乳幼児がいたことを増額事由とし,月3万円の増額×18か月を父母双方に認めた。
  • ( 5)避難指示解除準備区域からの避難者夫婦の事案。亡夫の慰謝料増額分について,H23.3〜H23.5とH23.7は,基本部分が月12万円,増額部分が月24万円,合計月36万円とした。増額理由は,要介護状態(身体障害1級),発語障害,避難所でトイレに行けなかった,家族別離,避難回数多数等。その後もH23.8〜H25.6について月8万円の増額。

精神的損害(死亡慰謝料)

  • ( 1) 避難関連死(死亡時62歳)の案件で,死亡慰謝料として,2000万円×寄与度0.5=1000万円が認められた。また,逸失利益として,基礎年金・退職共済年金について,生活費控除率を0.5,寄与度を0.5として,約580万円が認められた。
  • ( 2)避難関連死(死亡時67歳)の案件で,死亡慰謝料として,寄与度5割として800万円が認められた。また,逸失利益(年金)として,生活費控除率を0.5,寄与度を0.5として,約700万円が認められた。事故直後のH23.3月に亡くなったが,事故前にがんで入院しており,死因も食道がんだった。

営業損害

  • ( 1)申立人は,H16年に耕作放棄地(原発事故後,帰還困難区域)を取得し,整地・開墾を進め,様々な農作物を試験栽培し,H23.10月の農園の開業に向けて準備をしていたところで本件原発事故に見舞われ,避難を余儀なくされた。
      農作物販売の実績はなかったが,整地・開墾等の開業準備について記録・写真・領収証に基づいて主張立証した。
      開業準備に要した費用約236万円と,H23.3月からH29.5月までの逸失利益として,約2680万円が認められた(6年分の期待所得約3230万円に,実績がないことを考慮して0.8を乗じたもの)。
      その他,H16年に取得し,整地・開墾をした土地と土地上の建物について,購入価格の8割〜12割の賠償(約990万円)が認められ,開業準備のための農機具等の財物損害として,約247万円が認められた。
  • ( 2)自主的避難等対象区域で採石業・砂利採取業を営む法人の請求事例。経済産業省の出荷基準によれば「少なくとも表層5センチ以上除去した上で採取すべき」とされているところ,申立人は商品価値を考慮し表層5センチではなく20センチを除去することとし,除去した表土は除染等で使用される除染土封入袋に詰めて保管した。本件では,保管のために大量に購入した除染土封入袋等の費用を請求したところ,袋代の全額が追加的費用として認められた。
  • ( 3)自主的避難等対象区域で申立人が行っていた事業(合宿形式のセミナー等。場所は旧屋内退避区域)が原発事故により継続不能となった。申立人は,ライフワークとして,30年以上かけて事業地を開墾・整備し,セミナーを開催していた。和解案は,事業再開用地を購入したH25.8月末の時点で事業継続不能になったとして,その時点での申立人の稼働可能年数(9年)を基準にしたライプニッツ係数に,過去の申告書記載の逸失利益額(約1700万円/年)を積算して「廃業により事業価値を喪失したことに伴う損害」の賠償を認めた(約121百万円)。

就労不能損害

  • ( 1)労働基準法65条により,通常は働くことができない産前産後の期間について就労不能損害が発生するかが問題となった。産前休業は任意であることや直接請求で控除されていないことなどを指摘したところ,パネルは,事故がなければ産前産後休暇を取得しなかった可能性(出産しなかった可能性)もあると考え,14週間について,50%減額するにとどめた。
  • ( 2)東電の下請企業に勤め,福島第一原発内で働いていた申立人の事案。本件原発事故後,退職・再就職を何度か繰り返し,不安定な就労状況。「特別の努力」として,本件原発事故時からH26.2まで全額の就労不能損害を認めた。
  • ( 3)夫が事故前の住所地での元の勤務先に復職した事案につき,避難先で何度も就職先を探す努力をしたものの,見つけることができず,二重生活になるという苦渋の選択の末,従前の勤務先に戻ったことから,事故前の勤務先での勤務ではあるものの「特別の努力」が認められ,事故前の収入をもとに就労不能損害が認められた。

財物損害(不動産)

  • ( 1)居住制限区域所在の自宅建物の財物損害の事案。居宅建物について「東電基準のH23年平均新築単価(158,800円/㎡)×床面積×(1-0.4)×経過年数32年÷耐用年数48年」との計算式によって財物損害を算出。当該建物の新築価格を東電基準の平均新築単価方式で求め,残存価値を6割として減価償却し直したものと推測される。東電は避難指示期間割合36/72を主張したが,全損を認定した。全損認定の理由は,過去に営んでいた林業を再開することが困難であること,避難後に運転免許を返納し,帰還しても生活困難であること等。
  • ( 2)終の棲家として購入したが,事故時は別荘地扱いとなっていた避難指示解除準備区域所在の土地建物につき,全損の認定。申立人は首都圏に居住。認定金額の算定は,建築価格から48年経過時に6割の価値が残存することを前提に,経過年数で減価していった金額。なお,家財道具について,帰還困難区域・単身世帯の基準を準用し325万円を認定(申立ては夫婦2名分の請求)。
  • ( 3)避難指示解除準備区域から避難してきた60台夫婦の事案。夫は避難生活中に発症した糖尿病の悪化により糖尿病網膜症で視力が低下し,慢性腎不全で血液透析を受けている。治療の必要性と通院可能な千葉県で物件購入を検討していること等を主張した。和解案では,全損が認められた上,宅地について,所有土地の面積のうち250㎡について,「千葉県内の市町村のうち東京通勤圏の平均的な住宅地平均価格」として100,000円/㎡,借地割合について「千葉県内の市町村のうち東京通勤圏の借地権割合」として6割を採用し,250㎡超の部分については固定資産税評価額×1.43(8,437円/㎡),借地権割合2割を採用して約1625万円と算定した。建物(築20年)については,東電の認容額から新築価格を推計した上,新築後48年経過時の残存価値を新築時の6割として減価償却し,事故時の時価を算定し直した(約3200万円)。
  • ( 4)居住制限区域から避難している夫婦の事案。不動産はいずれも全損と判断。
    (全損と判断された理由)
    ・本件事故以前,申立人は農業を営んでいたが,現状,田畑は荒れ果て,家畜も  いない。
    ・申立人は高齢で持病の治療も行っており,避難生活により体力も急速に衰えている。自宅に戻っても農業を再開することはできない。
    ・申立人は車を運転できない。以前は行商人が各家を回って必要な物を販売してくれたが,今後は行商人が来ないと思われる。
    建物の建築年については陳述書から認定し,昭和36年以前建築の居住用建物について残存価値を6割として算定。非居住用建物及び構築物・庭木については東電基準・全損で算定。建物の財物損害は合計約2300万円

  • ( 5)避難指示解除準備区域からの避難者の事案。不動産の財物損害について全損を前提に,建物について,東電基準から想定新築価格を割り戻し,48年経過時の残存価値を8割として減価償却計算を行うなどして算定した(建物の財物損害の合計は約3100万円)。家財の財物損害も,帰還困難区域の東電基準を採用した。全損理由としては,不動産の傷みが激しい,放射線量が未だ高く除染が進んでいない,インフラも戻っていない,高齢の両親を介護している等の事情を主張立証した。
  • ( 6)所有する田(帰還困難区域所在)の財物損害について,東電が不動産鑑定士の調査報告書(800円/㎡)を提出したのに対し,福島県農業会議が作成した田畑売買取引等に関する調査結果(1000円/㎡)を提出して主張立証したところ,1000円/㎡で田の財物損害の賠償額が算出された。なお,借地権については借地権割合2割,敷地面積のうち200㎡は郡山市の地価公示価格(46,297円/㎡)を基準とし,その余の面積は固定資産税評価額×1.43を基準に算定された。建物については,耐用年数48年,残存価値8割で算定された。
  • ( 7)帰還困難区域からの避難者。宅地720㎡について,200㎡分を平成25年の郡山市平均地価公示価格(46,297円/㎡)で算定し,その余の520㎡を,東電算定額の㎡あたりの金額(16,364円/㎡)で算定。東電基準では約11,790,000円→和解案では17,770,000円。
     また,居住用建物について,固定資産評価額に基づく想定取得価格を用い,48年経過後の残存価値が8割として算定したり,建物平均新築単価に基づく想定取得価格を用い,48年経過後の残存価値が8割として算定したりした。
  • ( 8)避難指示解除準備区域からの避難者。事故後に静岡県内に土地・建物を購入。土地について,全損とした上,移転を考慮し,250㎡について,福島県内都市部住宅地地価として40,000円/㎡(中間指針第四次追補では38,000円/㎡)を採用。250㎡を超える部分については固定資産税×1.43の東電基準で算定。建物について,全損とした上,築48年経過時の残存価値を2割とする東電基準(平均新築単価方式)から想定新築価格を割り戻し,築48年経過時の残存価値を8割として減価償却した。さらに,平成14〜15年のリフォーム工事による価値増大分として,工事費用の1/3相当を加算した。
  • ( 9)避難指示解除準備区域指示からの避難者事例。営んでいた美容院の顧客も避難中であり,また避難先で既に職を得たなどの理由で,帰還が困難であるとして,不動産の全損が認められた。
  • (10)帰還困難区域からの避難者案件。未登記未課税の不動産につき,申立人本人と代理人とで床面積を測量した結果,一定額の賠償が認められた。
  • (11)帰還困難区域からの避難者。県内に購入した土地の登記費用(約24万円),仲介手数料(約100万円)を東電が「中間指針第四次追補記載の住居確保にかかる損害として全額認めます」と認否。
  • (12)居住制限区域から神奈川県への避難者。宅地について,250㎡までは(福島県内で最も地価の高い)郡山市の平均地価(46,297円/㎡)で算定。250㎡を超える部分は,東電の不動産調査書の標準宅地の地価(4,690円/㎡)×1.43×地域格差=6,181円/㎡で算定。
    建物は,床面積×H23年福島県平均新築単価(15.9万円/㎡)×残存価値80%で計算。神奈川県に土地を購入した際の仲介手数料・移転登記費用約100万円も認められた。
  • (13)避難指示解除準備区域内の不動産(将来的に自宅を建てようと計画していたが,本件原発事故時点では建てていなかった)について,全損を認め,取得価格に近い金額の賠償を認めた。
  • (14)居住制限区域の自宅A,避難指示解除準備区域の実家Bの不動産(土地・建物・田畑)について,いずれも全損と認めた。全損と認めた理由について,物件Aについては,依然として周囲の線量が高く,町の中心地が帰還困難区域であって帰還の目処が立たないこと,復興まちづくり計画があるが商店街について整備されるのは平成29年頃とされていることを調査官が口頭で説明。物件Bについては,当該不動産が森林の中にあり,森林の除染はほぼ不可能であること,申立人は井戸や沢水を利用していたが,これらの使用に不安が残ることを調査官が口頭で説明。申立人には可能であれば帰還する意向があり,建物については,残価率を4割として東電基準から修正した。

財物損害(家財)

  • ( 1)帰還困難区域からの避難者。元夫,本人,子どもで暮らしていたが,離婚して子どもを連れて実家に帰り,その直後に本件原発事故が発生した。家財道具の財物損害について,大人2人・子ども1人世帯の東電基準を3分の2(大人1人+子ども1人)にした金額を認めた。
  • ( 2)帰還困難区域からの避難者A+自主的避難等対象区域からの避難者BCの案件。帰還困難区域のA自宅の家財道具について,一人暮らしであっても,家屋が多数あり財物も多いこと,高価な財物があったこと(リストを提出)等を主張したところ,1人世帯の東電基準の325万円×1.5+40万円(仏壇分)が認められた。

財物損害(自動車)

  • ( 1)レッドブックによる下取り価格は19万円とされた車両につき,実際の下取り価格が8万円だったため,差額の11万円が損害と認められた。

財物損害(農機具)

  • ( 1)農機具の賠償額算定について,取得価格・取得時期・耐用年数のいずれについても客観的資料が不足している点があったことを考慮し,耐用年数を30年としたうえで,双方の主張を勘案して1000万円を賠償額とした和解案が提案された(東京電力の算定額は449万円程)。

<本件における立証>

 農機具の損害額は,避難前に使用していた農機具と同一のものを揃えるための再取得価格と主張した。
 避難前に使用していた農機具については,申立人らが撮影した写真と「減価償却資産一覧表」等で特定できたものを請求した。
 再取得価格の算出方法は,以下のとおり。

  • ① 減価償却資産一覧表に記載がある農機具は,同表記載の購入価格を再取得価格とした。
  • ② 減価償却資産一覧表に記載がないもののうち,写真からメーカー名や商品名等をある程度特定することができた農機具については,写真と同一又は同様の商品と思われるものがメーカーのHP上に記載があるものは,このHPの写しを証拠として提出し,HP記載の価格を再取得価格とした。HP上に記載がないものについては,写真と同一あるいは同様の商品の販売価格をメーカーに問い合わせ,聴取した金額を再取得価格とした。
  • ③ 申立人ら撮影の農機具の写真からメーカー名等の特定が困難であったものについては,本人申告の購入価格を再取得価格とした。
  • ④ 取得時期について,申立人らが主に農機具を購入していた農協から販売証明書を取り寄せるなどして特定できるものは特定し,その他は本人の陳述等により主張した。
  • ⑤ 耐用年数については,30年である旨の報告書を提出した。

弁護士費用

  • ( 1)損害額約174百万円のケースで,弁護士費用として3%・約523万円を認め,1億円を超える部分についても減額しなかった。損害額の中身は,避難費用,精神的損害,財物損害(土地,建物,家財)等で,金額に占める割合は財物損害が多い。

財物損害(その他)

  • ( 1)南相馬市小高区に一人暮らしをしていた方が,避難に伴う持病の悪化により,小高区に戻ることはできなくなったとして,避難先に約250万円でお墓を購入した事例につき, 小高区に所有していたお墓の価値等を考慮して150万円の賠償が認められた。

その他

  • ( 1)墓について,同等の墓を新たに建てるとした場合に概算で500万円との見積もりを提出して同額を請求。永代供養料20万円も請求。和解案は,墓石代300万円+永代供養料20万円を認めた。