和解事例集 III

原発被災者弁護団・和解事例集III

(平成25年7月〜平成25年12月)

平成26年2月26日 東日本大震災による原発事故被災者支援弁護団

  • ※ 原発被災者弁護団では,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原紛セ
    ンター」)への申立てをこれまで数多く行ってきました。この和解事例集は,その成果の一部をまとめたものです。いずれも,原紛センターが正式な和解案の提示を行った事件です。
  • ※ 内容に誤解を与えるおそれのある点が存在するなど,後日訂正の必要が生
    じた場合には,適宜更新を行いますので,よろしくご了承ください。
  • ※ 依頼者の個人情報に触れる場合など,事案の詳細についてご質問いただい
    てもお答えできない場合があります。ご理解下さい。
  • ※ 皆さま方の損害賠償請求の参考にしていただけたら幸いです。原発被災者
    弁護団ではこれからも情報発信を行っていきたいと存じますので,皆さま方の有益な情報もお寄せいただければ幸いです。

生活費増加分(食費以外)

避難費用

  • ( 1) 帰還困難区域からの避難者の事案で,電化製品・日用品等についてレシートを大量に提出し,約164万円の生活費増加費用が認められた。避難のため退職を余儀なくされたという事情があり,再就職のための就職活動用スーツ一式約6万円,再就職のための資格取得講座受講費用約7万円も認められた。

精神的損害(避難に伴う慰謝料)

  • ( 1) 帰還困難区域からの避難者2名(息子とその母親)の事案。息子は避難中に入院し,母親は避難中に認知症になっている。高齢かつ持病があることを理由にH23.3〜H24.8の18か月間について月3割の慰謝料増額(増額分100万円以上)が認められた。
  • ( 2) 広野町からの避難者の事案。広野町は東電基準では賠償の終期がH24.8だが,H25.6(和解直近時点)までの避難慰謝料を認めた。
  • ( 3) 南相馬市の旧屋内退避区域からの避難事例。申立人の1名に知的障害,1名に避難生活中の自殺未遂という事情あり。日常生活阻害慰謝料の増額分(H23.3.31〜H25.8.31)につき,パネルからの積極的な提示により,早期一部和解案段階で一人当たり月額6万円の増額が認められた。

精神的損害(死亡慰謝料)

  • ( 1) 帰還困難区域からの避難者の事案。本件原発事故当時,申立人の夫が末期がんで入院中であった。本件原発事故による転院で夫の体力は大きく消耗し,H23.3.22に死亡した。死亡慰謝料(遺族の慰謝料を含む)として440万円が認められた。

営業損害

  • ( 1) 申立人は,帰還困難区域で動物園類似の施設を営む法人。設立以降連続赤字だったが,設備投資やマスコミへのPRを行い,これから利益が出てくるだろうという矢先に本件原発事故が発生した。
    東電の認否は最低額の保障(月5万円)のみというものだったが,センターは,直近のH22年度の売上金額×平均利益率60%×減収率100%×4年分(H23.3〜H27.2)との計算で約1460万円の逸失利益を認めた。
  • ( 2) 静岡県の製茶機械メーカー4社の営業損害(間接損害)の事案。茶畑が汚染された結果,機械メーカーが損害を受けた。直接交渉時の東電回答はゼロ回答。和解案では,固定費・変動費の分類(貢献利益率の算定)についてはおおむね申立人側の主張が通った。「原発寄与度」が80%と認定された。4社合計で約831百万円の和解案(対象期間はH23.5〜H24.4〔各社によって多少異なる〕)。
  • ( 3) 自主的避難等対象区域で歯科技工所を営んでいた個人事業主の営業損害(風評被害)。基準年度の取扱いが論点になっていたところ,センターは申立人側の主張する過去3年分の平均を基準とすることをそのまま採用した。本件では,直近の平成22年度は従業員の退職により著しく売上が減少していた。
  • ( 4) 帰還困難区域で旅館を営んでいた申立人の事案。大量の営業動産類(客室用エアコン,遮光カーテン一式,食堂用テーブル一式等々)の財物損害を請求。購入金額ベースで2500万円を請求したところ,1800万円の和解案。事故時において購入時から3年以内のものは購入価格,それ以外は購入価格の3〜4割を認めた。
  • ( 5) 南相馬市にて家庭教師を行っていた方の営業損害について,源泉徴収票や確定申告書はなかったが,生徒の父兄から,受講料の領収書や就業状況報告書を入手して提出したところ,申立人の主張の8割の金額が認められた。
  • ( 6) 居住制限区域の事案。定年退職後,農業を始めることとし,H22.7に建物を新築して移住し,農業を開始。平成23年度において初めて,収穫した野菜を販売する計画であったため,販売実績がなかったが,作付面積あたりの期待所得等により営業損害を算定し,平成23年度は320万円,平成24年度以降350万円の5年分,計1720万円を認めた。
  • ( 7) 福島第一原発から30km圏外の精密機械加工会社の事案。家族経営の小規模な会社。H23.3.11〜H23.4.2に避難のため休業。この間に納期があった仕事について,キャンセルされた(①)。休業中にも従業員に給与を支払った(②)。事業再開後に,有能な職人であった従業員が放射能からの避難を理由に退社し,受注機会のロスが生じた(③)。③に伴い,一部の加工機械を稼働させずにいたところ,機械が故障して修理費用がかかった(④)。上記①〜④について請求したところ,③を除いて全額の請求を認める和解案。③については,東電の反論を一部採用し,出費を免れた変動費についても考慮して利益率を算定。原発寄与度を97%とした(震災の影響を考慮)。これにより,③については請求額から約40万円の減額。合計で約890万円の和解案。

就労不能損害

  • ( 1) 富岡町の工場に勤務していたところ,原発事故により工場が稼働停止となった。工場再開までの措置と説明を受けて他県への配転に応じたが,結局工場の再開がなく,福島での勤務ができなくなったことから退職したところ,他県での勤務時期(同一雇用先,雇用条件に変更なし)についても「特別の努力」があるとして,3割の就労不能損害が認められた。東電が反発したが,①妊娠中の妻,幼児1人を残して単身遠方に転勤したこと,②入社時「転勤はない」旨の説明があり,同僚も配置転換を命じられたことがないこと,③「2年で戻れる」という会社の説明を前提に転勤に応じたこと,を考慮したとセンターが説明し,和解案を維持した。

財物損害(不動産)

  • ( 1) 避難指示解除準備区域からの避難者の事案。建物4棟について,東電が認めたのは約1159万円であるのに対し,約4017万円を認めた(ただし保険金約1781万円を控除)。全損と認定。建物の一つについて,2階部分が平成13年に増築されたがその部分が大きいので,建物全体を平成13年築として東電基準をあてはめた。
    土地について,東電が認めたのは約307万円であるのに対し,全損と認めて避難指示期間割合を無視し,約921万円を認めた。
    家財について,東電が認めたのは約490万円であるのに対し,約1020万円を認めた。全損前提で,床面積が広く,土蔵もあることから,帰還困難区域の家財賠償額(大人3名)に1.5倍を乗じた。
  • ( 2) 避難指示解除準備区域の事案。建物・借地権について全損認定し,東電基準の全額を認めた。全損認定の理由は,①申立人は老後に農業を楽しむために移住し,雑誌に記事が載るなど工夫を凝らした農業を行っていた,②自宅から約200メートルのところに廃棄物仮置き場ができ,家の前を廃棄物を積んだトラックが頻繁に通ることになった,③自宅が相当汚損している,等によるもの。
  • ( 3) 帰還困難区域の事案。センターは,東電が先行して支払った建物の「補修費用」を建物の財物損害から控除しない和解案を示した。また,賃貸用不動産について,営業損害の賠償において減価償却費相当額(約250万円)の賠償を受けている点に関し,東電の主張を排斥し,当該賠償済み分を控除しなかった。
  • ( 4) 旧緊急時避難準備区域に申立人が所有する山林約17,000m²について,財物損害を認めた。申立人は同山林で平成22年秋から林業を始めようと準備していたが,原発事故のため断念した。申立人がサンプリングした地点における樹種・本数をもとに,木材価格の統計を用いて請求。センターは,利益率を0.5とし,さらに「山林の粗密の考慮」として0.4を乗じた金額として,約430万円を提示した。
  • ( 5) 帰還困難区域に所在する土地建物の財物損害の請求事案。居宅について,東電基準(残存価値2割)から新築価格を割り戻し,残存価値を7割として減価償却を再計算した。居宅の土地について,300m²までは移転希望先のいわき市の平成25年の平均売買単価で算定。300m²以上は,当該宅地所在地の公示価格で算定。自宅の土地建物で東電基準では合計約1900万円のところ,合計約3100万円の提示。
  • ( 6) 避難指示解除準備区域の宅地について全損認定し,東電基準(固定資産税評価額×1.43)の賠償を認める。全損認定の理由は,①放射線量が比較的高く,除染ができていない(家屋内で4.6µsv/hくらい),②インフラの回復が十分でない,③高齢者の一人暮らしで車もなく,独居で生活できない,④以上の事情により,今後も自宅に戻る予定が全くないなど。
  • ( 7) 避難指示解除準備区域内の土地建物の財物損害の事案。全損が認められた。建物については,取得価格×70%(残存価値)+(取得価格-残存価値)÷48年(耐用年数)×36年(耐用年数-経過年数/つまり未経過年数)の計算で約3200万円の賠償が認められた(東電基準では約2300万円 ※価値減少率6分の5)。宅地は,H9年取得時坪単価×面積の計算で約1700万円の賠償が認められた(東電基準では約970万円 ※価値減少率6分の5)。
  • ( 8) 帰還困難区域からの避難者の事案。借地権について,更地価格の2割として算定された。建物について,新築時点相当の価値の60%を残存価値の下限として算定するとされた。本体部分は36年経過,増築部分は22年経過と分けて算定。固定資産税評価額から新築時点相当の価値を割り戻し,(新築時点の価格)×60%(残存価値)+(新築時点の価格-残存価値)÷48年(耐用年数)×(耐用年数-経過年数/つまり未経過年数)の計算で算定した。本体部分と増築部分で合計約25百万円の賠償が認められた。
  • ( 9) 避難指示解除準備区域所在の不動産の財物損害。土地は,フラット35基準(フラット35利用者の宅地購入金額の全国平均)の1368万円を採用した。一般的にフラット35基準を採用するという趣旨ではないが,本件宅地の場合,取得価額や申立人提出の資料(H22年当時の不動産屋のチラシ),公示地価,地価調査などを検討した結果,フラット35による金額とそれほどの違いがないので,結果的にフラット35基準を採用したとのこと。
    建物については,全損扱いで東電基準(固定資産評価額方式)の金額(約1659万円)を認めた。「建物の修復費用等にかかる賠償金」約217万円は控除しなかった。なお,建物の取得価額は1300万円。
  • (10) 帰還困難区域の自宅土地建物の財物損害の事案。H23.10ころ,東京都内にマンションを購入。土地について,東京都内の地価は採用せず,自宅所在地の土地約450m²のうち,300m²について,平成23年郡山市の地価(1m²あたり41,800円)を基準として算定し,その余(約150m²)については自宅所在地の地価(固定資産税評価額×1.43)を基準として算定(約1500万円の和解案)。
    建物について,東電基準(残存価値2割で減価償却)から新築価格を割り戻した上,残存価値6割,耐用年数48年で減価償却を再計算(築23年)。構築物・庭木(東電基準)とあわせ,約2290万円の和解案。
  • (11) 居住制限区域の自宅土地建物の財物損害の事案。平成17年に中古で自宅土地建物(平成12年築)を購入。事故後間もなく避難し,平成23年10月,いわき市内の仮設住宅に入居。平成25年5月にいわき市内に新築の土地建物(建売り)を約2300万円で購入。
    居住制限区域であるが,全損認定。
    土地について,旧自宅は約360m²で,いわき市の新居は約250m²であったところ,いわき市の平均地価基準で300m²の価格を算定し,旧自宅に比べて不足する60m²については旧自宅所在地の地価をベースに算定して加算。東電基準(全損の場合)に比べて約500万円上乗せ。
    建物について,東電基準(固定資産評価額ベース/残存価値2割の減価償却)から新築価格を割り戻し,残存価値7割として減価償却をし直す計算。さらに,建物リフォーム費用の半額を上乗せ。東電基準(全損の場合)に比べて約350万円上乗せ。構築物・庭木は,東電基準(全損の場合)に,外構工事費用の半額95万円を上乗せ。

財物損害(家財)

  • ( 1) 居住制限区域の大人2世帯(夫婦)のうち1名のみが和解仲介手続を申  し立てたケースで,大人2世帯の東電基準の2分の1の金額に,高価品(着物,箪笥等/写真等の証拠なし)の存在を考慮して50万円を上乗せし,272万5000円を認めた。
  • ( 2) 避難指示解除準備区域内に別宅不動産を所有していた単身者において、H19年に亡くなった母親の分と合わせて実質的には2人世帯と評価され,さらに高額な家財があったことから,請求額満額の800万円が認められた(東電は直接請求では「避難者でない」として一律10万円の扱いをしている)。

財物損害(自動車)

  • ( 1) 富岡町からの避難者の案件。普通乗用自動車の財物損害について,一般財団法人日本自動車査定協会の推定評価額を基準に請求したところ,全額認められた。

財物損害(その他)

  • ( 1) 本件原発事故当時から首都圏に在住している申立人の事案。所有している墓地が帰還困難区域にあり,墓地の財物損害を請求した。20年前にお墓を建てた際の墓石代145万円,土地使用料20万円の見積書を提出。165万円全額が認められた。
  • ( 2) 浪江町からの避難者の事案。地鎮祭の祝儀でもらった現金(40万円)と高価品(50万円)が空き巣被害にあった。原発事故の寄与度を50%として,45万円が認められた。
  • ( 3) 浪江町からの避難者の事案。お墓(永代使用料含む)の賠償として370万円が認められた。

風評被害

  • ( 1) 宮古湾近辺で採れる魚介類・加工食品の販売を営む有限会社の風評被害等の事案。H23.3〜H25.3の逸失利益について,売上減少額(約102百万円)×貢献利益率(32%)×原発事故の寄与度(75%)=約2463万円,さらに検査費用,弁護士費用を加えて2575万円の賠償を認めた。

弁護士費用

  • ( 1) 静岡県の製茶機械メーカーの間接損害の事案。営業損害約397百万円に対し,弁護士費用を「1億円以下は3%,1億円超の部分は1.5%」で計算。
  • ( 2) 弁護士費用について,仮払補償金控除後の損害額の3%という基準で和解案が提案された例が少数あったが,多くの和解案は仮払補償金控除前の損害額の3%という基準で算定していることを指摘したところ,修正された。

自主的避難者案件

  • ( 1) いわき市に居住していた夫婦の案件。原発事故後,夫が就労先から解雇。夫婦は東京に避難していたが,収入が途絶えたこともあり,東京の借上げ住宅で避難生活を継続。夫は就職活動のため,東京・福島間を往復。夫の就労不能損害が平成25年8月分まで(和解の直近時点),交通費含めて約745万円認められた。避難自体の合理性は6か月に限って認められ,妻の就労不能損害は6か月分の限度で認められた。夫婦で損害額合計約850万円。

手続的問題

  • ( 1) 平成25年9月中旬から,センターが清算条項中に「本和解に定める金額に係る遅延損害金につき,申立人は被申立人に対して別途請求しない」との条項を置くようになった。従前は,精神的損害や財物損害等の損害項目については,清算条項の対象から外されていたので,和解後に遅延損害金を別途請求することも可能だったと解され,申立人にとって不利益な変更となっている。
  • ( 2) 遅延損害金不請求条項について,「ただし,財物損害にかかる部分を除く。」とされた例。
  • ( 3) 財物損害・慰謝料について清算条項の対象外とされ,遅延損害金不請求条項が付されなかった例。和解案提示時期はH25.10下旬。
  • ( 4) センターからの和解案提示後に東電側が意見書や上申書を提出し,和解案に対して異議を述べ,回答を留保したり変更を求めたりするケースが多数あり。ほとんどのケースでは,センター側が和解案を維持する旨述べて諾否の回答を迫ると,最終的には東電は和解案を受諾しているが,このような東電側の和解案を尊重しようとしない対応が和解仲介手続を無駄に引き延ばしている。